不動産業とレンタルキッチン事業を展開するリノスペ株式会社 代表取締役、竹越達哉さんにインタビューさせていただきました。
一度は破産・倒産を経験し、人生のどん底を味わった竹越さん。その後、不動産業からスタートし、現在はレンタルキッチン事業に「夢中になって」取り組んでいます。時間貸しのレンタルキッチンを通じて、副業で飲食店開業を夢見る人々や、結婚相談所の新しいマッチング企画まで、多様なニーズに応える事業を展開しています。
2026年までに全国100店舗、さらには世界展開を目指す竹越さんに、事業の特徴から今後の展望まで、熱い想いを伺いました。
事業内容と竹越さんの歩み
ー事業内容と自己紹介をお聞かせください。
リノスペ株式会社の竹越です。宅建士をしたりM&A仲介の専門家をしたり、日本で最多のレンタルキッチンのフランチャイズ本部の運営などをしています。
弊社は大きく分けて2つの事業を展開しています。1つ目は不動産業で、リノベーションに向いた中古物件の売買と、リノベーション費用込みの銀行融資をワンストップで提供しています。
2つ目がレンタルキッチン事業です。1時間3,000円程度で時間貸しするキッチンスペースで、料理教室はもちろん、個人の食事会、YouTuber の撮影、企業の福利厚生、外国人旅行客向けの家庭料理体験など、多様な用途で利用されています。
最近増えているのが結婚相談所の企画で、男女3対3のコンパをレンタルキッチンで行い、男性が料理を作る姿から家庭的な一面を見定めるマッチングが驚くほど流行しています。キッチンでは手慣れているかどうかが一目瞭然で、自然な気遣いなど作られていない本当の姿が見えることから成約率も高いそうです。
起業の経緯と人生の転機
ー起業に至った経緯を教えてください。
実は2014年に一度起業して、会社が倒産し、自己破産も経験しました。多くの方にご迷惑をおかけしてしまい、もう経営者には向いていないと思ったんです。
しかし、自分の性格は変えられませんでした。「こうしたらいいのに」「もっとこうしてみたい」と、誰かの役に立ったり困りごとを解決することに頭が向いてしまう。企業内では利益追求の営業ができなかったので、やはり自分でやるしかないと思いました。
宅建の免許を取得し、人生で一番高い買い物である家の購入で、絶対に人を騙したり裏切ったりしない営業マンになろうと決めて不動産業を始めました。しかし、不動産業を進める中で、住宅ローンという35年間の長期ローンをお客様に背負わせることに責任を感じるようになりました。
お客様に素晴らしい家を購入していただいても、奥様から「パパ頑張って35年ローン払わなきゃね」と言われる姿を見て、何か自分にできることはないかと考えたんです。そこで、お客様のローン返済を手伝えるような事業ができれば、家の購入も収入の柱も増やしてもらえて「竹さんに出会えて良かった」と思ってもらえるのではないかと思いました。
過去の倒産・破産でご迷惑をおかけしたことは消せませんが、何か社会のためになりたいという想いから、やりたいことが世の中になかったので自分で作ろうと決意。それが現在のレンタルキッチン事業に発展していったのです。
レンタルキッチン事業の転換点「朝会」の発見
ー事業の大きな転換点があったとお聞きしました。
3年間の予約データを分析した時、朝7時から11時までの4時間が年間売上の2%しかないことが分かりました。この時間は清掃のために業務委託者に来てもらうコストの方が高くついていたんです。
そこで、この時間を無料開放して、利用者に簡単な清掃をお願いする「朝会」を始めました。無料だから気軽に利用でき、利用者との距離も近くなりました。
この朝会の無料利用者を「ゴールドゲスト会員」と名付け、無料で貸してやるという上から目線ではなく、清掃や備品補充、レビュー投稿など、コストをかけずに維持してくれる特別な存在として位置づけています。
実際、ゴールドゲスト会員の方々は次の利用者のことを考えて丁寧に清掃してくれますし、設備の不具合も教えてくれる。まさに最高のパートナーです。
レンタルキッチン事業の成功要因
ーレンタルキッチンは副業で飲食店開業を夢見る方のニーズが多いとお聞きしましたが、詳しく教えてください。
将来飲食店で独立したい方は多いのですが、資金面やリスクの高さから実現できない人が大半です。
私たちは「間借り飲食店」として、週1回の副業からスタートできる環境を提供しています。継続することで「自信」「顧客リスト」「得意商品」の3つが手に入り、独立への道筋が見えてきます。
SNS時代では発信力がある人なら路面店である必要はありません。マンションの一室でも、1日5人のお客様がいれば副業として成り立つんです。
ーコロナ禍での影響はいかがでしたか?
