8050問題とは?80代親と50代子の厳しい現実と解決策

8050問題とは?80代親と50代子の厳しい現実と解決策

昨今、8050問題が取り上げられています。
8050問題とは、80代の親と50代の子が同居し、さまざまな問題を抱える社会問題のことです。
50代の子どもが就職せず、または就職後に辞めて引きこもり状態となり、80代の親が高齢になっても経済的・生活的に支え続けている家庭が増えている現象を指します。
50代の子どもは80代の親の年金を頼りに生活が続き、親が介護状態になったり亡くなったりすると、子どもの生活が立ち行かなくなるおそれがあります。
8050問題の社会的背景と事例を今回はご紹介します。

8050問題の背景にある社会構造の変化

就職氷河期と非正規雇用の拡大

なぜ50代の子どもたちがひきこもってしまったのでしょうか。
それは、就職氷河期が大きな影響を与えています。
学歴を重ねても、結局就職できずにそのまま家庭の中でひきこもってしまう現象が多くみられます。
また、非正規雇用が拡大したことにより、現在の50代前半より下の人たちはなかなか正社員にはなれず、アルバイトでしか採用されませんでした。
さらには、アルバイトの人たちが実質的に正社員と同じような仕事をしていることもあり、労働の割には賃金も少なく、疲弊してしまったという人も多数います。
そのような状況で、現在の50代の子はなかなか実家を出て一人暮らしをする経済力もなく、そのまま親元に居続けるしかない状態が続きました。

核家族化、晩婚化、未婚化の進行

現代の核家族化によって、80代親と50代子はセットで孤立してしまうという状況が続いています。
昔であれば、叔父や叔母、場合によっては姪や甥などが一緒に住んでいたものですが、今は違います。
また、子どもが高学歴になったことによって晩婚化も進みました。
晩婚化したことで、体力がなくなってくる頃に子どもを産むことになり、年老いた親が面倒をみるパターンも少なくありません。
さらに、経済的不安から未婚化も進んでいます。
実際には1997(平成9)年時点で大卒男子の平均初任給が19万3000円、大卒女子の平均初任給が18万6000円です。
(参照:賃金構造基本統計調査(初任給) 結果の概要|厚生労働省

年収にすると、300万円に満たない状態です。
物価がちがうので80代親世代の大卒初任給と単純に比較はできませんが、80代親の時代の物価が安かったことを考えると、年収300万円で独立して家庭を築くのはかなり困難であるといえるでしょう。
子どもが自分で家を構えるだけの財力がないため、高度経済成長期に稼いできた親が年金で養うという状態が現在続いているのです。

社会保障制度の現状と課題

氷河期世代に対する社会保障制度は、後手にまわっているというのが実情です。
長期間の非正規雇用または無職の状態から正社員へのルートに乗るのは困難です。
氷河期世代の就職や雇用に対する主な支援制度や助成金は以下になります。

しかし、これらが実際に機能しているかというと、実際の氷河期世代の人数に比べて正社員の枠があまりにも少ないことと、職種や勤務地が限られているという問題もあり、なかなか氷河期世代のニーズに合っていないということがいえます。

8050問題の当事者の実態

80代の親の苦悩

80代の親の苦悩としては、大きく3つ挙げられます。

①経済的負担

80代の親は、老齢年金と働いていたときの預金で暮らしています。
夫婦だけならば何とか暮らしていけるお金かもしれませんが、それでも経済的には厳しいです。
その中で、50代の子の分まで生活費等を支払わなくてはならないとなると、経済的にはとても苦しい状態になります。
特に50代の子がひきこもり・無職であった場合、50代の子からの収入はありません。
親亡き後に子どもだけが残るとなると、その分もお金を残しておかなくてはなりません。
そこまで考えると、80代の親としては経済的負担が非常に大きいです。

②精神的負担

80代の親は、自分たちが亡くなった後のことを考えると、子どもが一人残されてしまうので、それだけでも精神的負担は大きいです。
また、親の体が弱ってきていることもあり、病院に行ったり、介護を受けることもありますが、そこで子どもを頼ることもできず、自力で何とかしなくてはならない状態になることも負担になります。
親子関係が悪く、ひきこもりの子どもが暴言を吐いたり暴力を振るうということがあると、親の精神的負担はさらに増します。
お互いの若い時期からの複雑な関係が続いていると、一緒に暮らしているだけでも耐えがたい状況が続くのです。

③介護問題

80代の親は、介護問題も生じる可能性が大きいです。
両親がそろっていても、老老介護がおこなわれることがあります。
また、50代の子どもが介護に関わらなくてはならない場面も出てきますが、子どもだけで介護に必要な手続きができなかったり、介護サービスをうまく利用できなかったりすることもあります。
そのため、80代の親が介護状態になった場合、介護が十分に行き届かないこともあります。

