「知らなかった!」日常生活に潜むユニバーサルデザイン7選:あなたの暮らしをもっと快適にする工夫

「知らなかった!」日常生活に潜むユニバーサルデザイン7選:あなたの暮らしをもっと快適にする工夫

シャンプーボトルのギザギザから駅のホームまで、実はあなたの身近に溢れるユニバーサルデザイン。普段意識しない「思いやり」の工夫が、私たちの暮らしをどれほど快適にしているか、7つの事例でわかりやすく解説します。

毎日、私たちは何気なくさまざまな製品を使い、場所を行き来しています。その中で、「これって便利だな」「使いやすいな」と感じる瞬間はありませんか?実はその便利さの裏には、ユニバーサルデザイン(Universal Design:UD)という、私たちの暮らしをより豊かにする素晴らしい考え方が隠れているかもしれません。

ユニバーサルデザインとは?

ユニバーサルデザインとは、特定の誰かだけを対象にするのではなく、年齢や性別、能力、経験、身体状況などに関わらず、すべての人々が可能な限り最大限に利用できるような製品、サービス、そして環境をデザインするという普遍的なアプローチを指します。それは、障害の有無や個々の特性にかかわらず、誰もが快適に、そして安全に社会に参加できるように工夫された、「思いやり」に満ちたデザインと言えるでしょう。

この考え方は、「バリアフリー」と混同されることが少なくありません。しかし、バリアフリーが既に存在する障壁を取り除く「後付けの改善」であるのに対し、ユニバーサルデザインは最初から誰もが使いやすいように設計段階で配慮するという根本的な違いがあります。つまり、障害の有無にかかわらず、誰もが最初から当たり前に使える状態を目指しているのです。

本記事では、皆さんの身近に隠れている「知らなかった!」ユニバーサルデザインの具体例を7個ご紹介します。これを知れば、今日からあなたの日常がもっと快適に、そして少しだけ世界を見る目が変わるはずです。私たちが普段意識しない「小さな工夫」が、いかに多くの人々の生活を支え、より包摂的な社会の実現に貢献しているのか、その深さに迫ります。

ユニバーサルデザインの根幹をなす「7原則」

具体的な事例に入る前に、ユニバーサルデザインの理論的な基盤となる「ユニバーサルデザインの7原則」について理解を深めておきましょう。これは、米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス教授らが提唱したもので、ユニバーサルデザインを評価し、実践するための指針となります。これらの原則が満たされることで、より質の高いユニバーサルデザインが実現されます。

1. 公平な利用 (Equitable Use):誰にとっても公平に利用できること。
例:障がいのある人もない人も、同じエントランスをスムーズに利用できる構造。

2. 利用における柔軟性 (Flexibility in Use):さまざまな状況や能力に対応できること。
例:左右どちらの手でも使えるハサミや、多様な持ち方に対応する筆記具。

3. 単純で直感的な利用 (Simple and Intuitive Use):利用方法がシンプルで分かりやすいこと。
例:初めて使う人でも直感的に操作できる公共交通機関の券売機。

4. 分かりやすい情報 (Perceptible Information):必要な情報が誰にでも伝わりやすいこと。
例:視覚・聴覚障がい者向けの多重表示(音声案内、点字、字幕、ピクトグラムなど)。

5. 間違いの許容 (Tolerance for Error):誤操作が起きにくく、誤操作が起きても大きな問題にならないこと。
例:押し間違いを防ぐボタン配置や、危険な操作を自動で停止する安全機能。

6. 少ない身体的な負担 (Low Physical Effort):無理なく、楽に利用できること。
例:軽い力で開けられる自動ドアや、長時間使用しても疲れにくい工具。

7. 接近と利用のためのサイズと空間 (Size and Space for Approach and Use):どんな体格の人でも、楽に利用できるスペースとサイズがあること。
例:車いす利用者も無理なく方向転換できる十分な広さのトイレ空間。

