2019年の参院選で大いに話題になった、れいわ新選組の障害者議員の存在。実に様々な意見が飛び交い、ある意味、障害者に対する理解が深まったと言えるかも知れません。
同時に目にする機会が多かった「障害者差別解消法」ですが、実はどんな法律かよく知らないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では今後の日本において誰もが知っておく必要がある障害者差別解消法について成立の経緯や施行後の変化なども併せて解説します。
障害者差別解消法とは?法律の中身と目的
障害者差別解消法の正式名称は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」で、国を含めた行政機関や国内の事業者、そして日本国民に対して障害を理由とする不当な差別を禁止し、社会的障壁の除去を推進するための法律です。
障害者差別解消法の中では、同法の対象となる者を4つに分けて以下のように定めています。
- 【国及び地方公共団体の責務】
- 国および地方公共団体は、障害を理由とする差別解消の推進に必要な施策を策定して実施しなければならない
- 【国民の責務】
- 国民は、障害を理由とする差別解消の推進に寄与するよう努めなければならない
- 【行政機関等における障害を理由とする差別の禁止】
- 1. 行政機関は、事務や事業を行うに当たって、障害を理由とした不当な差別的取扱いや障害者の権利を侵害してはならない
2. 行政機関は、障害者の社会的障壁の除去が必要という意思表明があった場合は、負担が過重でない範囲で必要かつ合理的な配慮をしなければならない - 【事業者における障害を理由とする差別の禁止】
- 1. 事業者は、事務や事業を行うに当たって、障害を理由とした不当な差別的取扱いや障害者の権利を侵害してはならない
2. 事業者は、障害者の社会的障壁の除去が必要という意思表明があった場合は、負担が過重でない範囲で必要かつ合理的な配慮をしなければならない
「社会的障壁の除去」というのは、バリアフリーをイメージすると分かりやすいでしょう。
例えば、階段しかない駅にエレベーターを設置して欲しいとか、会社内に障害者用のトイレを設置してほしいといった要望があった場合は行政や事業者は可能な範囲で要望に応えなければならないのです。
社会的障壁の除去をバリアフリーに例えましたが、障害を持つ方にとって社会的な障壁というのは他にもたくさんあります。
障害者差別解消法は制定されて間もないこともあって、完全な障害者差別解消はまだまだ道のりが長いと言えるでしょう。
障害者差別解消法が成立するまでの経緯
では、障害者差別解消法が成立した背景には一体どのような経緯があったのでしょうか。
障害者差別解消法は日本が独自に考案して決めたものではなく、古くからの世界的に大きな流れがあり、それに批准する形で決められた法律です。
そもそものきっかけとも言える、障害に関する国際連合総会での決定事項を一覧で見てみましょう。
1972年 | 「精神遅滞者の人権宣言」を採択 |
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1975年 | 「障害者の権利宣言」を採択 |
1976年 | 「国際障害者年」を採択 |
1982年 | 「障害者に関する世界行動計画」を採択 |
1993年 | 「障害者の機会均等に関する標準規則」を採択 |
2006年 | 「障害者権利条約」を採択 |
2006年の時点で日本も条約に署名しましたが、法整備が全く整っていませんでした。
そのため障害者差別解消法の基とも言える「障害者差別基本法」が出来たのは2011年で、その2年後の2013年にようやく制定したのが「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」なのです。
障害者差別解消法が成立した後の変化
さて、障害者差別解消法が成立して実際に施行された2016年から既に施行から3年が過ぎていますが、世の中に何か変化はあったのでしょうか。
同法施行から1年経過した2017年に日本障害者リハビリテーション協会の公開した記事では、以下のような報告が掲載されています。
障害者差別にあたると判断した相談件数が57件(その他含めると全体では198件)であり、相談員はその解決に向けた対応に追われている状況である。現場からの声として、「差別事例かの判断が難しい。」、「差別事案でなくても、本人が差別として相談される例も多く、納得していただくことが重要。」、「民間事業者は、法理解に差があり、事業者の管理部門では法理解が進む状況であるが、現場レベルでは、店員など末端職員まで周知が行き届いていない。」、「連携先である他市町村には、相談窓口は存在しているが、相談実績がない市町村もある。」などの報告を受けている
そしてさらに翌年の2018年には、ニッセイ基礎研究所のコラムにおいて以下のような見解が示されています。
- 自治体の対応が遅れている
- メディアで取り上げられる頻度が少なすぎる
【出典】ニッセイ基礎研究所 「合理的配慮」はどこまで浸透したか-障害者差別解消法の施行から2年
ついには障害者差別解消法の見直しをするよう意見も出始め、2019年3月より障害者政策委員会にて話し合いが開始されました。
障害者差別解消法が成立しても続く差別的扱いと理由
では、現在の行政における対応はどうなっているのでしょうか。
障害者政策委員会では「障害者差別の解消に関する地方公共団体への調査」を行っており、自治体における対応要領の策定について以下のような資料を公開しています。
【出典】内閣府 障害者政策委員会
規模の小さい街になるほど対応要領を作成していないことが分かりますが、これには実は理由があります。
上記資料の「策定しない理由」を見てみましょう。
- 都道府県が策定した対応要領を準用するため。
- 対応要領を策定しなくても、様々なケースに応じた対応が可能であるため。
- 人口規模が小さく、日頃から障害者に日常的な配慮を行っているため。
- 「対応要領があるから障害に配慮する」のではなく、「対応要領がなくても適切に配慮する」こととしているため。
- 相談・検討事案がなく、人材も不足しているため。
- 国等の対応要領では職員等による差別的取扱いに対応する仕組みの一つとして懲戒等の規定が含まれているが、本市町村では人事担当部局の理解が進んでおらず、対応要領の策定は未定の状況にある。福祉部局あての通知のみならず、総務担当部局や人事担当部局あての通知等についても配慮してほしい。
【引用】内閣府 障害者政策委員会
上記のように、規模が小さいから対応要領を策定していないといった声や、人材不足や国の配慮を理由に策定していないといった声もあります。
実は上記の点について納得できる部分もあります。以下の記事でも取り上げましたが、直近で行われた障害者向けの国家公務員試験において多くの問題が取り沙汰されたのです。
- 2次試験の申し込みが先着順で締め切られた
- 「できない仕事」「健常者より劣る点」ばかり聞かれた
- 学科試験に合格したが面接の参加を断られる人が相次いだ
- 「コピーなど簡単な仕事しかさせられない」と言われた
そもそも同法を成立させた国側が障害者差別への理解が進んでない状況下で、体力のない自治体に無理強いさせる姿勢に不満が出ても仕方ありません。
また障害者雇用率の不適切計上というあってはならない問題も発覚し、日本の障害者関連の制度は国連総会による採択による急ごしらえでしかないという声が相次いでいます。
とはいえ、元々は障害者に関する法律が無かったのですから、これから徐々に法整備されていくのだろうと考えられます。
あとは世間が少しでも障害者福祉に関心を持つよう、各メディアによる情報拡散にも期待したいところです。
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