障害者基本法と障害者総合支援法(自立支援法)の違いを詳しく解説

障害者基本法と障害者総合支援法(自立支援法)の違いを詳しく解説

あまり知られていませんが、障害者の方を援助したり保護したりする目的で作られた法律は意外と数多く存在します。

法律となると「難しそう」という先入観からじっくり目を通す人は少ないようですが、基本的にはどの法律も「障害者の人権」を大前提にして福祉や雇用を促進するために障害の有無で分けてはならず、差別を禁止するという内容になっています。

今回はそんな障害者に関連する法律の中から障害者雇用の場において基本のキと言える「障害者基本法」と「障害者総合支援法(自立支援法)」について解説していきます。

障害者基本法の概要とポイント

まず「障害者基本法」について、目的は障害者基本法の第1章に書かれていますが、第1章は条文が第1条~第13条まであって複雑なため、ここでは重要な条文を抜粋してそれらが何を意味しているのかを説明していきます。

〈第1条 概要・目的〉

この法律は、全ての国民が障害の有無に関わらず同じ基本的人権を持つという考えに基づき、国民が互いの人格と個性を尊重しながら共生できる社会にするため、国や地方自治体の責務を明らかにするとともに、障害者の自立や社会参加を支援する施策を定め、それを総合的、計画的に推進することを目指す

【引用】障害者基本法

つまり、国民全員が障害の有無に関係なく人権と個性を認め合う社会にするため、国が以下のことを行うと宣言しているものです。

  • 国の責任の明確化
  • 障害者の自立支援の基本的な施策の決定
  • 上記を計画的に推進する

では、条文にある「国や地方自治体の責務」と「障害者の自立や社会参加を支援する施策」とは具体的にどのようなことか、もっと詳しく見てみましょう。

〈第6条 国・地方自治体の責務〉

国と地方公共団体は、基本原則にのっとり、障害者の自立や社会参加を支援する法律や制度のための施策を総合的、計画的に実施する

〈第8条 国民の責務〉

国民は、基本原則にのっとり、第1条に規定する社会の実現に寄与するよう努めなければならない

「基本原則」とは、同法第3条~第6条のことを指しますが、各条文を要約すると主に以下の3つとなります。

  • 障害者は「社会のすべての場面への参加」「どこで誰と暮らすかを選択する自由」「手話や筆談など自分に必要なコミュニケーションの方法を選ぶ自由」を主とした、個人としての保障や権利を持てるようにする
  • 障害を理由とした権利や利益の侵害という差別は誰にも許されない
  • 国や地方自治体の施策は、国際社会との協調の下に図られなければならない

第1章は障害者基本法の基礎となる部分であり、第2章からは「医療」「教育」「年金」「住まい」などに対して講ずべき施策が具体的に定められています。

障害者総合支援法(自立支援法)の概要とポイント

障害者総合支援法(自立支援法)の正式名称は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」という長いものです。

2012年に改正され、元々は「障害者支援法」と呼ばれていたものが「障害者総合支援法」と改称されました。

障害者総合支援法の概要や目的は次のように記載されています。

〈第1条 概要・目的〉

この法律は、障害者基本法の理念にのっとり、各障害者関連法と相まって、障害者が普通の日常生活や社会生活を営むことができるよう、障害福祉サービスの給付、地域生活支援事業等の支援を総合的に行い、障害者の福祉の増進と、障害の有無に関わらず同じ基本的人権を持つ個性として暮らせる地域社会を実現することを目的とする

【引用】障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律

障害者基本法の目的とよく似ていますが、障害者総合支援法(自立支援法)は、障害者基本法の「総合的な施策」という部分を以下のような項目に細かく分けて規定している法律です。

