2013年に厚生労働省が行った調査では、障害者の前職の退職理由として「退職職場の雰囲気・人間関係」と「賃金、労働条件に不満」という回答が多かったことが分かっています。
障害者採用が初めての企業の場合、障害者への接し方や配慮など基本的な事がわからず、せっかく雇用してもすぐに退職というケースも少なくありません。
そこで、この記事では障害者の採用でありがちな失敗事例7つを重要なポイントも踏まえて解説いたします。
【失敗例1】障害者雇用や障害そのものを把握できていない
経営者や役員だけで障害者雇用の話を進めてしまうケースがあります。
そのまま障害者雇用を進めていくと、「障害者の採用や業務指導、サポートなどを行う現場の担当者が障害者雇用制度や障害について把握できていない」といった事態になってしまう恐れがあります。
まず、企業が障害者雇用を進める場合、最低でも以下のような準備が必要となります。
- 障害者雇用の制度を把握する
- 障害の特性を知る
- 障害者に対する適切な配慮を学ぶ
- 配属予定の部署との連携体制を構築する
- 全社員に向けて障害者雇用の研修や教育を行う
障害者採用や業務指導、マネジメントを行う担当がこれらを把握していなければ、全社員への障害者雇用に関する周知はもちろん、理解を深めるための情報発信や研修もできません。
障害者が安心して長く勤務できる環境を作るために、経営者サイドと障害者の採用やサポート等を行う担当者らが一緒になって、障害者の雇用環境を整えていくことが大切です。
【失敗例2】障害者の採用と管理を丸投げ
経営者だけで障害者雇用を検討するには、もう1つ欠点があります。
それは「障害者採用や業務指示などの運用方法を現場に丸投げしてしまう」ということです。
もちろん全ての会社がそうではありませんが、実際に以下のような事例があります。
しかし、社内全体はおろか責任者さえも障害者雇用への知識や理解がない状態でした。
その後、障害者雇用におけるトラブルが発生し、その全てが責任者に押しつけられる形となった結果、その責任者は退職してしまったのでした。
経営者サイドの独りよがりで障害者雇用を推し進めた結果、失敗した事例ですが、やはり障害者の採用や雇用後の業務指導、サポートを行う担当者の理解も事前に得ることは必要不可欠です。
仮にどうにかうまくいったとしても、最終的には障害者の働く環境として不十分になるだけでなく、既存社員に不安を与えたり、働くモチベーションを下げる結果にも繋がる可能性が高くなります。
続いて、その具体的な例をご紹介します。
【失敗例3】社内の理解が深まっていない
障害者雇用を進めていくからには、「社内で十分な理解が得られていない」ことのないように気をつけなければいけません。
実際に、社内で障害者雇用について理解が不十分だったために、以下のようなトラブルに発展したという報告もあります。
- 障害者雇用への理解が深まっておらず、障害者本人と既存社員の精神的負担が大きくなった
- 聴覚障害であるというだけで、業務用の古いバージョンのPCを貸与された
- 視覚障害者であるにも関わらず、小さな文字の資料がそのまま配布された
- 人とのコミュニケーションが苦手な精神疾患があるのに、昼食や食事会に無理やり誘った
- 精神障害への社内理解が乏しく、個人間トラブルで障害者(または既存社員)が退職した
障害者雇用について社内全体での啓発活動が行われていないと、上記のような事例に発展する可能性があります。
例えば精神障害者の場合、「通常の行動と障害による行動」の線引きが難しいケースもあるため、業務やコミュニケーションでの誤解からトラブルになることも少なくないでしょう。
また、障害の特性を既存社員らが理解できていないため、業務が障害者本人のキャパシティを越えてしまうケースも十分考えられることです。
本人の障害について確認や社内共有する場合は、プライバシーの観点で本人の意思と了承を得る必要があります。
しかし、少なくとも「なぜ障害者を雇用するのか」「必要になる障害者への配慮」「困った時の相談窓口がどこになるか」ということは、事前に研修や社内回覧等で周知しておいた方が良いでしょう。
【失敗例4】外部の支援を頼らず独自の雇用方法で失敗
初めて障害者を雇用する場合、「外部機関の支援を頼らず独自の方法で雇用する」ことは避けた方が良いでしょう。
会社が独自の判断で雇用した結果、例えば以下のような失敗に繋がることがあります。
