「障害年金」は「障害」という言葉が含まれるため障害者に関係する制度と思われがちですが、実は制度の対象は障害者だけではありません。
障害者・健常者に関係なく、ケガや病気等で生活が困窮した場合の助けになる制度なのです。
今回は障害年金の詳しい支給要件や支給額、そして障害年金の制度で問題視されている欠点などについて解説します。
「障害年金」とは?制度内容を分かりやすく解説
障害年金とは、ケガや病気、障害などにより「仕事や生活に支障が出るようになった場合」に受け取れる年金です。
※「障害者年金」と間違って書かれることもありますが、障害者年金というものは存在しません。
「年金」と聞くと、老後に支給されるお金をイメージしがちですが、障害年金は若い世代の人でも受け取ることができます。
障害年金は、「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2つに分かれており、それぞれ以下のような違いがあります。
- 【障害基礎年金】
- 自営業者などの国民年金加入者がケガや病気、障害により働けなくなった等のケースで受け取れる年金
- 【障害厚生年金】
- 会社員などの厚生年金加入者がケガや病気、障害により働けなくなった等のケースで、障害基礎年金に上乗せして受け取れる年金
ただし、障害基礎年金と障害厚生年金ではもう少し細かな要件や違いがあります。
障害年金を受給するための要件
障害年金は種類により支給要件が違います。病気やケガ、障害により生活への支障が発生した場合、障害年金を受け取るには以下の要件を満たしている必要があります。
- 【共通要件】
-
- 病気や怪我、障害の診察を受けた日から1年6か月を経過していること
- 病気や怪我、障害の診察を受けた日から1年6か月を経過していない場合、症状が固定化されていること
- 【障害基礎年金の支給要件】
-
- 国民年金への加入期間(20歳前、60歳以上65歳未満の未加入者は別)に初診日がある病気やケガ、障害であること
- 国民年金の加入期間に日本に住んでいること
- 障害等級1級もしくは2級であること
- 国民年金保険料の納付、免除の期間が初診日の前々月までに2/3以上であること
- 65歳未満の場合、初診日の前々月までの1年間に国民年金保険料の未納がないこと
- 【障害厚生年金の支給要件】
-
- 厚生年金への加入期間に初診日がある病気やケガであること
- 障害等級1級、2級、3級であること
- 国民年金保険料の納付、免除の期間が初診日の前々月までに2/3以上であること
- 65歳未満の場合、初診日の前々月までの1年間に国民年金保険料の未納がないこと
障害厚生年金は主に会社員が加入する年金です。国民年金保険料と合わせて厚生年金保険料を納める仕組みになっていますが、ほとんどの場合、国民年金と厚生年金保険料が合算された金額が給与から引かれますので、特別な事情がない限り未納のケースはないでしょう。
支給される障害年金と障害手当金の額
続いて、受給できる年金額を障害基礎年金の支給額から順に詳しくご説明します。
- 【障害基礎年金(2019年)】
- 障害等級1級:78万100円 × 1.25
障害等級2級:78万100円
78万100円は2019年時点の基準額で毎年見直されます。また、子供がいる場合は第1子と第2子で「各22万4500円」、第3子以降は「各7万4800円」が上記金額にプラスされます。
障害厚生年金は障害基礎年金に上乗せして支給される年金です。計算方法は同じですが、上記の「78万100円」に相当する基準額は別途算出する必要があり、受給できる障害厚生年金額は3段階に分けられます。
- 【障害厚生年金(2019年)】
-
- 障害基礎年金の額を算出・・・A
- 報酬比例の年金額を算出・・・B
- 障害基礎年金の計算式を基に障害厚生年金の支給額を算出
- 〈報酬比例の年金額〉
- 平均標準報酬月額 × 0.5481% × 被保険者期間(月数)
- 〈障害厚生年金の支給額〉
- 障害等級1級:B × 1.25 + 配偶者の加給年金額
障害等級2級:B + 配偶者の加給年金額
障害等級2級:Bのみ(最低保障額58万5100円)
上記の計算式で重要な3つを補足します。
平均標準報酬月額 | 税引き前の月収 |
被保険者期間 | 300か月に満たない場合は300か月で計算 |
配偶者の加給年金額 | 65歳未満の配偶者が受け取る年金で22万4500円(2019年の時点) |
平均標準報酬月額は正確には細かな計算が必要ですが、大まかには税引き前の前年の年収を12か月で割ればよいでしょう。
では、以下の条件で障害厚生年金の額をシミュレーションしてみましょう。
年収 | 420万円 |
勤続年数 | 10年 |
家族構成 | 妻、子1人 |
障害者等級 | 1級 |
- 〈障害者基礎年金〉
- 78万100円 × 1.25 + 22万4500円 = 119万9625円
- 〈報酬比例の年金額〉