  • 介護給付
  • 訓練等給付
  • 地域相談支援給付
  • 自立支援医療
  • 補装具費及び高額障害福祉サービス等給付

障害者基本法と障害者総合支援法(自立支援法)の違い

障害者基本法と障害者総合支援法(自立支援法)の違いは「理念」と「具体的な施策」の部分です。

障害者総合支援法の第1条にあるのですが、障害者関連の法律は「障害者基本法」で定めている「障害者の基本的人権を尊重して、障害の有無に関係ない社会を目指す」という理念を基にして作られています。

たとえば、「障害者基本法」を以下のようにまとめるとします。

「この法律は、全国民が平等の人権を持つ個人として尊重され、お互いに共生できる社会の実現を目指すものである」

これに対し、「障害者総合支援法」は以下のように言い換えられます。

「この法律は、障害者基本法を基として、障害者が各福祉サービスを利用できるように、サービスへの支援と拡大を実現するためのものである」

では仮に、当サイトのテーマでもある障害者の雇用に関する法律「障害者雇用促進法」の場合はどうでしょうか。まず、条文の目的を見てみましょう。

〈第1条 目的〉

この法律は、「障害者の雇用義務と促進等のための措置」、「障害者の均等な雇用機会や待遇の確保」、「障害者の能力を発揮できるようにするための措置」、「職業リハビリテーションの措置」、「その他障害者の能力に合った職業に就くなどにより自立を促進するため、総合的な措置や障害者の職業の安定を図ること」を目的とするものである

【引用】障害者の雇用の促進等に関する法律

この条文では障害者基本法に触れていませんが、「均等な雇用機会の確保」や「自分に合った職業に就くことで自立を図る」という点で、「障害を持つ人と持たない人の違いに関係なく、個人の人権確保と自立の推進を図るもの」と読み替えることもできるので、やはり障害者基本法の概念を基にしたものであると言うことができます。

障害者に関する法律は多くある

ここまで障害者基本法と障害者総合支援法(自立支援法)の違いや考え方について解説しましたが、障害者に関連する法律はこれ以外にも多くの種類があります。その中の一部を簡単に紹介します。

〈障害者の雇用の促進等に関する法律〉
「障害者雇用の義務と促進」、「障害者の雇用機会の確保」、「就労により自立を促進し障害者の職業の安定を図る」ことなどを目的とした法律

【参考】障害者の雇用の促進等に関する法律

〈障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律〉
障害者基本法に則って、障害者と障害を持たない人で分けず、全ての障害者の平等な生活の保証と行政や事業者の障害を理由とした差別を解消することを目的として、共存する社会の実現を目的とする法律

【参考】障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

〈精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〉
精神障害者の医療と保護を行い、障害者総合支援法(自立支援法)と共に、社会復帰の促進と自立、社会活動への参加の援助を行い、障害の発生予防と精神保健の向上を図ることを目的とした法律

【参考】精神保健及び精神障害者福祉に関する法律

〈身体障害者福祉法〉
障害者総合支援法(自立支援法)と共に、障害者の自立と経済活動への促進、身体障害者の援助や保護を行い、身体障害者の福祉増進を図ることを目的とした法律

【参考】身体障害者福祉法

〈知的障害者福祉法〉
障害者総合支援法(自立支援法)と共に、知的障害者の自立、社会活動への参加を促進するため、援助や保護を行いつつ福祉を図ることを目的とする法律

【参考】知的障害者福祉法

まとめ

障害者に関する法律はいずれも最近成立したものではありません。今回紹介した「身体障害者福祉法」は約70年前の1949年に制定されたものです。

どの法律も長い年月の間に改定されており、特に2016年に施行された改正障害者雇用促進法では、差別の禁止、合理的配慮の義務、雇用率算定の対象に精神障害者が加えられるなど大きく変更されました。それに伴って法定雇用率が引き上げられたこともあり、障害者を積極的に雇用する事業主が増えてきています。

障害者に対する雇用機会均等化や差別の禁止は義務だから実施するものではありません。事業主にはCSR(企業が担う社会的責任)が課せられています。障害者を雇用することはその責任を果たすことであり、企業としての価値を高めることにつながります。

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