- 仕事への意欲はあったが、精神疾患による生活習慣の乱れから休みがちになった
- 精神障害が原因で前職でもトラブルを起こしていたことを知らずに採用し、雇用後にやはりトラブルを起こした
- 障害に対する自己管理や通院の必要性を会社が把握しておらず、最終的に退職してしまった
障害者を採用するにあたって確認すべきポイントに「職業準備性」があります。
職業準備性とは、日常生活に問題はないか職場のルールを守れるかなど、仕事をするために必要な基本的な要件のことです。
障害者にも安定して仕事をしてもらうためには本人への確認だけでなく、障害や経歴についても把握している支援機関やハローワークとの連携が欠かせません。
そのため、会社独自の判断だけで採否を決めず、外部の支援機関にも協力を得ることを前提とした方が良いのです。
【失敗例5】障害の症状を意図せず悪化させてしまう
障害には、個々で種類や症状が異なる「個別性」があります。
個別性を考慮しないことで意図せず障害の症状を悪化させてしまうケースもあるため、注意が必要です。
例えば、以下のような事例です。
社員とのコミュニケーションも良好で、業務上の問題も表面的には全く問題ありません。
しかし、次第に社員への不満を口にするようになっていきます。
その後、体調不良を理由に休みがちになり、最終的に退職してしまいました。
この事例では、症状を悪化させる何らかキッカケがあった可能性が考えられます。
この症状を悪化させるキッカケは本人しか分からないことから「トリガー」と呼ばれることもあります。
精神障害を持っていることを周りの社員が把握していたとしても、何がキッカケとなって症状が悪化するか分かりません。
本人の様子に変化がないかを日頃から気にかけるようにしつつ、ハローワークや外部の支援機関と連携しながら障害者採用を進めるのが望ましい形と言えるでしょう。
【失敗例6】仕事の切り出しができない
障害者採用を進めても、雇用後に「仕事の切り出しができない」という事例もあります。
理由は様々ですが、相談事例に多いのは「専門的な業務を行う会社のため任せられる仕事がない」などを主な理由としているケースです。
仕事の切り出しができていないと、せっかく障害者を雇用しても丸一日待機させてしまうことになり、障害者本人にも心苦しい思いをさせてしまい、病状を悪化させてしまうことにも繋がりかねません。
これらは社内の障害者雇用への理解が不十分だったり、「できること、できないこと」を上長や業務指示を出す担当者が把握していないことが主な要因とも言えます。
対策として、支援機関などのサポートも活用しながら、障害者個人の特性に合った業務を探してみましょう。
資料整理や顧客へのダイレクトメール送付作業、データ入力など、何かしら任せられる作業があるはずです。
【失敗例7】障害者同士で結託してしまう
社内で特定の人同士が仲良くしていて、会社や上司の陰口を言うのはどこの会社でもあることです。
ただ、これは健常者だけでなく障害者雇用の現場でも起こり得ることです。実際に「障害者同士で結託してしまう」という、以下のような事例がありました。
これは、障害者同士という支えがあった方が良いだろうという会社側の配慮によるものです。
ところが、その配慮が裏目に出ます。
仲良くしていた2人の結束が徐々に強くなっていき、既存社員と揉め事を起こすようになったのです。
次第に多くの社員が2人を避けるようになり、結局2人は同時に退職してしまいました。
もし、この事例が聴覚障害の方だったとすると、手話や筆談など、本人たち以外には分かりにくい会話を行うことは予想されます。
その結果、2人が仲良くなりすぎてしまったとしても不思議ではありません。
良かれと思って会社が行った障害者採用の措置ではありますが、残念ながら裏目に出てしまったという失敗事例です。
まとめ
障害者採用を初めて行う場合、失敗やトラブルを防ぐためには、まず社内での理解を深めることが最初の一歩となります。
障害者採用の担当者や経営陣はもちろん、社内の環境作りができていないのに障害者を雇用しても、安定した雇用の実現は難しいでしょう。
雇用という場面においては極力失敗の要因を排除し、障害者に安心して働いてもらえる環境を社内全体で作れるようにしたいものです。
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