障害者関連の法律には、「障害者基本法」「障害者差別解消法」「障害者雇用促進法」という3つがあります。
どれも大事な法律ではありますが、特に企業の採用担当者にとって重要なのは「障害者雇用促進法」です。この法律はその名称にもある通り、「障害者雇用の促進と障害者への均等な雇用の機会を確保」するために作られた法律です。
これらの法律の条文は一般の方が読むには難解な表現が多く、どの部分が重要なのかが分かりづらくなっています。そこで、企業の採用担当者が障害者雇用促進法で特に把握しておくべき基本部分と法令で定められたペナルティについて、この記事で分かりやすく解説いたします。
差別の禁止と雇用の均等な機会の確保
重要ポイントの1つ目は、障害者雇用促進法の第34条の「障害者に対する差別の禁止等」です。これは障害者を雇用する事業主による、障害者差別を禁止するものです。
実際の条文は難解な言葉が使われていますので、障害者差別について何を禁じてどんな義務を課しているのか、分かりやすい言葉に言い換えてご紹介します。
〈第34条〉
事業主は障害者の雇用にあたって、障害を持たない人と均等な求人募集や採用の機会を与えなければならない〈第35条〉
事業主は障害者であることを理由として、賃金、教育訓練、福利厚生、その他待遇など、不当な差別的取扱いをしてはならない
この2つの条文は、後に続く第36条で定めている義務の前提となる法令です。ここでは要約してご紹介しますが、第36条では具体的に以下のような義務を定めています。
- 募集や採用の均等な機会と障害者からの申し出による配慮
- 障害を持たない人と同じ待遇を確保し、就労の支障となるものを排除、援助者の設置、その他必要な措置を行うこと
- 障害者の意向を十分に尊重すること
- 障害者からの相談に応じ、適切な対処のための体制を整備すること
第34条から第36条の意味するところは、「障害者だからという視点で労働条件や職場環境を作るのではなく、既存社員と同じ労働条件にしなさい」という事です。
更に第36条の最後では、「厚生労働大臣は(上記までの条文について)事業主に対して指導・勧告ができる」としています。
厚生労働省では、この条文を更に明確化した「障害者差別禁止指針」「合理的配慮指針」というものを策定し公表していますので、気になる方は以下のリンクをご覧いただければと思います。
事業主の積極的な障害者雇用の義務
事業主の責務である差別の禁止に続いて重要になるのが「積極的な障害者の雇用」です。これは同法第37条と第43条に具体的な条文があります。
〈第37条〉
全ての事業主は社会連帯の理念に基づいて、雇用の場を与える共同の責務を有しており、進んで障害者雇用に努めなければならない〈第43条〉
事業主は、雇用する障害者の数が全雇用者の数に障害者雇用率を乗じて得た割合以上であるようにしなければならない
つまり、「企業は定められた雇用率以上になるように、積極的に障害者雇用を進めなさい」ということです。
2018年4月以降から法定雇用率が2.2%になっていますので、具体的な人数に換算すると45.5人に1人の障害者雇用が求められている事になります。
そうなると、この障害者雇用率が実現できない場合はどうなるかということが気になりますが、その点については次の章で解説していきます。
障害者雇用納付金の納付義務
結論から申し上げますと、障害者雇用率が達成できない場合は「障害者雇用納付金」の支払いが必要になります。その根拠は、障害者雇用促進法の第53条~第55条になるのですが、難解な条文ですので、分かりやすい言葉と具体的な計算例で解説いたします。
〈第53条〉
1項 機構は、(中略)事業主から障害者雇用納付金を徴収する
2項 事業主は、納付金を納付する義務を負う〈第54条〉
事業主が納付すべき納付金額は、調整基礎額に、雇用する労働者の数に基準雇用率を乗じて得た数を乗じて得た額とする〈第55条〉
1項 納付すべき納付金の額は、調整基礎額に雇用する障害者の数を乗じた額が前条で算出した額に達しないときは、その差額に相当する金額とする
2項 納付金は、調整基礎額に雇用する障害者の数を乗じた額が前条で算出した額以上ならば徴収しない
条文で登場する調整基礎額は、現在5万円と定められています。基礎雇用率とは、法定雇用率である2.2%を指します。もう少し分かりやすく理解するために、以下のような会社が納付すべき額をシミュレーションしてみましょう。
