こどもを性暴力や性犯罪から守るための新しい法律「こども性暴力防止法」が、2024年6月19日に参院本会議で可決され、成立しました。
この法律は政府と関係業界が一体となり、こどもを守るための取り組みを推進することを目標としています。
この記事では、「こども性暴力防止法」の具体的な取り組みや対策、重要なポイントについて詳しく解説していきます。
こども性暴力防止法とは?
こども性暴力防止法とは、こどもと接する仕事に就く人の性犯罪歴の確認を事業者達に義務付けることを目的とした法律になります。
この法律は2024年6月19日に参院本会議で全会一致で可決・成立しました。
「日本版DBS(Disclosure and Barring Service)」と呼ばれる性犯罪歴確認システムを導入し、こどもに対する性犯罪を未然に防ぐことを重視しています。
また、こどもからの相談体制の整備なども義務付けられており、教育現場から民間までの幅広い分野で起きるこどもの性被害防止を目標としています。
まだ成立の段階であり施行には至っていない法律ですが、今後こども家庭庁はガイドラインを整備した上で、2026年度にも開始する見通しを立てています。
日本版DBSについて
学校や保育園、認定を受けた学童保育や学習塾等に対して、児童への性暴力を防止するための措置を講じることを義務付ける制度
この制度はイギリスのDBS制度(前歴開示および前歴者就業制限機構)を参考にしたものであり、こどもや高齢者、弱者に関わる仕事に就く人に対して性犯罪歴の有無を確認する制度です。
今後、こどもに関わる職種で働くことを希望する人は、DBSの確認の元で発行される「無犯罪証明」が必要になります。
性犯罪歴の確認が義務付けられる事業
今回、性犯罪歴の確認を義務付けられる事業を簡単にまとめました。
義務付けられる事業者 | 認定制度の対象となる事業者 |
---|---|
|
その他スイミングスクール等、一定の要件を満たした事業者 |
義務の対象ではない事業者も「認定制度」を受けて「認定事業者」になることができます。
国の認定を受けた「認定事業者」は義務対象の事業者と同様、従業員への性犯罪歴の確認が義務化されます。
広告等で認定を受けた事業者だとアピールすることができるため、利用者への信頼獲得につながるメリットがあります。
こどもに対する性暴力の不安を抱える親が多い中、大手学習塾の多くが認定制度への参加を前向きに検討している状況です。
性犯罪歴の確認手続き
義務対象・認定制度を受けた事業者には、就労希望者の性犯罪歴の確認が義務付けられます。
具体的な手続きは以下の通りです。
- 戸籍情報の提出
就労希望者は、こども家庭庁への申請にあたって戸籍情報を提出します。 - 性犯罪歴の確認
こども家庭庁が申請を受け、就労希望者の性犯罪歴を確認します。 - 犯罪事実確認書の交付
性犯罪歴がない場合は「犯罪事実確認書」が事業者に交付されます。 - 事前通知と辞退
性犯罪歴が確認された場合、こども家庭庁から本人に事前通知されます。
2週間以内に本人が内定を辞退した場合は事業者に犯罪歴は通知されません。
これは新規に採用される人だけが対象ではなく、現在働いている人も性犯罪歴の確認の対象となります。
そこで性犯罪歴が確認された(性犯罪の前科があった)場合、事業者は直接こどもと関わらない業務への配置転換や解雇などの対策を行う必要があります。
これに関しては、性犯罪歴が確認された職員や採用予定者にとって、事業者が人権を侵害する恐れがあります。
従って、こども家庭庁は施行までにガイドラインを示すことが求められます。
1.確認対象となる性犯罪歴の前例
確認対象となる性犯罪歴には、不同意性交罪や児童ポルノ禁止法違反などの「特定性犯罪」だけでなく、痴漢や盗撮などの条例違反までも含まれます。
以下に確認の対象となる性犯罪をまとめました。
- 不同意性交罪
成人が未成年に対して同意なしに性交を行った場合。 - 児童ポルノ禁止法違反
未成年のわいせつな画像や動画を製作・所持・配布した場合。 - 痴漢
公共の場で他人に対して不適切な身体接触を行った場合。 - 盗撮
公共の場で他人のプライベートな部分を無断で撮影した場合。
これらの犯罪歴がある者は、日本版DBSの確認対象となり、こどもに接する職務に就くことが制限されます。
一方で、下着の窃盗やストーカー規制法違反などは確認の対象から外れます。
こちらに関しても範囲を広げるべきなのか、人権や更生の観点からも線引きが非常に難しい課題となっています。
2.性犯罪の対象期間
性犯罪歴の確認対象となる期間を以下に簡単にまとめました。
刑の種類 | 履歴保存期間 |
---|---|
拘禁刑で実刑 | 刑の執行終了から20年 |
執行猶予 | 裁判の確定日から10年 |
罰金刑 | 刑の執行終了から10年 |
あくまで確認の対象は裁判所で有罪判決を受けた前科のみの為、不起訴などの場合は確認の対象外となります。
小児性被害の中には「不起訴処分(起訴猶予)」や「懲戒処分」にしかならないケースも多く、有罪が確定するものはごく一部です。
この理由としては、こどもからの訴えだけで加害者が認めない場合、嫌疑不十分で起訴すらされないことが現場では多いからです。
前科だけでなく性犯罪歴が無い場合でも、こどもの訴えがあり性加害の恐れがあれば配置転換などの措置を講じる対処が求められています。
まとめ
こども性暴力防止法は、こどもを性犯罪から守るための非常に重要な一歩だと思います。
性犯罪歴を確認する制度の導入は、親としても安心できますし、事業者としても信頼を得るための大きな武器になります。
反対に、現在雇用されている人にも性犯罪歴の確認が義務化された事で、一部の事業者には対処の問題が重くのしかかってくる事が予想されます。
現場で働く全ての人々がこの法律を理解し実践することで、こどもたちの安全が一層確保されることを望みます。
これからこの法律がどのように発揮され、実際にこどもたちの安全が確保されるか注目していきましょう。
【参考】
1.こども性暴力防止に向けた総合的な対策
2.教員や保育士の性犯罪歴をチェックする「日本版DBS」とは
3.「日本版DBS」法がついに成立!さらに乗り越えるべき3つの課題
4.こども性暴力防止法(日本版DBS)の成立と今後の見通し
5.日本版DBS認定制に!スイミングスクール/スポーツクラブ/学習塾は認定制に!
6.「日本版DBS」法案が、全会一致で可決、成立。放課後児童クラブの世界は、一気に商業化が加速するだろう。
7.”子どもを守る”「日本版DBS」法案決定
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