将来どうする?障害者の“親亡き後問題”を考える5つのヒント

将来どうする?障害者の“親亡き後問題”を考える5つのヒント

「親亡き後問題」とは、障害者の親が亡くなった後に、障害者の生活や支援がどうなるかという不安や課題のことを言います。
実際に親が亡くなってからではなく、親が健在なうちに準備が必要です。
事前に準備することで、「親亡き後」の障害者のサポート体制を作っていくことができるからです。
本記事では、障害者の親が抱える不安を挙げ、行動に変える5つのヒントをご紹介します。

ヒント①「まずは現実を知る」— 親がいなくなった後に起きうること

障害者本人の世話は、親が担っているケースが大半です。
そのため、親が突然いなくなると本人の支援が途切れ、混乱するケースを多く見かけます。
親がいなくなってもリスクを最小限におさえるためには、まず親がいなくなったときにどうなるか、現実を知っておくことが必要です。

支援が途切れるリスク

親が支援者とのやりとりや書類管理、金銭管理などをすべておこなっている場合、親がいなくなると障害者本人の支援を引き継ぐ人がいなくなります。
本人の代弁を親がしていることも多く、親がいなくなると本人の希望や意思が伝わりにくくなります。
家族を通じてしか支援機関(学校、福祉サービス、医療機関、職場など)とつながっていない場合は、親が亡くなると障害者自身の情報共有ができなくなるケースも出てくるのです。
このように、「親の献身によって支援が成り立っていた」ケースでは、親亡き後に支援が続かない可能性があります。
今のうちから支援を引き継げる体制づくりをしておくことが重要です。

では、もし”親亡き後”のことをあらかじめ考えていなかった場合、一体どうなるのか、事例をもとに考えてみましょう。

事例:母親の突然の病気によりパニックになったAさん

Aさん(50代女性、精神障害と知的障害が合併している事例)
Aさんは、家事手伝いをして暮らしていました。
Aさんの親は現在80代です。ご両親とも生きていますが、父親は1日おきに透析をしなくてはならず、母親が本人の面倒を全面的にみていました。
ある日、母親が倒れ、緊急入院することになりました。
Aさんは母親頼りの生活をしていたため、母親が入院してパニックになってしまい、病状が悪化します。
父親もAさんの病状の急変にどうして良いかわからず、右往左往しています。
普段は母親が本人の面倒をみていたため、父親もパニックへの対応がわからず、とりあえず本人をかかりつけの病院に連れていきました。
主治医の判断で、Aさんは即入院となり、パニックがおさまったころに退院支援という形で支援員が入ることになりました。
退院してからは、支援員とともに日中過ごせる場を探しています。

もしも親が元気なうちから本人の支援体制をあらかじめ作っていたならば、母親の入院後に本人がパニックになって入院するのを防ぐことができたでしょう。
それでは、どのように本人の支援体制を作っていくと良いのでしょうか。
まずは本人の支援体制の現状を把握し、その上でヒント②から⑤までを親が元気なうちに考えておく必要があります。

ヒント②「支援のつながりを持つ」— 相談できる人とつながる

親が生きている間に、障害者本人が相談できる人とつながっておくことが必要です。
本人を支えてくれる地域の支援員とつながっておくことが、「親亡き後問題」を乗り越えるカギとなります。
たとえば、地域の相談支援専門員や、医療・福祉関係者との関係を、親がいる間に構築しておくと良いでしょう。
また、親だけでなく、ご近所や親戚など、周囲の大人も本人の「見守り役」にすることも大事です。
家族以外に頼れる、もう1人のキーパーソンを持ち、本人が親の支援があるうちから慣れておくことで、親亡き後も支援を途切れさせないようにすることができます。

ヒント③「暮らしの場を考える」— どこで、誰と、どう暮らすかを描く

障害者本人が親亡き後に暮らす場を考えておくことは、とても重要です。
親亡き後、本人は一人暮らしをしていくのか。
一人暮らしを考えているのであれば、その前にどんな援助が必要なのか考える必要があります。
具体的には下記が挙げられます。