- (420万円 ÷ 12か月) × 0.5481% × 300か月 = 57万5505円
- 〈障害厚生年金〉
- 57万5505円 × 1.25 + 22万4500円 = 94万3881円
- 〈支給される年金額〉
- 119万9625円 + 94万3881円 = 214万3506円
このように自営業者等が受け取れる障害者基礎年金に対して、障害厚生年金の額は1.8倍もの差があります。また、障害等級が1級、2級に該当しない時に支給される障害手当金も障害厚生年金の加入者にしか支給されません。
そう考えると、自営業者の方は体が資本ということがよく分かります。
障害年金を受給するまでの手続きと流れ
万が一、ケガや病気、障害などで収入が減ってしまうようなことがあれば、生活がひっ迫しますので一刻も早く障害年金を受給したいところです。
そこで、簡単に障害年金を受給するまでの手続きと流れを見ておきましょう。
- 必要書類を揃える(下記参照)
- 居住する市区町村の役場に上記書類を提出する
- 年金証書の到着
- 初回の入金
年金請求書 | 町村の役場、近くの年金事務所 |
医師の診断書 | 障害認定日より3か月以内のもの |
受診状況等証明書 | 初診の病院と診断書を作成した病院が異なる場合のみ |
病歴・就労状況等申立書 | ケガや病気、障害の状況を確認するための書類 |
本人確認書類 | マイナンバーカード、戸籍謄本、住民票など |
本人名義の銀行通帳など | 振込先の確認に必要 |
印鑑 | 認印も可 |
なお、受診状況等証明書と病歴・就労状況等申立書は、以下のページからダウンロードできます。
■受診状況等証明書
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/shindansho/20140421-20.html
■病歴・就労状況等申立書
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/shindansho/20140516.html
書類の用意は大変ですが、手続き自体は近くの役場などに提出するだけですので簡単です。
ただ、上記の流れで問題視されていることがいくつかあります。
障害者年金には問題点が多い
では、最後に障害者年金の問題点について解説します。
まず1つ目の問題点は「初回の入金までが遅い」ということです。
障害年金は、申請から初回の入金まで最低でも5か月ほどかかります。支給決定までに3か月前後、その後入金までにさらに2か月前後を要するのです。
この申請から初回入金までの期間について、障害年金を受給する人からはやはり「遅い」という不満が見られます。
日本年金機構は、「サービススタンダード」という支給開始までの期間を短くする目標設定と努力はしていますが、受給者が増えていることもあってなかなか改善につながっていないようです。
もしケガや病気、障害などで働けなくなったら、障害年金を受け取るまでの間、貯金を切り崩さなければなりませんので、システムの改修や申請から承認までのフローの見直しがより一層求められるでしょう。
2つ目の問題点は、「制度変更により支給停止になる人が続出した」ということです。
以前まで障害年金の審査と認定は各都道府県の障害年金センターの認定医の裁量により行われていました。そのため、A県では認定されたのにB県では認定されないといったケースが起こっており、その問題を解決するために東京の認定に統一されたのです。
しかし、この変更が混乱の元となりました。
支給対象者の症状を東京に統一することは、地方に住む人の症状を書面上のみで判断することになります。加えて、東京で新人認定医を増員させる必要があり、認定基準のばらつきや質の低下を招いたとされています。
結果、数千人に「支給停止の通知」が送付されたことで混乱を招き、国は慌てて支給停止となった人への再支給や検討を始めました。
障害年金受給にあたって、障害の症状が変わったわけでもないのに、突然、支給停止になるのはおかしいという声も多く挙がっています。
支給までの期間の長さ、制度自体の曖昧さが相次いで露呈している今、国は制度自体の見直しを検討する時期がきていると言えるのではないでしょうか。
まとめ
病気やケガや障害で働けなくなり、収入がなくなれば、多くの人が生活を維持できなくなります。そういった人達の救済措置が障害年金です。
生活の不安を軽減してくれるありがたい制度であることは間違いありませんが、障害年金の恩恵を受けて感謝している人がいる反面、国による制度変更で障害年金の支給停止を通知された人もおり、そもそも制度の仕組みをよく知らずに支給停止になってしまう人もいます。
こういった事態に慌てないようにするためにも、障害年金の制度上のルールや申請方法、支給までの生活費に余裕があるかなど、いざ自身が病気やケガ、障害などにより働けなくなった時に備えて、制度の仕組みを理解することが大切です。
執筆者プロフィール