「障害者eスポーツ」という言葉をご存じでしょうか。「eスポーツ」とは「エレクトロニック・スポーツ」の略です。
eスポーツでは、主にパソコンのオンラインゲーム、アーケードゲーム、家庭用ゲーム機やスマートフォンなどで、コンピュータゲームの技術・能力の優劣を互いに競い合います。
一般的なスポーツとは異なり、コントローラーやキーボードなどを使用することから、障害の有無を問わず、誰もが参加できる競技として話題です。
最近は、障害者雇用の促進を目的とした、障害者eスポーツ大会「ePARA」が開催されました。
今回は「ePARA」をはじめ、関連するeスポーツ市場の動向とともに、障害者eスポーツ大会が障害者雇用につながる可能性について解説します。
「ePARA」は障害者が参加するeスポーツ大会
「ePARA」は、障害者雇用の促進を目的としたeスポーツ大会を開催する団体です。
eスポーツを通じて、「障害者がやりがいをもって働ける環境を作る」とともに、障害の有無にかかわらず競い合えるイベントの開催を目指しています。
2019年11月24日に第1回大会が実施され、第2回目はバリアフリーの視点を取り入れたイベント「バリアフリー eスポーツ ePARA2020」として、2020年5月31日に開催しました。
「才能の発掘」をイベントのコンセプトにした同大会では、身体、知的、精神の障害がある人と、障害者採用に興味がある企業の担当者、約60人がオンラインで結集。
障害者の就労とバリアフリー eスポーツをテーマにしたパネルディスカッションや、一般参加型(障害者、健常者を問わず)のオンラインeスポーツ大会が行われました。
「ePARA」の代表を務めるのは、東京都品川区社会福祉協議会の品川成年後見センターに勤務する加藤大貴氏です。
障害者雇用の現場で、3ヵ国語を話せるのに一日中シュレッダー係をしている人や、HPを見るだけという仕事をする人、「居るだけでいいよ」と言われた人など、数多くの悩みを耳にしてきました。
そんな状況を改善すべく企画したのが「ePARA」です。
ePARAでは障害者と企業の関係者がコミュニケーションを図ることで、「障害者の新たな才能を知ってもらい、雇用につなげていくこと」が活動の狙いとなっています。
【参考】障がい者eスポーツに関するニュースサイト – ePARA
eスポーツ大会が障害者雇用促進につながる可能性
eスポーツは、パソコンや家庭用ゲーム機で自宅からでも参加できる上、障害者でもキーボードやゲームパッドが使えれば健常者と対等に競えます。
今後、eスポーツ関連産業が拡大すれば、障害者が働く機会も増える可能性が大いにあると言えるでしょう。
障害者がeスポーツに参加することで、ITへの親和性などを実践で見せることができ、採用側の判断材料にもつながることから、人材発掘の機会として注目している企業も少なくありません。
また、前述の加藤氏がeスポーツに着目したのは、パソコンやネット環境、ゲームの知識だけではありません。
eスポーツには、高い集中力を維持する能力も求められるからです。人材として求めている企業もあるでしょう。
実際に「ePARA2019」開催後、参加者であった障害者4人の就職先が決定しました。
就職後はコールセンター業務やクラウドファンディングの仕事に就き、生き生きと働いているといいます。
障害者のeスポーツへの取り組みが、経済的自立や自己実現につながり、障害者の可能性を広げる選択肢の1つになった好例です。
また、障害者に対するeスポーツコーチなどの職種を開発することは、eスポーツキャリア開発とともに介護人材不足の対策になる可能性も秘めています。
【参考】「障害者e-Sportsワークショップ in LFS」レポート。eスポーツが産業として成長するために,障害者の参加は欠かせない
【参考】eスポーツで障害者の「働きたい」架け橋に 元裁判所書記官がイベント計画 – 産経ニュース
eスポーツ市場は年間平均成長率約26%で拡大を続ける
今後も、障害者eスポーツ大会を障害者雇用促進の機会とするには、eスポーツ市場の成長が不可欠です。
KADOKAWA Game Linkageによると、日本のeスポーツ市場は、2018年から2019年にかけて大手企業の参入が相次ぎ、市場の伸長が続いています。
2019年の同市場規模は、前年比127%の約61.2億円となりました。さらに、2020年から2023年までの年間平均成長率は約26%と予測されています。
背景にあるのは、モバイルのeスポーツを活発化させる、次世代モバイル通信「5G」の開始です。
家庭用ゲーム機・パソコン向けeスポーツタイトルが、今後モバイル端末でも展開されることが見込まれ、スマートフォンが普及している今、さらにeスポーツ市場が拡大すると見られているのです。
また、2019年の日本eスポーツファン数は前年比126%の約483万人となりました。
今後、大会数の増加や「5G」による動画視聴の機会が増えることで、eスポーツファンがさらに拡大することが見込まれます。
eスポーツ市場が健全に成長するためには、会場で観戦したり動画配信を視聴したりする層や一般層を取り込み、裾野を拡大することが重要になります。
eスポーツが障害者の役に立っているという事実を啓蒙していくことが、今後の発展の一助になるかもしれません。
【出典】2019年日本eスポーツ市場規模は60億円を突破。~KADOKAWA Game Linkage発表~|株式会社KADOKAWA
障害者雇用促進をけん引する「ePARA」に今後も注目
「ePARA」は大会だけでなく、障害者eスポーツに関するニュースサイトも運営しています。
大会やイベント情報のほかにも、「目の見えない人はどんなゲームをしてきたのか」といった記事などを掲載しており、見ごたえも十分。
障害者がeスポーツにチャレンジするきっかけになりそうなコンテンツ作りになっています。
サイトではいろいろな可能性を模索しており、今後は、就職セミナーとeスポーツを混ぜたようなイベントも検討しています。
リモートワークを認める企業が増えていく可能性が高いため、オンラインとeスポーツで相乗効果を生み出せることを期待しています。
コロナ禍だからこそ、eスポーツの可能性を知ってもらえるチャンス。コミュニティを広げ、障害の有無やeスポーツとスポーツ、それぞれの垣根を取り払っていく挑戦は続いていくようです。
障害者とeスポーツ、そして雇用をつなげる国内の取り組みはまだ始まったばかりで、その親和性を実感できるイベントの開催例もほとんどありません。
その中でも「ePARA」は、障害者eスポーツの大きな可能性を感じさせたイベントの1つと言えます。
今後も活動や発信内容に注目していきたいイベントであり、団体と言えるでしょう。
【参考】加藤大貴(ePARA実行委員会代表)<後編>「オンラインで広がる可能性」 – SPORTS COMMUNICATIONS
執筆者プロフィール
広告代理店アカウントエグゼクティブ、取材・撮影コーディネーターなどを経て、現在は2人の息子を育てながらWebライターとして執筆活動を行っている。長年の海外在住経験からダイバーシティに関心があり、誰もが個性を活かし、生きがいのある人生を送れるような情報を発信中。