障害者の差別や偏見をなくす「ノーマライゼーション」の語源や取り組みについて解説

障害者の差別や偏見をなくす「ノーマライゼーション」の語源や取り組みについて解説

あまり耳にする機会は多くありませんが、障害者の差別や偏見をなくすための基本的な考え方として「ノーマライゼーション」というものがあります。

ノーマライゼーションとは、普通の生活を送るには助けが必要な高齢者や障害者などにも、ハンデのない人と同じ人権や生活水準を確保しようという考え方です。

身近な例で言えば、駅に最近増えてきたエレベーターやスロープなどのバリアフリー設備、障害者雇用の各制度もノーマライゼーションの一つです。

しかし、ノーマライゼーションの考え方には明確な定義やルールが存在するわけではなく、「ノーマライゼーションって何?」と言われると、一言では説明しにくいかも知れません。

今回はノーマライゼーションの概要や考え方が生まれたきっかけ、具体的にどういうことがノーマライゼーションなのかということを考えてみたいと思います。

差別や偏見を排除するノーマライゼーションの概念

「ノーマライゼーション」という言葉自体、聞き慣れない、馴染みもないという方は多いかと思います。

ノーマライゼーションの語源は、「Normal(ノーマル)」に「nize(ナイズ)」「zation(ゼーション)」という接尾辞が付くことで「ノーマル化」という意味に変化した言葉です。綴りが「Normalization」ですので、「ノーマリゼーション」と呼ばれることもあります。

ノーマライゼーションは障害者に関連する話題以外でも使われる言葉ですが、障害者や社会福祉に限れば、以下のような意味になります。

「誰もが同じ水準の社会生活を送ることは人間としての当然の権利であり、障害の有無に関係なく、当然のことを当然にできる社会を目指すこと」

ノーマライゼーションというのは、その言葉が何か特定の事象や定義を示すものではなく、一つの「考え方」なのです。

言葉の解説は人によって異なるかも知れませんが、重要なのは「障害の有無は関係ない」「誰もが同じ水準の社会生活を送ることができる社会を目指す」という事です。

ノーマライゼーションが生まれるきっかけとなった「1959年法」

そもそもノーマライゼーションとは誰が何をキッカケに言い出した言葉なのでしょうか。

ノーマライゼーションを説明する上では、「ニルス・エリク・バンクミケルセン」「1959年法」というキーワードがポイントになります。

第二次世界大戦中、デンマークのニルス・エリク・バンクミケルセンはナチスの強制収容所に収監されていたことがありました。

戦争が終わり、世界が徐々に平和を取り戻してきていた頃、ニルス・エリク・バンクミケルセンは知的障害者が隔離施設に収容されている状況を見て、過去の自分を思い出し、疑問を感じたのだそうです。

当然、そんな非人道的な状況は障害者の親たちも同じ気持ちであり、1952年にニルス・エリク・バンクミケルセンらにより「親の会」が発足します。そして、以下のような考え方を盛り込んだ報告書が作成されました。

「ハンデを負う人にも人格はあり、ノーマルな生活を送る権利を持っている。社会はこの人々が普通に生活する条件を作る責任がある」

その後、親の会は上記の報告書をデンマーク議会に提出します。そして1959年、世界で初めてノーマライゼーションという考え方が盛り込まれた「知的障害者福祉法」が成立したのです。

今では、この知的障害者福祉法を「1959年法」という言葉に置き換えられて使われることも多くなりました。ただ、1959年法はあくまでノーマライゼーションの考え方が生まれたキッカケとなるもので、世界中にノーマライゼーションが広がっていくのはもう少し後のことです。

ベンクト・ニィリエの「8つの原理」と国際連合の「障害者の権利宣言」

ここまでノーマライゼーションの意味と、その考え方のキッカケとなった出来事をご紹介しましたが、1959年法が成立して以降、徐々に世界中にその考え方が広まるようになりました。

