発達障害に「二次障害」があるのをご存知でしょうか。
「二次障害」とは、病気や怪我などによって起こる別の障害や問題を指す言葉ですが、実は発達障害が原因でうつ病などの精神障害が引き起こされるケースも少なくありません。
この記事では、発達障害によって二次障害が引き起こされる理由を具体的な事例や対策方法なども交えて解説いたします。
二次障害の意味と起こる要因
一般的な二次障害のケースでは、睡眠障害により引き起こされる本人の異常行動や、怪我により患部が炎症したことで神経が圧迫されて皮膚感覚が鈍るなど、最初の疾患を発端として2つ目の疾患が起こる事などが挙げられます。
発達障害における二次障害の場合、発達障害によって引き起こされる精神障害を指すケースが多く、具体的には以下のような事例が挙げられます。
- 自閉症スペクトラムが原因で人間関係に悩み続けて、うつ病を併発してしまう
- 学習障害によりあらゆることに自信が持てず、統合失調症になってしまう
- 注意欠陥多動性障害が原因で忘れ物が多かったり約束時間を守れないなどで、不安障害を抱えるようになる
上記のようなケースは、本人だけが悩みを抱えこむことから「内在化障害」と言われることもあります。
それに対して、外部へ悪影響を及ぼすような二次障害を「外在化障害」と言います。
例えば、発達障害を持った子供が学習障害で読み書きが上手くできず、周りの子供にいじめられた結果、暴力的な性格になってしまうといったケースです。
二次障害というのは、本人だけの問題で起こるものではなく、外的な要因により引き起こされることもあるのです。
誤解を招きやすい発達障害
先ほど「いじめにより暴力的な性格になる」ケースがあることを二次障害の事例として挙げましたが、くれぐれも一例であるということをご理解ください。
というのも、発達障害への理解はまだまだ浅い状況で、一部では「発達障害者は犯罪に走りやすい」という誤解があるためです。
例えば、2018年6月に起きた東海道新幹線内での殺傷事件の犯人が発達障害だったという報道がありました。
これに対し毎日新聞は『容疑者自閉症?「旅に出る」と1月自宅出る』という見出しで記事を公開し、関係者から強い批判を受けることになりました。
同記事の見出しは既に変更されて謝罪文が掲載されていますが、「発達障害が原因」として報じられた事件は何もこれだけではありません。
- 2003年の長崎男児誘拐殺人事件について「加害少年は自閉症である」としたことを日本自閉症協会が批判
- 名古屋大学女子学生殺人事件の容疑者が発達障害を理由に無罪を主張するも、責任能力はあると判断されて最高裁で控訴が棄却
- 豊川市主婦殺人事件の容疑者はアスペルガー症候群と診断され、医療少年院へ送られることになった
- etc…
これらの事件は確かに発達障害が原因と言えるケースもありますが、逆に明確な動機や原因が不明と結論付けられた事件が数多くあるのも事実です。これは医療関係者の間でも賛否両論があります。
ただ、発達障害者が起こした事件について報道される際、事件の根本原因を発達障害と断定する記事が多く、二次障害について触れるものはそう多くはありません。
つまり、発達障害により心が病んでしまった(二次障害)結果、引き起こされた事件かもしれないという事は認知されず、「発達障害者だから事件を起こした」という誤解が生じやすいのが現状なのです。
もちろん発達障害によって二次障害を起こした人が必ず事件を起こすわけではありません。確かに二次障害により周囲に迷惑をかける場合もありますが、本人だけで悩み苦しむケースが少なくないことも認識する必要はあるでしょう。
発達障害より要注意な二次障害の事例
ここで、うつ病を発症したことがきっかけとなり、大人になって初めて発達障害と判明した男性の事例をご紹介します。
Aさんは学生の頃から自己中心的でだらしない性格と見られてしまう以下のような行動が目立ちました。
- いくつ目覚まし時計をセットしても起きられない
- 整理整頓ができず部屋が散らかっている
- 待ち合わせの約束を平気で破る
- 携帯電話や財布など忘れ物が多い
- 不注意が多いため交通事故が多い
