障がい者の施設や制度を利用するときに「障害福祉サービス受給者証(以下、受給者証)」が必要です。
受給者証があると、就労移行支援事業所や自立訓練、グループホームなど、公的な障害福祉サービスが利用できます。
受給者証を作るときに、相談支援事業所への契約をする機会が出てきます。
一体、相談支援事業所とは何なのでしょうか。
相談支援事業所はどんなサービスをしているのでしょうか。
相談支援事業所とは何か?
1.定義と役割
相談支援事業所とは、
「地域の障害者等の福祉に関する各般の問題に つき、障害者等、障害児の保護者又は障害者等の介護を行う者からの相談に応じ、必要 な情報の提供及び助言を行い、併せてこれらの者と市町村及び第二十九条第二項に規定 する指定障害福祉サービス事業者等との連絡調整(サービス利用支援及び継続サービス 利用支援に関するものを除く。)その他の厚生労働省令で定める便宜を総合的に供与する」施設のことを言います。
(参考:障害者総合支援法 第5条19 基本相談支援とは)
かんたんに言うと、
「障害のある人やその家族からの相談に応じ、必要な情報や支援を提供する機関」のことです。
障害のある人やその家族からの相談に応じ、地域で生活するための情報提供や支援のコーディネートを相談支援事業所が行います。
相談支援事業所は、市町村から委託を受け、相談支援事業を行う機関です。
障害のある人やその家族は、自分の使いたい相談支援事業所を選ぶことができ、契約という形で相談支援事業のサービスを受けることができます。
相談支援事業所にはいくつか種類があるので、ご紹介します。
2.相談支援事業所の種類
相談支援事業所には主に3種類あります。
それぞれ役割が異なるため、簡単にご説明します。
①一般相談支援事業
一般相談支援事業では、病院から退院してきた障害者がスムーズに地域での生活に移行できるよう、障害者やその家族の相談にのるという事業です。
特に、長期にわたって入院していたり、施設に入っていた障害者が地域で暮らす際のサポートを行います。
障害者が新たに住む場所を探す、契約手続きを補助する、その他生活全般の困りごとを解決するなどが支援に含まれています。
②特定相談支援事業
特定相談支援事業では、地域で暮らす障害者が、障害福祉サービスを利用するために必要な計画を作り、状態に応じて見直しを行うことによって、障害者が安心して生活できるようサポートする事業です。
障害福祉サービスを利用するために、「サービス等利用計画」という名前のケアプランを作ります。
そのケアプランに沿って障害者をサポートします。
その都度、障害者が必要なサービスの提案や情報提供をしたり、障害者が障害福祉サービスを利用しやすいようアドバイスをすることもあります。
③障害児相談支援事業
上に書いた2つの事業は、障害者総合支援法に定められた事業です。
障害児相談支援事業は、児童福祉法に定められた事業で、主に児童発達支援や放課後等デイサービスを利用するときなどに使います。
サービスの内容としては、ほぼ特定相談支援事業と同じです。
児童福祉法に定められた事業ですので、18歳未満まで適用になります。
特定相談支援事業所のサービス内容
すでに地域で生活をしている障害者がいちばん接することがあるのは、特定相談支援事業所になります。
障害福祉サービスについての相談や利用・継続のことで障害者が直接かかわることが多いです。
今回は②の特定相談支援事業所のサービス内容にしぼってお話しします。
1.特定相談支援事業所のサービスを利用した事例
まずは、特定相談支援事業所のサービスがイメージしやすいように、事例をひとつみていただきます。
A子さん 30代女性 双極性障害
高校卒業後、双極性障害を発症しました。
何回か入退院を繰り返し、退院後しばらく自宅にいましたが、両親と一緒にいるとA子さんの病状が悪化するということが判明しました。
そこで、グループホーム(共同生活援助)を使って自立の方向に向かうことになります。
そのときに、A子さんは市役所でグループホームを利用する手続きをします。
A子さんは特定相談支援事業所と契約し、「サービス等利用計画」(A子さんにとって、国や地方自治体がグループホームの利用を必要と認めてもらうためにケアプランを立ててもらう必要があります)を作ってもらいました。
しばらくA子さんがグループホームで暮らし、慣れてきたころ、社会参加もしてみたいという希望をA子さんが出してきたので、特定相談支援事業所の相談支援員に相談しました。
相談支援員からは、まずは就労継続支援B型事業所に通い、体調と相談しながら社会参加をし、工賃をもらうのはどうか、と提案されます。
相談支援員とA子さんで一緒にB型事業所をいくつか見学し、A子さんは行きたいB型事業所を決め、体験してきました。
すでにグループホームのために受給者証は市から支給されているため、ここにB型事業所の障害福祉サービスの利用を認めてもらうため、相談支援員がサービス等利用計画を更新し、市に提出し、A子さんは無事にB型事業所の契約に至ります。
相談支援員は、A子さんのニーズが「少しずつで良いので将来的に自立したい」というものだったため、「安定して週3日通所する」「自分の感情の波をコントロールする」という目標をA子さんと一緒に立てました。
