強度行動障害が近年関心を集めています。特別支援学校や福祉施設、ご家庭などで「自傷」「他害」「破壊行動」などの対応で苦労される様子が多くみられます。
支援者が一人ではとても対応できない、実際にどうかかわれば良いのかわからない、と悩まれているのが現状です。
また、かつては入所施設で暮らしていた強度行動障害のある子どもが、地域で生活する流れが進んでいます。そのため、地域生活の中でも強度行動障害のある子どもとかかわる機会も増えてきています。
本記事では、強度行動障害とは何か、事例と対応方法をまじえてお話しします。
強度行動障害とは
強度行動障害とは、知的障害や自閉症などの発達障害のある子が
- 自傷行為(自分の体をたたく、噛む、頭などを壁にぶつけるなど)
- 他害行為(他人をたたく、物を投げる、けるなど)
- 物を壊す、パニック状態、極端なこだわりなどの行動が強い頻度・強度で繰り返される状態
を指します。
これらの行動は、知的障害の子や自閉症などの子が自分の気持ちを言葉で表現できない、環境や予測できない状況に対する不安、感覚の過敏さが原因で起こることが多いと言われています。
強度行動障害は、知的障害や自閉症の二次障害といわれています。
自分の気持ちがなかなかわかってもらえない、自分にとって安心・安全ではない環境の中で過ごしている、などの理由で症状が強くなります。
詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
参考:行動障害の原因とは?適切な対応や支援について紹介 – 福祉.tv NEWS – 福祉を考えるメディア
強度行動障害のある子との接し方
強度行動障害がある子が自傷行為や他害行為、パニック状態などを起こすとき、何もない状態で起こすわけではありません。
一見すると問題行動に見える行動でも、その背後には伝えたいことや困りごとがあるけれどうまく伝えられない、ということが多いです。
「行動には理由がある」と考える
強度行動障害のある子たちは、人を困らせようと思って問題行動を起こしているのではありません。
その行動には、本人なりの理由があります。
たとえば、
- 大声をあげる→「この場にいるのが不安」「騒音がつらい」「言いたいことが伝わらない」
- たたく→「わかってほしい」「やめてほしい」
- パニックを起こす→「自分の想定外のことが起きた」「ルーティンが崩されている」
などがあります。
自閉症特有のこだわりや感覚の過敏さ、知的障害の「あいまいな表現」が理解できない、などが絡んでいる可能性があります。
普段の子どもの言動から、保護者や支援者は本人の訴えや要求を推測して動けると、問題行動が少なくなります。
本人が安心できる環境を整える
本人が安心できる環境をなるべく整えてあげることが、強度行動障害のある子の問題行動を減らすことにつながります。
たとえば、
- 部屋の中の情報量を少なくし、なるべくシンプルな部屋にする
- 音があまり大きくなく、光が強すぎない環境を整える
- 窓の外に飛び出したり、窓を割ったりしないように対策をしておく
- 本人と接するときは、接する側もなるべく冷静に対応する
- スケジュールはなるべく可視化する。スケジュール変更があるときは早めに伝えておく
- パニックを起こしたときなどに落ち着けるスペースを確保しておく
などが挙げられます。
刺激や情報量が少なく、スケジュールが決まっていると、本人は安心できます。
主にかかわる人を決めておく
多くの人がかかわると、強度行動障害のある子の混乱を招くことがあります。
特に、何かを本人に伝える人は少なく、明確にしておくことが重要です。
「Aさんはこう言った」
「Bさんはちがうことを言った」
となると、強度行動障害のある子はどちらが正しいのかわからず、パニックになってしまいます。
このようなパニックを防ぐためにも、主にかかわる人を決めておくと本人も安心します。
また、主にかかわる人は
- ゆっくり、優しい声で、簡潔に
- 押し付けたり命令したりせず
- 小さな成功があればすぐに「できたね」と伝える
ことを心がけましょう。
本人に選択肢を与える
強度行動障害のある子は、命令されたり押し付けられたりしてもパニックになります。
自分の想定外のことを言われて選択権がないと、「それはしたくない」「思っていたのとはちがう」と伝えることができず、問題行動につながることがあります。
たとえば、
「今ごはんを食べる?時計の長い針がここ(指をさす)になったら食べる?」
「今お薬を飲む?30分後に飲む?」
などと選択肢を与えることによって、本人としては「自分で選べる安心感」を得ることができるのです。
強度行動障害のある子の事例
Aくん(9歳・小学3年生) 自閉スペクトラム症(ASD)と中等度知的障害を併発
