1980年代に初めて日本で確認されたエイズ患者。今ではエイズやHIVへの理解も深まり、以前ほど啓発系のCMや広告も少なくなったように思えます。
あまり知られていませんが、エイズ患者は障害者としての認定を受けることができ、障害者手帳の交付や障害年金の受給が可能です。ただ、ここ最近では障害者認定も少し難しくなっているという事情もあります。
今回はエイズ患者やHIV感染者が障害者手帳を持っている理由について、これまでの経緯や昨今の事情などを踏まえて解説いたします。
エイズとは?患者数の動向と症状
エイズとは、HIVウイルスに感染することで体内の免疫機能が低下し、普通はかかりにくい病気になったり、出血が止まらなくなったりという様々な症状を引き起こす病気です。
そもそもエイズとHIVの違いというのをご存知でしょうか。上記2つは以下の違いがあります。
- 【HIV】
- Human Immunodeficiency Virusの略でヒト免疫不全ウイルスのことを指す
- 【エイズ(AIDS)】
- Acquired Immuno-Deficiency Syndromeの略で後天性免疫不全症候群のことを指す
つまり、HIVがウイルスの名前であるのに対し、エイズはHIVに感染したことにより免疫機能が低下し、様々な症状を引き起こしている状態を指すのです。
エイズやHIVの患者数は統計が取られており、1985年以降における国内患者数の推移は以下のようになっています。
【出典】厚生労働省エイズ動向委員会
2008年頃まで急激に増加していたもののその後は横ばいを続け、現在は若干ながら減少傾向です。
2017年のHIV新規感染者の数は1000人を下回っていますが、これは全体の患者数が減ったのではなく新規に感染する人が減ったということです。毎年1000人近くの人がHIVに感染している事実は軽視できません。
また、発症してからエイズだと判明するケースもあります。上記グラフではエイズ患者の数が400人前後ですが、判明していない人も含めれば実際にはもっと多いのではないかと予想されます。
エイズ患者が身体障害者の認定を受けるまでの経緯
一般に障害者というと、四肢の不自由な身体障害者のイメージが強いと思いますが、エイズ患者は障害者として認定されれば身体障害者手帳の交付を受けられます。
ただ、エイズ患者が障害者として認定されるようになるまでには、大変な苦労がありました。
エイズ患者の福祉体制が整うまでの経緯を詳しく解説している「特定非営利活動法人 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」の一部を要約してご紹介します。
1985年3月 | 厚生労働省が男性同性愛者で日本人初となるエイズ患者の存在を発表 |
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1986年以降 | 「エイズパニック」と呼ばれる差別的な行為が全国各地で見られた |
1989年2月 | 「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」が施行される ※のちに廃止 |
1989年以降 | 東京、大阪でのHIV訴訟やデモ活動が行われる |
1996年3月 | HIV訴訟の和解が成立し障害者手帳の交付が約束される |
1998年4月 | 「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害」による身体障害者を認定 |
1999年4月 | 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行される |
【出典】日本におけるHIV/AIDSの歴史「薬害HIV感染」
1985年に日本でエイズ患者が確認されてから、障害者認定されるまでに実に14年もの歳月がかかっています。
その間には今では考えられない差別意識の蔓延や数千人規模の薬害エイズ患者らによる裁判もあり、重大な出来事だったことがよく分かります。
エイズ患者が身体障害者手帳を持っている理由
エイズ患者と認定されれば、身体障害者としての認定を受けて障害者手帳の交付を受けられますが、法的にどう規定されているのか考えていきましょう。
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」は、あくまでエイズを含めた感染症の蔓延や予防、医療機関の適切な措置について定めるもので、障害者手帳について触れていません。
そこで身体障害者福祉法における身体障害者の定義を見てみると以下のように規定されています。
【身体障害者福祉法 第4条】
この法律において、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であって、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。【引用】e-Gov「身体障害者福祉法」
ただ、この条文に出てくる「別表」を見ても、HIVやエイズ、ヒト免疫不全ウイルスなどの言葉は一切なく、エイズ患者が身体障害者として認定される法的根拠がどこにあるのか非常に分かりづらくなっています。
更に調べていくと、「身体障害者福祉法施行令」でようやくエイズ患者を身体障害者であると定めているという事が分かります。
【身体障害者福祉法施行令 第36条】
別表第五号に規定する政令で定める障害は、次に掲げる機能の障害とする。
一 ぼうこう又は直腸の機能
二 小腸の機能
三 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能
四 肝臓の機能
つまり、「身体障害者福祉法施行令」に定められた障害であると確認されれば、「身体障害者福祉法」における身体障害者の定義に当てはまることになり、障害者手帳の交付が受けられるということになるのです。
エイズ患者を取り巻く福祉の現状
エイズ患者も障害者手帳の交付が受けられるという事実を考えると、福祉の充実によりたとえエイズを発症しても生活面での不安は軽減されそうにも思えます。
ただ、実はエイズ患者を取り巻く福祉の現状には不安の声があります。
少し古い情報ですが、毎日新聞の以下の記事では障害者年金が支給停止になったHIV感染者へ取材を行い、生活に困窮する事例が増えていると報じています。
【参考】HIV障害年金 感染者、停止に悲鳴 薬害患者「いじめだ」背景に給付抑制策か
また、上記とは別に一般社団法人障害支援センターが運営するコラムにおいても、HIV感染者の障害者認定が厳しくなっていると伝えています。
【参考】障害年金サポートサービス「HIV感染症になってしまったら、障害年金はもらえますか?」
上記の根拠は、医学的進歩によりHIVに感染したとしても薬物治療等でエイズの発症を抑えられるまで医療技術が発展してきているということです。
つまり、HIVに感染しただけでは必ずしも生活に支障をきたすとは言い切れないため、障害者年金はおろか障害者手帳すら発行されない可能性があるのです。
エイズ患者が障害者認定されるようになった当時、ここまで治療が進歩するとは想定されなかったのも知れません。
しかしながら、今の日本は人口減少や高齢化、そもそも福祉制度における財政難などの問題もあります。
エイズ発症が一つの基準となるHIV感染者にとって、日本の障害者福祉の現状は厳しいと言わざるを得ません。
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