しかし、A子さんの病状が悪化すると、何日かB型事業所に通えない日が続き、通所しても不安定な症状であるという報告がB型事業所から相談支援事業所に入りました。
そこで、B型事業所入所1ヶ月後のモニタリング(見守り)の時期に相談支援事業所、A子さん、B型事業所のサービス管理責任者、グループホームの職員でケース会議を行いました。
生活リズムが不安定になると服薬も不安定になるという報告をグループホームから受けたため、服薬管理についてはグループホームでみてもらうことにしました。
B型事業所では、感情の波が不安定だと感じたら面談をしてもらうよう、相談支援員からお願いしました。
相談支援員を中心に、今後も連携を強化していくということになり、3ヶ月目のモニタリングまで様子をみました。
3ヶ月目のモニタリングでケース会議を行ったところ、A子さんの服薬が安定すると、多少感情は安定することが判明しました。
B型事業所からは、作業がなくなると感情が不安定になる様子も聞かれたので、小さな作業でも良いのでなるべく与えられるよう工夫してもらうことになりました。
以上の事例を参考にしながら、特定相談支援事業所がどのようなサービスを提供しているのかをご紹介していきます。
2.相談支援と情報提供
特定相談支援事業所は、障害者やその家族が直面する困りごとや悩みに対して相談と情報提供を行います。
資格を持った専門スタッフがいて、親身になって話を聞き、適切なアドバイスや支援方法を提案していきます。
実際の相談は、その障害者の日常や就労などに関する相談、障害者の状態に合ったサービスの情報提供などがあり、障害者が安心して生活するためのサポートを行っています。
その結果、相談支援事業所を利用している障害者およびその家族は、地域にどのような支援機関があるのか理解し、自分たちに必要なサービスを選択できるようになるのです。
3.支援計画の作成
障害福祉サービスを利用している障害者およびその家族は、「支援計画の作成」というところで初めて相談支援事業所の職員と出会うことが多いでしょう。
障害福祉サービスには、自立訓練、就労支援、グループホームやショートステイ、訪問看護や訪問介護など、さまざまなサービスが用意されています。
(参考:障害福祉サービスの内容 |厚生労働省)
これらを利用するにあたり、「(障害福祉サービス)受給者証」が必要になります。
受給者証を市区町村から発行してもらうときに、相談支援事業所が作る「サービス等支援計画」が必要です。
(自治体によっては相談支援事業所が不足しており、必ずしも必要ではないという地域もあるようです)
支援計画は「あなたの生活の中に、この障害福祉サービスが必要ですよ」という証明にもなり、国や地方自治体が障害福祉サービス利用の一部負担をしてくれる根拠として役立ちます。
支援計画は、相談支援事業所と障害者本人との契約をしてから作ります。
本人は地域にあるさまざまな運営母体の相談支援事業所の中から1つ選択し、契約を結べるのです。
支援計画は、障害者およびその家族のニーズを聴きながら、サービスを使う目標を決めて作成していきます。
4.福祉サービスの調整とコーディネート
障害福祉サービスを利用し始めると、ほかにも必要なサービスが出てくることがあります。
たとえば、就労移行支援事業所に通い、一般就労をめざしている障害者がいるとします。
相談支援事業所の方で、その人が就労移行支援事業所に通所するにあたって一人暮らしをした方が良いのではないかと相談支援員が感じたとします。
その人にショートステイやグループホームなどの利用を提案するなどして、サービスとサービスをつなぐ役割をすることも可能です。
また、就労継続支援B型事業所と訪問看護、両方を利用されている場合、相談支援事業所が間に入ってコーディネーター役になってくれることもあります。
そうすれば就労支援系の事業所への通所が継続でき、目標に近づきやすくなるからです。
このように、相談支援事業所は福祉サービスの調整とコーディネートを行ってくれます。
5.支援内容の定期的なモニタリング
障害福祉サービスの利用が始まると、「本当に支援がきちんとできているか」「このサービスは本当に本人にとって効果があるか」をみるための定期的なモニタリング(見守り)を行っていきます。
たとえば就労移行支援であれば、本当に就労に対する訓練ができているのか、就労するにあたってあとどんなスキルが必要なのかなど、見守りを行い、市区町村に聞き取りの内容を提出します。
モニタリングの時期は受給者証に書かれており、人によってちがいますが、おおむね1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年という感じで少しずつ間隔があいていくのが一般的です。
モニタリングは利用している障害福祉サービスの職員と本人、相談支援員で行うことが多いです。
複数の障害福祉サービスを利用している場合は、モニタリングがケース会議のようになることもあります。
このようにして障害者本人が目標に向けてきちんと進んでいるかのモニタリングを行っていくのです。