むしろレンタルキッチンの需要は増えています。副業が推奨される時代になり、飲食店開業への第一歩としてレンタルキッチンを選ぶ方が増加しました。
衛生面でも、他店と冷蔵庫や食器を共有する従来の間借りと違い、私たちのスペースは最初から空の状態なので安心して利用できます。
社会貢献は重要な命題
ー経営において大切にしている価値観はありますか?
起業家として3つのテーマを大事にしています。ビジネスが永続できること、社会に貢献すること、雇用を生み出すこと。この中でも社会貢献は重要な命題として追求し続けなければならないと考えています。
例えば障害者アート支援では、祖父が視覚障害者だったこともあり障害に対して距離の近い人間として取り組んでいます。
障害のある方々が働ける環境を作りたく、体に障害がある方にはネット業務を在宅で、精神的な障害で働くことに距離を置いている方には自分のペースでできる清掃業務を提供しています。また、リノベーション空間と障害者アートは相性が良く、色鮮やかな絵で空間が華やかになります。
炊き出しボランティアについても、実は私自身が破産後に福岡で炊き出しを利用させていただいた経験があります。温かい味噌汁とおにぎりをいただいた時の「よし頑張るぞ」という気持ちを今でも覚えており、少しでも協力できる立場に戻れた今、恩返しの気持ちで支援させていただいています。
[リノスぺさんからのサポート]レンタルスペースにて障がい者アートコラボを実施した際の様子(写真左)・福祉.tvが定期開催している無料炊き出しに提供いただいたドリンク(写真右)
経営者としての想い
ー事業に「夢中になっている」とおっしゃっていましたが、その背景を教えてください。
絶対に辞めたくない仕事に出会えたからです。破産・倒産を経験した私は、また失ってしまうのではないかという不安を常に抱えていますが、今の仕事は心から楽しいんです。
私の楽しさは達成感にあります。お金や名誉ではなく、場所で困っている人の問題を解決できること。住む家を探す人、店舗を出したい人、それぞれの理想に合った場所を提案し、空間を作り上げる。そこに予約が入った時の喜びは、2019年の1件目から今でも変わりません。
ー今でも毎日40-50件の予約に震えるほど楽しいと。
はい。フランチャイズの投資家さんから預かったお金で事業を行い「竹さんのおかげで回収できた」と言われること、利用者の方からの「楽しかった」というレビュー、すべてが存在価値を実感させてくれます。
失ってしまった信用があった私にとって、今この事業でだれかの役に立てているという実感は、何物にも代えがたいものです。24時間では足りないと思うほど、やりたいことが山積みです。
今後の展望と世界戦略
ー今後の目標を教えてください。
まず2026年12月までに全国100店舗を達成し、「日本一の店舗数を誇るレンタルキッチン」と言えるようになりたいです。その後2030年までに300店舗まで拡大し、レンタルキッチンブランドとして日本一を獲得します。
そして2031年からは世界展開を開始する予定です。
ー世界展開の具体的なビジョンは?
世界の家庭料理が食べられるレンタルキッチンを、リノスペブランドとして世界に展開したいと考えています。
2030年までは「料理アクティビティの場所」として、訪日外国人にも日本の家庭料理体験を提供します。2031年からは「料理ツーリズム」ブランドとして、旅行と料理を組み合わせた新しい体験価値を世界中で提供していきます。
まとめ(編集部より)
一度は人生のどん底を経験しながら、そこから這い上がり「絶対に辞めたくない仕事」に出会った竹越さん。破産・倒産という辛い経験を乗り越えて得た「だれかの役に立ちたい」という純粋な想いが、事業の根幹に流れています。
朝会という小さな気づきから生まれたレンタルキッチン事業は、副業飲食店を夢見る人々の第一歩を支援し、結婚相談所の新しいマッチング手法まで生み出している画期的なビジネスモデルです。
社会貢献活動も事業と密接に結びつけながら、持続可能な形で継続している点も印象的でした。100店舗、300店舗、そして世界展開へと続く壮大なビジョンに向けて、今日も「夢中になって」事業に取り組む竹越さんの今後の展開が非常に楽しみです。
貴重なお話をありがとうございました!
■リノスペ株式会社
https://rinosupe.jp/
インタビュアー:保地谷文音
執筆者プロフィール

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