全従業員 | 91人 |
---|---|
障害者数 | 2人 |
現在の法定雇用率 | 2.2% |
調整基礎額 | 5万円 |
本来この企業が納付すべき金額は、第54条を前提にすると以下のようになります。
91人 × 2.2% = 2人
2人 × 5万円 = 10万円
もし、この企業が障害者を1人しか雇用していなければ、第55条1項に沿い、納付額は以下のように計算されます。
- 【第55条1項を適用した場合の納付額】
- 雇用すべき障害者数:91人 × 2.2% = 2人
- 不足している障害者数:2人 - 1人 = 1人
- この企業の納付額:(2人 × 5万円) - (1人 × 5万円) = 5万円
逆にこの企業が障害者を3人雇用したとすると、考え方は第55条2項の規定を適用することになります。
- 【雇用する障害者が超過した時の考え方】
- 基本の納付額:(91人 × 2.2%) × 5万円 = 10万円
- この企業の納付額:3人 × 5万円 = 15万円
- 第55条2項の検証:10万円 < 15万円
したがって、この例では3人以上の障害者を雇用すれば納付金は不要となります。ただ、これらの計算は基礎となる考え方で、さらに簡単な計算式にすると以下のようになります。
かなり複雑な考え方や計算式も出てきましたので、一旦ここまで解説した内容をまとめます。
- 企業が障害者を雇用することは義務である
- 決められた人数以上の障害者を雇用できていない場合、納付金を納める必要がある
- 決められた人数以上の障害者を雇用していれば納付金は不要
では、これらの決まりに加えて最後にもう一つ大事な考え方を解説いたします。
義務を遂行しない場合の企業名公表
企業が障害者を雇用することは義務であり、未達成なら納付金を納める必要がありますが、勘違いしてはいけないのが「納付金を支払えば障害者雇用が免除されるわけではない」ということです。
障害者雇用納付金というのは、あくまで納付することが原則であり、その金額や納付の必要性は前述までの第55条に関連する計算により変わってきます。
しかし、障害者雇用は義務ですので、納付金支払いの有無にかかわらず、引き続き法定雇用率以上の障害者雇用が求められます。
もし、障害者雇用率の未達成が続けば、「企業名公表」という重いペナルティが課せられます。このことについては、障害者雇用促進法第47条において定められています。
〈第47条〉
厚生労働大臣は、前条第1項の計画を作成した事業主が、正当な理由がなく同条第5項または第6項の勧告に従わないときは、その旨を公表することができる
「前条1項」は、障害者雇用率の未達成企業に対して、厚生労働省が「障害者雇用を進めるための計画書を作成しなさい」と命令できるとする第46条を指します。
そして「同46条の第5項または第6項」は、「厚生労働省が計画書を作成させても、企業の障害者雇用率が達成されない場合、または達成のための行動を起こさない場合は勧告を行うことができる」ことを指しています。
つまり、第47条の企業名公表は、障害者雇用という義務を達成するために厚生労働省が計画の策定命令、指導、勧告などを行っても障害者雇用率が達成されない場合に実行されるペナルティというわけです。
障害者雇用促進法は細かく見れば他にも大事な箇所がありますが、今回ご紹介した法令は特に企業にとって免れることのできない重要ポイントとなりますので、これを機にしっかり覚えておきましょう。
まとめ
今回ご紹介した障害者雇用促進法をまとめると、主に以下のような内容になります。
- 障害者を差別することは禁止
- 障害者の雇用は義務である
- 雇用率未達成の場合は納付金が必要
- 雇用率を達成していれば納付金は不要
- 納付金を支払っても障害者雇用の義務は課せられる
- 雇用率未達成が続くと企業名公表というペナルティ
「法律」と聞いてしまうと強制的なルールというイメージもあるかもしれませんが、ご紹介した法令はあくまで「自主的な障害者雇用を推進するためのもの」です。
最低限の人権を確保し、健常者と変わらない雇用機会と安定した就労環境を確保する。障害者雇用は「やらなければいけない」という強迫観念で行うものではなく、積極的に障害者雇用を進めていけば、法令で定められた義務は自然と果たせるのではないでしょうか。
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