・グループホームの利用
・生活介護施設(主に重度の障害がある方や、日常的な介護が必要な方に対して、日中の活動や生活支援を提供する障害福祉サービスの施設)の利用
・自立生活支援ー訪問介護や訪問看護、往診の利用など

親亡き後に、上記のような支援を突然導入しようとしても、難しいことが多いです。
親のいるうちから慣れることが大切ですので、親が健康なうちに本人がどこでどう暮らすかを考えておきましょう。
親の思いと本人の希望をあらかじめすり合わせておくことも大事です。

ヒント④「お金と制度の準備」— 生活を支える資金と法的手段を知る

障害者本人が生きていくためには、お金の確保や制度の利用が欠かせません。
たとえば、20歳以降であれば障害年金をもらう手続きをしておくと、将来の生活の足しになります。
また、障害者手帳の使い方を適切に知っておくことによって、税金の負担軽減や支払いの減免など、経済的支援につながりますので、本人に教えておくか、本人にアドバイスしてくれる支援者をつける必要があるでしょう。
場合によっては成年後見制度を利用し、本人の財産を守る必要も出てきます。
親亡き後に兄弟姉妹との確執が起きないために、あらかじめ親が遺言をのこしておくなどして、本人が困らないよう配慮する必要もあるかもしれません。
親が財産をのこしておくことが難しい場合は、生活保護も視野に入れておきましょう。
親亡き後、生活保護で暮らす障害者も少なくありません。

ヒント⑤「想いを伝える」— “生き方”と“支援の形”を未来に引き継ぐ

「親亡き後」も障害者本人が安心して暮らせるようになるためには、親の願い、価値観、本人にしてほしいことを聞き取ってくれる支援者が必要です。
親が元気なうちから、本人の支援者と「本人にどのような生き方をしてほしいか」「どのような支援が必要か」などについて話し合っておくと良いです。
具体的には、引き継ぎノートを利用したり、共有できる支援シートがあると、親亡き後もスムーズに本人の支援をおこなうことができます。
また、障害者本人の支援体制をどう作っていくかについて、関係者と親で定期的なケース会議をおこない、親亡き後の支援が途切れないようにしましょう。
親が元気なうちから親の思いを伝えておくことで、より適切な支援を本人に提供することができるようになるでしょう。

親亡き後について話し合う-相談支援事業所をキーパーソンにした事例

Bさん(30代男性、中等度の知的障害)、両親とも60代。
両親としては、親亡き後Bさんが何とか一人で暮らせるようになってほしい、という願いがあります。
Bさんが一人で生きていけるようにと、グループホームに入所させることにしました。
相談支援事業所が中心になり、日中の社会参加の場として就労継続支援B型事業所にBさんを通わせることも検討しました。
また、B型事業所に通っていない日はヘルパーに来てもらい、身の回りのことを手伝ってもらうことにしました。
障害年金の手続きも支援者が手伝い、もらえるようになったのです。
グループホームからの卒業については、また親と本人と支援者たちで支援会議をおこなわなくてはなりませんが、当面は両親の経済的な支援と障害年金とB型事業所の工賃で暮らす予定です。
両親が財産を持っているため、ゆくゆくは成年後見人をつける必要もあることも話し合っています。

このように、親が元気なうちから、障害者本人にどのようになってもらいたいか、どのように本人を支援してもらいたいかを話し合っておければ、親亡き後も支援を引き継ぐことができて安心ですね。

おわりに

親亡き後の本人の支援に不安はつきものですが、あらかじめ衣食住の確保、支援員との相談など、支援体制を備えておくことで不安を軽くすることができます。
大切なのは、親が一人で抱えないことと、今から親亡き後への準備を始めることです。
障害者本人が将来どのように生きていくのがベストなのか、どのような未来を歩むことが本人のためになるのか、少しずつ描いていきましょう。

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