これらの原則を踏まえることで、私たちがこれから紹介する具体的な事例の「なぜ」がより深く理解できるはずです。

あなたの知らない「なるほど!」ユニバーサルデザイン事例7選

私たちの暮らしの中に溶け込んでいるユニバーサルデザイン。普段は意識していなくても、その恩恵を私たちは日々受けています。ここでは、特に「そうだったのか!」と感じるような身近で具体的な事例を7点ご紹介しましょう。それぞれの事例が、どのように「誰もが使いやすい」を実現しているのか、深く掘り下げていきます。

1. ノンステップバス・低床電車

バスや電車に乗る際、入り口の段差がほとんどないと感じませんか?これは、高齢者や車いす利用者、ベビーカーを押している方、あるいは大きな荷物を持っている方など、誰もがスムーズに乗り降りできるよう、床が低く設計されたユニバーサルデザインです。乗り降りの際の転倒リスクを減らし、移動の障壁を大幅に低減します。公共交通機関における「公平な利用」と「少ない身体的な負担」を追求した、現代社会に不可欠なインフラと言えるでしょう。

2. 自動販売機の低いボタン/投入口

ジュースの自動販売機で、手が届きやすい低い位置にボタンや硬貨の投入口があるのを見たことはありませんか?これは、車いす利用者や小さなお子さん、あるいは身長の低い方でもストレスなく利用しやすいように配慮されたユニバーサルデザインです。これにより、自分で飲み物を選び、購入するという一連の行動がスムーズに行え、誰もが自立してサービスを利用できる環境を提供しています。これは「接近と利用のためのサイズと空間」および「公平な利用」の原則に基づいています。

3. 缶飲料の「点字」と「くぼみ」

ビールやチューハイの缶の側面に小さな点字があるのをご存じでしょうか。これは視覚に障がいのある方が、飲み物の種類(主に「おさけ」の表示が多いです)を識別できるようにするためのユニバーサルデザインです。誤って口にすることがないよう、細かい部分にまで安全への配慮が行き届いています。さらに、近年では特定保健用食品(トクホ)の飲料缶に、指で触れるとわかる「くぼみ」がつけられているものもあります。これは、目が見えなくてもトクホ飲料であることを識別できるようにする工夫で、より幅広い飲料に対応したユニバーサルデザインの進化と言えるでしょう。これらは「分かりやすい情報」の具現化です。

4. 公共施設やウェブサイトのピクトグラム

「非常口」や「お手洗い」「エレベーター」など、世界中で共通認識されているピクトグラム(絵文字)もユニバーサルデザインの極めて重要な要素です。言語や文化に関わらず、誰もがパッと見て情報を理解できるようデザインされています。特に駅や空港、観光地など、多様な国籍の人が行き交う場所では、言葉の壁を越え、必要な情報を迅速かつ正確に伝えるための重要な役割を担っています。これは「分かりやすい情報」と「単純で直感的な利用」の原則が融合した、国境を越えるデザインです。

5. ユニバーサルデザインフォント

パソコンやスマートフォンの画面、あるいは公共の案内板などで使われる文字の形状にも、ユニバーサルデザインの考え方が深く浸透しています。「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」とは、弱視の方や識字障がいのある方、高齢者、あるいは遠くから見る人など、誰もが読みやすいように設計されたフォントを指します。例えば、誤認しやすい文字(「O」と「0」、「l」と「I」など)の区別がつきやすくなっていたり、文字と文字の間隔が適切に調整されていたりします。また、太さやコントラストも読みやすさに配慮して設計されており、情報のアクセシビリティを大幅に向上させます。これは「分かりやすい情報」の原則を、文字という根幹から支えるものです。

6. 左右対称のハサミや食器、握りやすいドアノブ

多くのハサミは右利き用に作られていますが、最近では左右対称で利き手に関わらず使えるハサミも増えています。これは、右利き・左利きの区別なく、誰もが同じように道具を使えるようにする配慮です。また、食器においても、持ちやすいように工夫された形状や、滑りにくい素材が使われたものが増えています。さらに、公共施設のドアノブも、握力の弱い人でも使いやすいレバー式やプッシュ式が採用されることが多くなりました。これらは、特定の利き手の人や身体能力の人だけが使いにくいと感じることがないよう、「利用における柔軟性」と「少ない身体的な負担」を追求したユニバーサルデザインの一例です。

