障害を持つ方々が社会で輝きながら働ける環境を提供する「就労支援事業所」。その取り組みは地域によって大きく異なり、利用者の個性や目標に応じた多彩なアプローチが全国で展開されています。豊かな自然と歴史に恵まれた滋賀県では、利用者の「働きたい」という願いに寄り添いながら、革新的で心温まる支援を行う事業所が数多く活動しています。本記事では、滋賀県内で特に注目される4つの事業所を解説していきます。
はぴねすファーム(大津市):水耕栽培による農福連携の先進モデルを実践するB型事業所
大津市を拠点とする「はぴねすファーム」では、農業と福祉を組み合わせた「農福連携」という革新的なアプローチが展開されています。
働く喜びと社会貢献を育む理念
はぴねすファームは就労継続支援B型事業所として、「障害者の方が納税者になり自立できる社会を」という明確なビジョンを掲げています。この事業所が目指すのは、単純な作業の提供ではありません。利用者が農作物を育てる過程で仕事のやりがいを発見し、生きがいを感じながら社会復帰への道筋を描けるよう支援することが核となっています。その人らしい生活の実現をサポートするという姿勢が、ここでの活動の根幹を成しています。
2021年10月の開設時は利用者ゼロからのスタートでしたが、革新的な取り組みと丁寧なサポートが口コミで広がり、現在では約60名の利用者が活き活きと作業に取り組んでいます。農業という分野を通じて、利用者の潜在能力を最大限に引き出し、社会的自立へと導くことが重要な使命となっています。
最先端技術による安定した栽培環境
この事業所の大きな特徴は、完全密閉型施設での水耕栽培システムにあります。天候や季節の影響を受けることなく、年間を通じて安定した環境で作業が可能となっており、利用者にとって安全で快適な労働環境が確保されています。この近代的な農業施設では、多くの葉物野菜を丁寧に栽培しており、育てられた野菜は品質の高さから地域のマルシェや県庁、市役所などで好評を得て販売されています。
地域社会との関わりも積極的に推進されており、保育園との連携イベントを開催するなど、事業所の活動を広く知ってもらう努力が続けられています。こうした取り組みは、利用者が社会とのつながりを実感し、コミュニケーション能力を向上させる貴重な機会となっています。さらに、新事業所「ワン・ツーヴィレッジ」のオープンにより、収穫した野菜を使った加工品製造にも挑戦し、活動領域の拡大が図られています。
個別ニーズに応じた包括的サポート
はぴねすファームでは、農業活動に加えて利用者の社会的自立を目指した多面的な支援体制が整備されています。運営母体のグループ会社と連携し、仕事のスキル向上から生活相談、将来設計まで、一人ひとりの状況に応じたきめ細かな支援が提供されています。昼食用のお弁当提供など、働きやすい環境づくりへの配慮も充実しており、実習受け入れも可能となっているため、就労を検討している方々が実際の業務を体験できる機会も設けられています。このように、はぴねすファームは単なる作業場ではなく、利用者が自信を回復し、次のステップへ進むための成長の場として機能しています。
恵(megumi)(彦根市):ハーバリウム作りや木工など創作活動を中心としたB型事業所
彦根市にある「恵(megumi)」は、利用者の創造性を大切にする「ものづくり」を軸とした支援を展開している就労継続支援B型事業所です。
多彩な創作活動で才能を開花
恵では、ビーズアクセサリーやハーバリウム、ミサンガ、木工、レジンアート、編み物といった幅広い創作活動を通じて、利用者が持つ感性や才能を表現する場を提供しています。一つひとつの作品を丁寧に仕上げる過程では、集中力や継続力が養われるだけでなく、完成時の達成感が自己肯定感の向上にもつながっています。
創作活動以外にも、ネジの検品・袋詰めといった下請け作業、パソコンを使用したデータ入力業務、さらには農作業まで、利用者の興味や得意分野に合わせた多様な選択肢が用意されています。この豊富な選択肢により、利用者は自分のペースで無理なく仕事に取り組むことができ、着実にスキルを身につけることが可能となっています。一人ひとりの個性を尊重し、その人らしい働き方を見つける支援が核となっています。
