障害者雇用は増えているのに障害者の平均賃金が下がっている理由

障害者雇用は増えているのに障害者の平均賃金が下がっている理由

厚生省 令和元年障害者雇用状況の集計結果」によると、雇用障害者数は56万608.5人、対前年4.8%(2万5,839人)増加、実雇用率2.11%、対前年比0.06ポイント上昇と過去最高を更新しています。

障害者の雇用自体は増えているのになぜ平均賃金が下がっているのか?障害者雇用に格差はあるのでしょうか。

障害者の平均賃金や雇用状況の実態と今後の見通しについて、厚生省の障害者雇用実態調査を基に読み解いてみましょう。

身体障害者の平均賃金・労働時間・雇用形態の推移

まず身体障害者の平均賃金です。平成25年度と30年度では以下のようになっています。

身体障害者の平均賃金
● 平成25年:223,000円
● 平成30年:215,000円

身体障害者の場合、平均賃金は5年前と比べて8,000円のマイナスになっていることが分かります。

次に労働時間のグラフを見てみましょう。

週30時間以上働く人は、平成25年に比べて約2%の減少となっていますが同じように週20時間未満で働く短時間雇用の割合も2%減少し、その分週20時間~30時間のミドルタイムで勤務する割合が増えているのが特徴です。

なお、身体障害者の雇用形態は以下の通りとなっています。

正社員雇用は約3%程減少しているのも平均賃金の差に繋がっていると言えるのではないでしょうか。

身体障害者の雇用の特徴として、平均年数が10年と長く、事務的作業が32.7%を占めています。待遇的にも安定しているのが窺えます。

知的障害者の平均賃金・労働時間・雇用形態の推移

続いて、知的障碍者の平均賃金を見ていきましょう。平成25年度と30年度では以下のようになっています。

知的障害者の平均賃金
● 平成25年度:108,000円
● 平成30年度:117,000円

知的障害者の賃金全体平均については9,000円アップしています。知的障害者では20~24歳の若年層の雇用者が23.6%と多く、この層が新規に増えた事で、雇用者数の底上げに繋がっていると考えられます。

次に労働時間のグラフを見てみましょう。

賃金がアップしているのに比例して、勤務時間もその分長くなっています。約96%の方が20時間以上働いていることになります。

なお、知的障害者の雇用形態は以下の通りとなっています。

正社員の割合が1%増えていますがほぼ変わりはありません。身体障害者に比べて正社員の率がかなり低い事が見て取れます。

知的障害者の平均勤続年数は7年5ヶ月と、正社員数は少ないものの、安定して働くことができている方が多数です。知的障害者の雇用者の64.5%が34歳以下と若いことと合わせて考えてみると、この平均勤続年数はかなり優秀な数字です。

職種としては生産工程の仕事が37.8%と最も多く、次いでサービス業が22.4%と約6割を占めています。

精神障害者の平均賃金・労働時間・雇用形態の推移

最後に精神障害者の平均賃金を平成25年度と30年度で見ていきましょう。

精神障害者の平均賃金
● 平成25年度:159,000円
● 平成30年度:125,000円

精神障害者の平均賃金は5年間で3.4万円下がっていますが、平成20年度の調査では129,000円のため、平成25年度に一時的に上がっただけとも考えられます。

次に労働時間をグラフで見ていきましょう。

身体障害者と知的障害者の労働時間が5年前の調査とほぼ変わらないのに対して、精神障害者は30時間以上の雇用者が20%と大きく減少しています。このことも平均賃金を下げている要因の一つと言えるでしょう。

なお、精神障害者の雇用形態は以下の通りとなります。

正社員の割合が15%と大きく減っていることが特徴的です。職業でみるとサービス業の30.6%が最も多く、次いで事務職が25%と二つの職種合わせて過半数以上を占めています。正社員の雇用数が減った事が、賃金や労働時間の平均を押し下げている理由でしょう。

精神障害の雇用者は年齢でいうと45才から49才が18%と最も多く、35才から54才がボリュームゾーンです。平均勤続年数も3年2ヶ月と短い傾向があり、一度離職すると正社員で再就職する事が難しい年齢であることも要因の一つに考えられます。

障害者雇用が増えたことにより働き方が多様化している

「障害者雇用実態調査」からわかったことをまとめると、以下の3つのことが言えます。

1. 身体障害者は平均勤続年数も平均賃金も比較的安定している
2. 知的障害者は若年者層の雇用が増え、平均賃金も上がっている
3. 精神障害者は前回の調査から比較して正社員の割合が大幅に減少している

全体の平均賃金を下げている要因は3.の影響が大きいと考えられるでしょう。

厚生省が発表した「平成30年障害者雇用状況の集計結果」によると、法定雇用率達成企業の割合は45.9%と依然として厳しい状況にあります。今後達成企業の割合がどう変化していくかも、障害者の雇用状況や賃金に大きな影響を与えていくと考えられます。

しかし雇用数は年々増加しているため障害者にとっては就業する機会が増え、仕事に対する窓口が広がっていることは確かです。障害の程度によってはなかなか就業するチャンスがない場合もありますが、諦めずにチャレンジすることが大切です。

平均賃金が下がる理由として、平成25年と平成30年の「厚生省 障害者雇用実態調査」の推移から見ると、大きな理由としては精神障害の方の正社員の割合が大きく減ったことが挙げられます。

その要因ははっきりとはしませんが、その他の身体障害については少しの賃金減少に留まり、知的障害については賃金が上がっています。

以上の調査結果をまとめると、「全体の障害者の平均賃金」で算出してしまうと平均賃金は下がる傾向にありますが、必ずしも「全体的に賃金が低い」わけではないと言えるでしょう。

【出典】
厚生労働省 – 平成25年度雇用実態調査 / 平成30年度雇用実態調査

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