(参考:相談支援事業所とは?概要、機能、役割、サービス内容、運営について | みんなの障がい | 全国の障害者・福祉福祉施設が見つかるポータルサイト)
特定相談支援事業所の利用方法
それでは、実際に特定相談支援事業所を利用するには、何をしたら良いのでしょうか。
私たちが特定相談支援事業所を見つけ、契約し、どう進んでいくかのプロセスをみていきましょう。
1.相談支援事業所の選び方
相談支援事業所の選び方についてのポイントをいくつかお伝えします。
・地域の福祉サービスに詳しい事業所であること
・相談支援員が親身に相談にのってくれること
・相談支援員が障害者の状態に合わせて的確な情報提供をしてくれること
・相談支援員が地域のサービスをつなげるコーディネーターとしてフットワーク軽く動いてくれること
この4点を特に注意してみましょう。
実際には、首都圏の人口の多いところですと、どこも空きがないということもあります。
はじめに市区町村から相談支援事業所のリストをもらって自分で連絡をとることもあるかもしれません。
そのときの電話応対の良し悪しも相談支援事業所を選ぶときのポイントとなるでしょう。
空きがたとえなかったとしても、親身になって考えてくれたり、空きがありそうな事業所を紹介してくれる事業所は良い事業所だと思って良いでしょう。
または、障害福祉サービス側が紹介してくれる事業所は、比較的親身になってくれるところが多いので、そこを利用しても良いでしょう。
わからなければ、自分が利用しようとしている福祉サービスの人にどの相談支援事業所が自分に合っていそうか聞いてみると良いでしょう。
2.相談の流れ
自分が使おうと思っている障害福祉サービスが決まったら、市区町村の窓口でサービスを利用したいと伝えます。
その後、市区町村にて障害者本人の状態の聞き取りを行い、受給者証発行のためにサービス等利用計画を作ってもらいます。
そこで相談支援事業所の出番になるのですが、相談支援事業所が決まったらまず面接の日程を決め、契約を行います。
契約したら、障害福祉サービスの利用のためにサービス等利用計画案を作るための聞き取り(これは相談支援事業所の聞き取りで、生育歴や障害の状態、使いたい福祉サービスのニーズや目標などを一緒に立てる)を行います。
ここから障害者とその家族は、相談支援事業所のサービスを利用することができます。
必要があれば都度予約をとって相談をすることができます。
3.特定相談支援事業所を効果的に利用した事例
それでは、もうひとつ事例をみていただきます。
今度は、特定相談支援事業所を探すところからうまく利用し、障害者が少しずつ就労系の通所施設に通所できるようになる過程をみていきます。
C男さん 20代男性 発達障害
大学まで卒業したが、就労できず、数年間ひきこもっていた。
母親が就労継続B型事業所というところがあると聞き、C男さんと一緒に見学・体験をした。
C男はその事業所を気に入り、通所することに決めた。
B型事業所のサービス管理責任者と一緒に相談支援事業所を決め、連絡をとった。
自宅の近所で、電話応対がとても親切だった相談支援事業所を利用する。
本人のB型事業所通所のニーズは「母親がいなくなったときに自立して生きていくこと」「少しでも収入を得て、自分の力で稼ぐこと」であった。
そのために、B型事業所では「B型事業所に週3日通うことで家の外にいる時間をのばす」という目標を立てた。
相談支援員にサービス等利用計画を作ってもらい、就労継続支援B型事業所の利用を開始。
C男さんは引きこもり歴が数年あったため、不安になるとB型事業所を休みがちだった。
1ヶ月後のモニタリングのときに、相談支援員とA男さん、母親、サービス管理責任者で目標の見直しを行い、まずは週2日安定して通所することをいちばんの目標にした。
それを達成するためには、B型事業所の方で「わかりやすく、簡潔な指示」が必要であることと、作業ができたらほめることが必要であるということが判明したため、その方針で支援していくことにした。
3ヶ月後に再び相談支援員がモニタリングをしたところ、C男さんは通所のモチベーションも上がり、安定して週3日通うことができるようになっていた。
以上のように、
・最初に立てた目標が本人にとって高すぎないか
・目標を達成するために何が必要か
などを整理していくことで、本人のモチベーションを維持し、通所につなげることができました。
まとめ
今回は、相談支援事業所とは何か、どんなサービスがあるのかについてお話ししました。
相談支援事業所にはいくつか種類があり、障害福祉サービスを利用する場合は「特定相談支援事業所」を利用することになります。
障害福祉サービスを利用するときには必要になってくる施設ですので、ぜひまめに相談をし、地域の中で自分の希望に合った生活をめざしていきましょう。
使う福祉サービスによっては、相談支援事業所と障害者およびその家族とは長いお付き合いになりますので、慎重に選び、良い関係を築いていけるとよいですね。
執筆者プロフィール
臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。