利用者に配慮した柔軟な運営体制
恵では、利用者が安心して通所し、活動に専念できる環境づくりに重点を置いています。開所時間は月曜日から金曜日の10時から15時を基本としながらも、月に1、2回は土曜日や日曜日の開所日を設けるなど、利用者のライフスタイルに合わせた柔軟な運営が行われています。
通所支援も充実しており、彦根市を中心に長浜市、米原市、東近江市、近江八幡市という広範囲にわたって無料の送迎サービスを提供しているため、交通手段に不安がある方でも安心して利用できます。細かなサポート体制が、利用者の日々の活動に対する前向きな取り組みを支えています。
地域とのつながりを重視した開かれた運営
恵は、地域に根ざした開かれた事業所であることを重視しています。彦根市城町という立地を活かし、広域の利用可能地域を設定することで、多くの方々に支援の機会を提供しています。運営法人である株式会社コネクトは地域の医療機関とも連携し、利用者の心身の健康をサポートする体制を整備しています。
事業所での日々の活動や、利用者が心を込めて制作した作品については、公式Instagramを通じて積極的に発信されています。温かみのある写真や投稿からは、事業所の和やかな雰囲気や、利用者が生き生きと活動している様子が伝わってきます。こうした情報発信は、事業所の取り組みを外部に広く紹介するだけでなく、利用者やその家族、地域社会との重要なコミュニケーションツールとしても機能しています。
クレマチス(東近江市):日替わり弁当製造を通じた地域貢献型A型事業所
東近江市に拠点を置く「クレマチス」は、就労継続支援A型事業所として利用者と雇用契約を結び、一般就労により近い形での就労機会を提供しています。
地域に愛される日替わり弁当事業
クレマチスの中心となる業務は、日替わり弁当の製造と宅配サービスです。栄養バランスが考慮された美味しいお弁当を地域の方々にお届けする仕事は、社会に貢献しているという実感を得やすく、利用者の働く意欲を高める重要な要素となっています。
調理から盛り付け、配送まで一連の作業には多様な工程が含まれており、クレマチスではこれらの業務の中から、利用者一人ひとりの特性やスキルレベルに適した作業を割り当てることで、誰もが安心して自分の役割を果たせる環境を整備しています。お弁当製造という日常的な業務を通じて、利用者は調理技術や衛生管理の知識、チームワークといった実践的なスキルを習得し、社会人としての成長を目指しています。
「内に秘めた力」を引き出す支援理念
クレマチスという事業所名は、つる性植物の「クレマチス」に由来しており、その花言葉である「精神の美」には、一人ひとりが内に秘めている力の開花を支援したいという温かい願いが込められています。働くことに不安を感じている利用者に対して、その不安を少しでも軽減できるよう、スタッフが親身に寄り添い、丁寧にサポートする姿勢を最も大切にしています。
この事業所の目標は、単純に作業をこなすことではありません。利用者一人ひとりが持つ才能を伸ばし、一般就労への移行やスキル向上といった、それぞれの目標や夢の実現を全力でサポートすることが中心となっています。和やかな雰囲気の中で、利用者が自信を持って仕事に取り組み、自らの可能性を信じられるようになることが、クレマチスが目指す支援の形となっています。
SNSを活用した地域コミュニケーション
クレマチスでは、地域社会とのつながりを重視し、その活動を積極的に外部に発信しています。公式X(旧Twitter)アカウントでは、事業所での日々の様子やお弁当の写真、利用者への想いなどが綴られており、温かな雰囲気が多くの人に伝わっています。こうした情報発信は、事業所の取り組みを広く知ってもらうための効果的な手段であると同時に、利用者やその家族、地域住民とのコミュニケーションを深める重要な役割を担っています。