簡単な会話はできるが、難しい言葉は理解できず、相手の気持ちを汲むことは難しいです。
保護者の希望で特別支援学級に在籍しています。
Aくんは電車が大好きで、いつも同じルートを歩かないと気が済まないというこだわりがあります。
Aくんは、同じルートを歩かなかったり、ルーティンを崩されたりすると、泣き叫び、パニックになります。
もう1回家から歩き直さないとパニックがおさまりません。
また、教室の机やいすの位置がずれていると怒り、物を投げることもあります。
パニックの時は、泣き叫び、頭を壁や机に打ちつけ、時には机やいすを蹴っています。
Aくんにとっては、
「決まったものが決まったところにあること」
「決まったやり方で動いていること」
が何よりも安心できるようです。
予告なしの予定変更や、他人が勝手に物を動かすこと、「マイルール」が守られない状況におちいることで、「自分のペースを崩された」と感じるようです。
Aくんにとっては、予測不能な世界に放り込まれることが何よりも不安になります。
ある日、学校と保護者でケース会議を行いました。
そこでお互いに話し合って決定したのは、
- 1日の流れを絵カードや文字で書いておく(家でも同じようにやる)それをAくんと一緒に朝確認していく
- スケジュールに変更がある時は、どんなに遅くても1日前には伝えておく
- 登校時のルートは変えず、安心して登校できるようにする
- 机の並び順は少しずつ変更していく
(前もって「〇月になったら座る場所を変えるよ」など予告しておき、少しずつ成功体験を増やしていく) - パニックになったら静かなスペースでクールダウンする
- なるべく頭を打ちつける前に介入し、頭を打ちつけずに済んだ経験を増やす
- 学校での支援員は少人数にしぼる
このようにして、家と学校とも連絡を取り合いながら、支援の方針を一致させていきました。
その結果、Aくんの状態が
- 机やいすの位置がずれていても頭を打ちつけたり、机やいすを蹴ることが減った
- スケジュールの変更があっても、前もって伝えればパニックになることが少なくなった
- 急ではない変更については、少しずつ柔軟になってきた
というように、だんだん良くなっていっています。
Aくんが好転していったことにより、保護者や学校の教職員もより安心してAくんを支えることができています。
強度行動障害のある子の家族への支援
強度行動障害のある子への家族への支援ができるところはいくつかあります。
主に行政、福祉関連のところをご紹介します。
行政機関
【市区町村の障害福祉課(地方自治体によっては福祉事務所)】
障害福祉サービスの手続きや障害福祉サービスの受給者証を発行してくれます。
【保健所・保健センター(地方自治体によって名称はちがうことがあります)】
地区担当の保健師が訪問してご家族の相談にのることができます。また、発達相談や医療機関への橋渡しもしてもらうことができます。
【児童相談所】
18歳未満の子で、家庭環境や本人の保護が必要になるようなケースに対応することができます。
福祉サービス
【児童発達支援(未就学児)・放課後等デイサービス(小学1年生~18歳)】
いずれも障害福祉サービスで、療育をおこなうことができます。療育をおこなうだけでなく、子育てのアドバイスをもらったり、相談することもできます。
【短期入所(ショートステイ)・居宅介護】
ご家族に休息が必要なときやご家庭での緊急時に対応することができます。
医療・専門機関
【発達障害者支援センター】
全国各地に設置されています。強度行動障害も含めた発達障害の支援・相談窓口があります。
また、地域での連携や専門家チームの調整などもしてもらえます。
参考:発達障害者支援センター一覧
【精神科・児童精神科(名称が病院によって異なります)】
不安、パニック、睡眠障害などの二次的な症状にも対応してもらえます。
医療機関は投薬ができるため、医療的な立場からの支援を受けることができます。
カウンセラーのいるところであれば保護者がカウンセリングを受けることも可能です。
まとめ
本記事では、強度行動障害のある子への対応と事例、ご家族の支援についてお話ししました。
強度行動障害のある子への支援のポイントは、
- 本人の行動の理由を考え、できるだけ本人にとって安心できる環境を整えていくこと
- 具体的にはスケジュールの可視化、行動の選択肢を与えるなどの工夫をする
などが挙げられます。
一人で抱え込まず、多くの人に協力してもらい、保護者や支援者のメンタルも安定した状態で強度行動障害のある子に接することが何より大切です。
保護者、支援者、専門家などとネットワークを作りながら、チームで強度行動障害のある子の支援をしていきましょう。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。