1960年代には、ノーマライゼーションを研究していた「ベンクト・ニィリエ」が、知的障害者がノーマルな生活を送るための生活リズムと生活環境を体系化し、8つの原則として示しています。

・1日のノーマルなリズム
・1週間のノーマルなリズム
・1年間のノーマルなリズム
・ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験
・ノーマルな個人尊重と自己決定権
・ノーマルな性的文化
・ノーマルな経済水準とそれを得る権利
・ノーマルな環境形態と水準

この原則が世界に広まったことで、ベンクト・ニィリエは「ノーラマライゼーションの育ての親」と呼ばれるようになりました。対して、前章でご紹介したニルス・エリク・バンクミケルセンは「ノーマライゼーションの生みの親」と呼ばれています。

その後ノーマライゼーションは、いよいよ国連でも議論されるようになり、1975年、ついに「障害者の権利宣言」が採択され、障害者の権利を保護するための国際的な指針が定められました。

※障害者の権利宣言はかなり長い条文ですので、また別の機会にご紹介します。

日本のノーマライゼーションに対する姿勢と取り組み

ノーマライゼーションの考え方はこれまで紹介したきっかけや考え方が基であり、今では障害者差別や偏見を是正するために各国で措置が行われています。

では、わが国日本ではノーマライゼーションの考え方に対し、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

最初にお伝えした通り、ノーマライゼーションは一つの考え方であるため、どの取り組みがノーマライゼーションだと安易に切り分けるものではありません。

よって、日本の法律で言うのであれば、以下は全てノーマライゼーションの考えに沿うものと言えるでしょう。

・障害者基本法
・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律
・身体障害者福祉法
・知的障害者福祉法
・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
・障害者の雇用の促進等に関する法律

上から順に解説すると、まずは障害者の人権を尊重すべきとする「障害者基本法」がすべての基本となります。

続いて、障害者が障害を持たない人と同じ生活水準を保持できるよう、障害者の差別を禁ずる法律、障害者の社会生活の支援や福祉の充実を図ることを目的とした法律が並びます。

そして最後の障害者雇用促進法によって、障害を持たない人と同じ雇用の機会を確保する権利も保護しています。

さらに内閣府では「障害者基本計画」というものも制定し、以下を掲げています。

【社会のバリアフリー化の推進】
【利用者本位の支援】
【障害の特性を踏まえた施策の展開】
【総合的かつ効果的な施策の推進】
 ・行政機関相互の緊密な連携
 ・広域的かつ計画的観点からの施策の推進
 ・施策体系の見直しの検討

障害者基本計画の内容も細かく取り決めがありますが、また別の機会にご紹介したいと思います。

日本は国際社会と連携してノーマライゼーションを進めてきましたが、特に障害者雇用の分野においては、企業側のノウハウや理解が十分とは言えず、そもそも社内での受け入れ体制が整っていない、障害者の離職率も高いという現実があり、まだまだノーマライゼーションの実現に向けた課題は数多く残されている状況と言えます。

日本という国で、これまで以上にノーマライゼーションを進めていくためには、企業と個人による障害者への理解と配慮、それを促すための国の求心力を今後さらに高めていく必要があるでしょう。

まとめ

今回解説したノーマライゼーションですが、何も難しく考える必要はありません。

元々はニルス・エリク・バンクミケルセンが中心となって発足した親の会による「ハンデを負う人にも人格とノーマルな生活を送る権利はある。社会はそれを実現する責任がある。」という言葉こそがノーマライゼーションの基本です。

この「社会」という言葉の中には、私たち個人や企業、国といったものすべてが含まれています。

まずは個人が「障害者を理解する」ことを始めとして、企業が「障害者雇用と配慮の義務」を果たし、国はこれまで以上に「ノーマライゼーションを実現するための施策を拡充する」ことが、今後の日本におけるノーマライゼーションの大事な柱となるのではないでしょうか。

ノーマライゼーションとインクルーシブの違いとは?日本のインクルーシブ教育の課題

執筆者プロフィール

TOPへ