- わがまま、キレやすい、イライラすることが多く、人に暴力を振るっていた
そんなAさんも学生の頃までは何とか過ごせてきたものの、銀行に就職して以降、やってはいけない仕事のミスや人間関係の悪化が重なり、次第にタバコやお酒の量が増えていきます。
そして、「自分はだめな人間だ」と考えるようになり、うつ状態に陥ってしまいました。
最終的には、職場の上司に「ADHDではないか?」と指摘され、心療内科を受診したところ、発達障害であることが判明したということです。
これは内閣府のサイトで公開されている福島学院大学の心療内科医師により紹介されている事例です。
Aさんは自己中心的でだらしない、それでいてキレやすいという、発達障害に理解のない人から見れば非常に付き合いにくい人物と映るでしょう。
ただこの事例のように、発達障害が原因と気付かないまま、本人も周りの人も単なる性格の問題と捉えてしまっていては対処のしようがありません。
結果、本人だけが悩み続けた末に、うつ病などの二次障害を引き起こしてしまったのです。
二次障害の対策と治療方法
では、自身もしくは周りから見て発達障害かどうか判断するためにはどうしたら良いのでしょうか。
具体的に「こうすべき」と決まった対処方法があるわけではありませんが、発達障害の特徴や原因などを知ることで、本人や周囲の人が早めに気付きやすくなります。
あくまで発達障害の特徴の一例ですが、以下のような行動が目立つようであれば、専門医師への相談も検討した方がよいでしょう。
- 人の話を聞いているようで聞いていないことが多い
- 自分の世界に入り込み過ぎる
- 忘れ物が多い
- 身の回りの整理や片付けができない
- 時間を守れない
- 計算と読み書きのどちらかが極端に苦手
- 些細なことで怒ることが多い
- 会話のキャッチボールができない
- 一定時間の姿勢保持ができない
- 爪を噛む、貧乏ゆすり、その他チックなどが目立つ
- etc…
では、二次障害を防ぐ、または二次障害になってしまったらどう対処すべきでしょうか。
二次障害も精神疾患の一種ですので、心療内科などの診療だけでなく、以下のような治療等が必要になります。
- カウンセリング
- 薬物療法
- リハビリ
- 周囲のサポート
二次障害というのは本人が悩み苦しむことによって引き起こされるケースが多いため、家族を始めとした周囲の人の配慮が非常に大切です。
生活が不規則になっていないか、食事や運動などが適度かどうかなどにも気を配りつつ、本人がストレスを抱えすぎないような環境作りが必要になります。
そのためには、本人と家族だけで発達障害との付き合い方を考えるのではなく、以下のような専門機関へ相談してみることもおすすめです。
- 《日常生活についての相談》
- ・発達障害者支援センター
- 《仕事についての相談》
- ・地域障害者職業センター
- ・ハローワーク
- 《その他の話を聞きたい時》
- ・病院や保健所、各地域にある家族会
- ・民間の相談スペースや支援団体
具体的に何をどうサポートすべきかは、発達障害の種類や個々の症状により様々ですが、忘れてはいけないのは、先ほどご紹介したような発達障害の特徴が見られたら絶対に放置しないことです。
各専門機関で相談をしながら、本人が発達障害を自覚することと周囲の人ができるサポートが二次障害を防ぐための有効な手段と言えるでしょう。
まとめ
発達障害の特徴が見られたからといって、必ずしも発達障害とは断定できません。仮に発達障害の可能性が高くても、本人に専門医療機関の受診を勧めたことで本人が激昂し、状況を悪化させる可能性もあります。とはいえ、早めに発達障害と分かることが二次障害を防ぐ有効な手段であるのも事実です。
もし、本人が比較的落ち着いて話を聞ける状態であれば、専門医療機関の受診を促し、既に精神状態が不安定であれば周りの人が予め医療機関などへ相談しても良いでしょう。発達障害者が生きづらさを感じて苦しんでいることを周囲が理解し、本人のストレス軽減に務めるのが二次障害の防止にも繋がるのです。
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