7. 音声案内・多言語対応の表示システム

駅の構内放送やATM、観光案内、美術館の展示解説などで、音声案内や複数の言語での表示があるのも重要なユニバーサルデザインです。視覚に障がいのある方や、聴覚に障がいのある方、あるいは日本語を母語としない外国籍の方など、多様な利用者がそれぞれ適した方法で必要な情報を得られるように配慮されています。情報の多重化と多様なアクセス経路の提供により、情報格差をなくし、誰もが安心して社会生活を送れるようにするための重要な取り組みです。これは「分かりやすい情報」と「公平な利用」の原則を高度に実現しています。

身近なユニバーサルデザインがもたらす「快適」な暮らしと社会への貢献

今回ご紹介したユニバーサルデザインの事例は、ほんの一部に過ぎません。私たちの身の回りには、意識せずとも多くのユニバーサルデザインが溶け込み、私たちの生活を支え、より快適で安全なものにしてくれています。

これらのデザインは、特定の誰かだけを「助ける」という狭い意味合いにとどまりません。例えば、ノンステップバスは、車いす利用者や高齢者だけでなく、大きな荷物を持った人、ベビーカーの親子、怪我をして一時的に松葉杖を使っている人など、多様な人々が利用しやすいという共通のメリットがあります。それは、誰もが「普通に」社会に参加できる環境を創り出すことで、私たち一人ひとりの生活の質(QOL)を高めることに繋がります。

ユニバーサルデザインの考え方が社会全体に浸透することは、単なる利便性の向上以上の意味を持ちます。それは、多様な人々がお互いを尊重し、それぞれの違いを強みとして認め合う「共生社会」の実現に不可欠な要素です。誰もが「自分らしく」過ごせる環境が整備されることで、社会参加への意欲が高まり、個々の能力が最大限に発揮される場が増えていきます。

福祉の視点から見ても、ユニバーサルデザインは極めて重要です。障がいがあるからという理由で社会活動から隔絶されることなく、誰もが当たり前に利用できる環境が整うことは、自己肯定感の向上や社会参加の促進に直結します。それは、特別な支援がなくても、誰もが自立した生活を送れる可能性を広げることにも繋がるのです。

ユニバーサルデザインの未来:私たちにできること

ユニバーサルデザインは、一度完成したら終わりというものではありません。社会の変化や技術の進歩に合わせて、常に進化し続けるべきものです。AIやIoT、VR/ARといった最新技術は、ユニバーサルデザインの可能性をさらに広げるでしょう。例えば、AIを活用した音声アシスタントが、視覚障がい者の情報アクセスをサポートしたり、VR技術が外出困難な人々の社会体験を豊かにしたりする未来も遠くありません。

私たち一人ひとりにできることもあります。それは、まず身の回りのユニバーサルデザインに意識を向けることです。今日から、ぜひ身の回りの製品やサービス、空間を注意深く観察してみてください。きっと新たな発見があり、私たちの社会がどれほど「思いやり」に満ちているかを感じられるはずです。

そして、もし「こうなったらもっと使いやすいのに」というアイデアがあれば、それを声に出して伝えることも大切です。企業や自治体も、私たち利用者の声に耳を傾けることで、より良いユニバーサルデザインを実現できます。私たち自身の意識が、未来のユニバーサルデザインを創造する原動力となるのです。

ユニバーサルデザインは、特定の誰かだけのためのものではありません。それは、私たち全員が、年齢を重ねても、不意の怪我をしても、あるいは一時的に体調を崩しても、当たり前に社会で活動し続けられるための「保険」のようなものと言えるでしょう。誰もが安心して暮らせる、より豊かでインクルーシブな社会の実現に向けて、ユニバーサルデザインの推進は不可欠です。

参考:講談社SDGs|SDGsにまつわる重要キーワード解説TOPPAN CREATIVE|身の回りにあるユニバーサルデザインの具体例をご紹介

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