「働く不安を少しでも解消できれば」というメッセージとともに、見学や問い合わせを歓迎する姿勢を示しており、就労支援を必要とする方々に対して常に門戸を開いています。地域に根ざし、一人ひとりの「働きたい」という気持ちに真摯に向き合うクレマチスの取り組みは、多くの人々に希望と勇気を与えています。
ウェルメント(NPO法人ウェルメント):工業系軽作業を中心とした県内最大級ネットワークを持つA型・B型複合事業所
特定非営利活動法人ウェルメントは、就労継続支援A型およびB型事業所を運営し、滋賀県全域にわたる広範な支援ネットワークを構築しています。
滋賀県を代表する広域な支援ネットワーク
ウェルメントの最も注目すべき特徴は、その圧倒的な規模と広範囲にわたる事業展開にあります。県内にはA型事業所13カ所、B型事業所5カ所、日中一時支援事業所2カ所が展開されており、その規模は県内でもトップクラスとなっています。2025年には大津市や湖南市にもA型事業所を新たにオープンする予定で、そのネットワークは現在も拡大を続けています。
この広域展開は、「滋賀県を代表する就労支援会社になる」という明確なビジョンに基づいており、障害がある方々が地域で働き、自立した生活を送るための重要な受け皿となっています。現在、520名を超える利用者が在籍し、日々仕事に取り組んでいます。県内のどこに住んでいても質の高い支援を受けられる機会を提供することで、多くの方々の「働きたい」という願いに応える体制が整備されています。
「働くって楽しい♪」を支えるリサイクル事業と安定した環境
ウェルメントが掲げるモットーは、「働くって楽しい♪」を利用者に感じてもらうことです。その実現のため、安定した雇用と働きやすい環境の提供に力を入れています。主な事業内容は、遊戯機器の解体・分別といったリサイクル・リユース事業や、工場内での軽作業となっています。これらの作業は、利用者が集中して取り組めるよう工夫されており、社会の持続可能性に貢献するリサイクル事業に携わることは、働くやりがいにもつながっています。
事業所の多くは、利用者と雇用契約を結び、原則として最低賃金が保証されるA型事業所です。勤務時間は個々の状況に合わせて選択でき、昼食が会社負担で提供されるなど、福利厚生も充実しています。清潔で快適な作業環境と手厚いサポート体制が、利用者の「働きたい」という意欲を力強く支えています。
『すべての人に、働く喜びを』提供し続けるという使命
ウェルメントの法人理念は、『すべての人に、働く喜びを』提供し続けることです。働くことを通じて経済的な基盤を築くだけでなく、社会的な役割を見出し、自信を持って生活していくこと。そのための機会提供と支援を法人全体の使命としています。
その活動は事業所内にとどまらず、びわ湖放送のテレビCMや地域情報番組での取材、新聞掲載などを通じて、広く社会に発信されています。公式Instagramでは、日々の活動の様子や理念が伝えられ、開かれた事業所としての姿勢を示しています。さらに、法人設立10周年を機に地域の社会福祉協議会へ車椅子を寄贈するなど、事業で得た利益を地域福祉へ還元する活動も積極的に行っており、まさに滋賀県を代表する就労支援事業者として、社会貢献に尽力しています。
まとめ
滋賀県内の就労支援事業所は、それぞれが独自の特色を活かしながら、利用者の可能性を最大限に引き出す多様で革新的な取り組みを展開しています。大津市の「はぴねすファーム」は水耕栽培という最新技術を活用した農福連携のモデルケースを示し、彦根市の「恵」はビーズアクセサリー制作などの多彩なものづくりを中心に、利用者の創造性を引き出す支援を行っています。
東近江市の「クレマチス」は地域に愛されるお弁当作りを通じて社会貢献と個々のスキルアップを両立させ、「ウェルメント」は県内最大級のネットワークを活かして安定したA型雇用と多様な仕事を提供することで、多くの方々に働く喜びを届けています。
滋賀県の就労支援事業所による革新的な取り組みは、全国の同様の事業所にとっても貴重な参考事例となっており、今後さらなる発展と拡大が期待されています。
執筆者プロフィール

ウェブ・コピーライターとしてクライアントワークを中心に活動中。