50代の子どもの状況

50代の子どもの状況としては、主に3つ挙げられます。

①ひきこもり

現在の50代の子は、氷河期世代かつ団塊ジュニア世代です。
学生時代から学歴などの競争社会に生きています。同学年の人数も多かった世代です。
競争社会でうまくいかなかった人がひきこもり、長期化して50代になってしまった、というケースが多々あります。
学校を卒業しても、氷河期時代で仕事に就くこともできず、現在までそのままひきこもりが続いているケースもあります。

②無職

50代の子どもは、正社員になれなかった人だけではなく、非正規雇用の職にはどうにか就けたものの、何年も低賃金のままで親元から独立できなかった人たちもいます。
さらに、狭き門の正社員にはなれたものの、周りに同期が全然いない時代です。
その中でパワハラを受けたり、長時間労働を強いられて泣く泣く退職した人たちもいます。
一度レールを外れた人たちが再就職をすることは大変難しく、そのまま無職の状態が続きました。
そのため経済的に自立できず、親元を離れられない状況で今に至ります。

③病気、精神疾患など

もともと50代の子に知的障害や発達障害があるケース、後天的にうつ病や統合失調症などの精神疾患を患って働けなくなったケースがあります。
ほかにも、働いていたけれど体の病気になり、途中から働けなくなってしまったケースもあります。
中には親の介護問題に向き合う中で、介護うつや神経症になり働けなくなった人もいます。

8050問題の事例—80代親の立場から見た8050問題—

80代親の立場の事例

Aさん 80代女性 夫は10年前に他界
10代後半からひきこもっている子ども、現在50代男性のBさんが同居しています。
Bさんは大学受験に失敗し、その時からひきこもりが続いています。
教育熱心だったAさんとAさんの夫のことをBさんは恨んでおり、AさんとBさんの関係は良好ではありません。
Bさんは「自分がひきこもったのは、親の過剰な期待と失望のせい。親が責任を取るべき」と主張しています。
最近Bさんは暴力は振るわなくなったものの、何かあると「お前のせいでひきこもりになった」とAさんを責めてきます。
夫がいるときは夫がAさんを守ってくれましたが、今は夫がいません。
Aさんは、子どもがひきこもりであることが恥だと長年感じており、なかなか相談できずに過ごしてきましたが、もう自分の心が限界だということで、相談に踏み切ったのです。
Aさんは地方自治体のひきこもり相談窓口に電話し、アドバイスを受けました。


✓Bさんに対しては怖い感情があるかもしれないが、まずは冷静に対応し、暴力を振るわれるようであれば警察の介入も視野に入れること
✓Aさんの精神的なケアのため、定期的な休息やリラクゼーションも心がけること
✓何かあったらAさんの心身の状態を最優先にすること
✓Bさんが暴言を吐いた際のことを考え、地域包括支援センターとあらかじめつながっておくこと

Bさんの暴言や暴力は高齢者虐待にあたるため、通報すれば緊急一時保護でショートステイも使える可能性があります。

高齢者の緊急一時保護の対象は65歳以上、要支援・要介護認定等は問われません。
虐待の疑いがあると判断されれば、緊急一時保護の対象になります。
Aさんはその話を聞き、何かあればその方法を使おうと考えました。
自分にも逃げ場があるとわかり、Aさんはホッとしたと話しています。

暴言・暴力のある50代ひきこもりBさんからの高齢者虐待で苦しむ80代母親Aさんの事例になります。
地域包括支援センターにアクセスし、緊急一時保護が使えるように手はずを取っておくことで、Aさんの心身が守られます。
実際、逃げ場がないと感じている80代の親は多いと考えられます。
このように、80代の親が地域とつながることで、8050問題の解決の糸口となることもあります。困ったときは、ぜひ地域とつながっていただきたいです。

まとめ

8050問題は、若年層だったひきこもりが長期化し、中高年になってしまった結果、50代になってしまった子どもと、親も年を取り80代に突入してしまったことで起こっている現象ですが、この問題は、核家族化したために社会から隠されてしまい、さらに深刻化したものと考えられます。
8050問題の突破口としては、「地域とつながること」により他人の目が介入することであると言えるでしょう。
今回は80代の親の立場からのお話をさせていただきましたが、50代の子の立場からの悩みも多いです。
それぞれの立場の人たちが地域とつながることで、8050問題の解決の糸口は見つかっていくはずです。
このような悩みをお持ちの方は、ぜひ地域包括支援センターや地方自治体のひきこもり地域支援センターなどにアクセスしてみると良いでしょう。

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