国の税収から障害者福祉関連にどれくらいの予算が組まれているかご存知でしょうか。
実は日本の障害者関連支出、GDP比で1%ほどしかなく、世界的に見ても決して予算の多い国とは言えません。
だからといって、必ずしも国が障害者関連の事業や政策に無頓着なわけではなく、主に厚生労働省が推進するための予算を組み新たに開始される事業や政策、既にイノベーションが始まっている障害者関連事業もあります。
今回は少し視点を変えて、国家予算から見る今後の障害者福祉の展望について、我が国が力を入れそうな事業や障害関連支出の国際比較も含めて考えてみたいと思います。
過去5年における障害者福祉の予算推移
まず最初に、国家予算として税金がどのように使われているか内訳をご覧ください。
【出典】財務省 国の支出と収入の内訳は?
上のグラフは平成30年度における内訳ですが、障害者福祉費が含まれる社会保障費が3割以上を占めています。
では続いて、社会保障費がどのような内訳になっているか見てみましょう。
【出典】財務省 平成31年度予算政府案
年金や医療が半分以上を占めていますが、障害福祉関連費は緑色の「生活扶助等社会福祉費その他」の8兆7,825億円に含まれています。
「保健衛生対策費」「雇用労災対策費」も併せての8兆円ですが、予算は概ね2兆円弱で社会保障費の5%ほどになりますので、そう低い予算とも言えないでしょう。
事実、障害保健福祉関連費をさらに細分化した「障害福祉サービス関係費」は毎年上がり続け、現在は1兆5,000億円にものぼります。
【出典】厚生労働省 障害者自立支援給付支払等システム関係資料
あまり話題になりませんが、障害者関連予算は毎年上がり続けています。上のグラフにもある通り、10年前からすると3倍近くにもなっているのです。
障害者福祉施策の動向と新たに組まれる5つの予算
毎年上がり続ける障害保健福祉関係費ですが、単に予算が増え続けているわけではなく、毎年カットする部分や新たに組まれる予算もあります。
では、令和2年の予算案で組まれることが予測される新たな予算を見てみましょう。
- 【障害福祉の仕事の魅力発信】
- 厚生労働省が民間企業に公募を行い、障害福祉に関わる仕事の魅力を発信していくための事業予算です。若年層や子育てを終えた人、働く高齢者に対して介護職の魅力をアピール、体験型イベントや障害福祉関連の仕事をアピールする動画の作成などを行い、介護業界の意識改革を図ります。
- 【障害福祉分野におけるICT導入支援モデル事業】
- 厚生労働省が公表している省内各部局における令和2年度の概算要求では、障害福祉分野のICT導入による生産性向上を掲げています。
障害福祉分野における生産性向上に向けた取組を促進するため、障害福祉サービス事業所等におけるICT 導入を支援し、その効果を測定・検証するモデル事業を実施する。
特に具体例は示されていませんが、「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」で以下の内容が話し合われました。
- 障害福祉サービス事業所における事務の効率化について把握し、その上でICTの導入を推進するためのガイドラインを作成して展開する
- 国や自治体が義務付ける障害福祉サービス事業所の提出書類、また、障害福祉サービス事業所が作成する書類の見直しを進めて文書量の削減に取り組む
【参考】第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部 資料
これまでにも、既に福祉分野においてロボットの導入支援などで予算は組まれていました。
障害福祉分野におけるICT導入支援モデル事業は、福祉分野の業務効率化による生産性向上を図るのが目的の予算です。
- 【教育と福祉の連携の推進】
- 教育と福祉の連携に関して、以下2つの予算が新規に要求されています。
障害児施策におけるインクルーシブな支援の推進
比較的具体的な案を出しているのが、障害児に対するインクルーシブ支援です。
インクルーシブとは「障害者が排除されないように社会生活に溶け込めるようにしていこう」という考え方で、「障壁を取り除こう」というノーマライゼーションとよく似た言葉です。
障害児に対するインクルーシブ支援の予算概要では、主に以下3つが示されています。
- 児童発達支援センターにソーシャルワーカーを配置
- 地域の支援施設同士の連携を促進し、障害が気になる子どもと家族の相談支援を実施
- 親子等が集まる施設を巡回し、障害の早期発見や対応、助言といった戸別訪問の支援を実施
聴覚障害児支援のための中核機能の強化
保健や医療、福祉の連携強化を協議する機関を設置します。また、補聴器や手話などによる情報提供や聴覚障害児が通う学校を巡回するなどの機能を向上させます。
障害者雇用の場において、昨今「農福連携」という考え方が示されています。農業の現場において障害者就労の場を提供していこうという政策です。
すでに農林水産省と厚生労働省、その他団体等が連携して「日本農福連携協会」も発足し、厚生労働省が提示する予算の要求では以下の内容が根拠となっています。
- 農業と福祉の連携による障害者就労モデル事業
- 当該事業のガイドブック
- 農福連携等推進協議会の開催
来年度予算に見る注目の障害者支援施策
来年度予算の要求内容から新規で組まれた予算を見てきましたが、最も興味深いのが「農福連携事業」です。
先ほどご紹介した通り、すでに日本農福連携協会が発足しており、多くの取り組みが実施されています。
【出典】日本農福連携協会
日本農福連携協会が運営する「ノウフク」というプラットフォームでは、広く会員を募集しています。
個人でも年1万円の協賛金を支払えば会員になることが可能です。なお、個人会員になると以下のような特典があります。
- 日本農福連携協会が主催するフォーラム、セミナー、マルシェへの参加
- ノウフクロゴマークの使用
- ノウフク メールマガジンの配信
- ノウフクWEBでの商品や事業所の紹介
- その他農福連携に関わる全般的な相談
厚生労働省が来年度予算案に新たに組み込んだ農福連携のモデル事業ですが、もしかすると農福連携による農産物が一般化する起爆剤になるかもしれません。
障害者福祉サービスの予算は増やすべき?減らすべき?
これまで障害者福祉では「自治体に丸投げ」という意見が少なくありませんでした。国が積極介入しない、自治体任せの運営になっていた部分があったのです。
また逆に、各自治体による支援を受けるための条件に差があったり、予算が増えても当事者への恩恵が薄いという意見もありました。
そもそも日本の障害福祉関連への予算は世界的に見て多いのか少ないのか、国際比較の興味深いデータを見てみましょう。
【出典】OECD
少し見づらいですが、左から4番目の黄色が日本です。障害関連費は、GDP比で1%ほどしかありません。
対する一番右側の青色が障害者福祉が充実しているフィンランドです。実に日本の3倍以上の予算で障害者福祉を行っているのが分かります。
日本は少子高齢化により、社会保障費が逼迫していると常々言われてきましたが、障害福祉関連予算の増加や福祉分野における環境整備は経済の発展に寄与する可能性が十分にあるとも言われています。
日本経済の底上げという観点で考えたとき、障害福祉への予算を今後も増やしていくべきなのは言うまでもないでしょう。
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