欧米の教育に学ぶ「発達障害児を天才にする育て方」

欧米の教育に学ぶ「発達障害児を天才にする育て方」

「天才には発達障害が多い」そんな言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。但し、それは誤解であり真実でもあります。その言葉を額面通りに受け取り奇異の目で見られる事は、発達障害者にとって単なる重荷にしかならない事もあるのです。

では、なぜ世間では「天才に発達障害が多い」という認識が広まっているのでしょうか。その理由は日本とは違う欧米の教育方針に一因があるかもしれません。今回は欧米の教育から発達障害児を天才にする育て方に迫ります。

発達障害児の教育における日本と欧米の違い

まず独立行政法人国立特別支援教育総合研究所がまとめた資料から、諸外国と日本の教育環境の違いを見てみましょう。

【出典】独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所

日本と欧米では教師1人あたりの受け持つ生徒数が大きく違います。日本の小中学校では30人を超えるクラスも少なくありませんが、欧米では1クラス10人〜20人前後が一般的です。こういった教育環境の違いを踏まえて、各国の障害児に対する教育方針を見てみましょう。

オーストラリア
障害の有無に限らず子供は同じ教育の場で就学する権利があり、発達障害児の教育する職員の専門性の向上に努めている
フランス
通常の学校に在籍する児童生徒を補助する「学業補助員」と「学業アシスタント」がおり、生徒の障害状況を評価するマニュアルを関係者に広める措置がとられている
ノルウェー
通常教育が受けられないと判断した場合に特別教育を受ける権利が保証されており、保護者による承認手続きと専門家の見解により支援内容が決定される
イタリア
原則フルインクルージョン教育をとっており、障害の有無に関わらず、地域の学校への就学が保障されている
アメリカ
障害の有無に関係なく同じ学級で一緒に授業を受けるインクルージョン教育が基本で、特別学級などはあくまで通常教育が難しい場合の追加支援という立場をとっている

【参考】独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所「諸外国における障害のある子どもの教育」

イタリアやアメリカの教育方針にある「インクルージョン」とは、障害の有無でクラスを分けずに一緒に学ぶ方式です。上記に対し、日本の教育は以下のような選択方式になっています。

日本
通常学級と個別教育の両方が受けられる「通級」があり、同じ学校内で通常学級と個別教育のクラスが分けられた「特別支援学級」や障害児のみが通う「特別支援学校」もある

近年は日本もインクルージョン教育を受ける場を提供する学校が増えており、必ずしも日本の障害児教育が遅れているとは言えません。

ただし、一つだけ決定的な違いがあります。それはアメリカとイタリアが「インクルージョン教育」を基本としているのに対し、日本の教育制度は3つの選択肢が与えられているという事です。

当然、障害児に対する教育はサポートが必要ですので、インクルージョン教育は少人数制でないと実現は難しいと考えられます。教師1人当たりが受け持つ生徒数の多さも教育方針の違いに影響していると言えるのではないでしょうか。

発達障害者が世界を動かした多くの実例

「天才」と呼ばれる人たちには発達障害が多いと言われています。特に有名な例として、アインシュタインやスピルバーグが挙げられます。

アルバート・アインシュタイン
よく「アインシュタインはADHDやASDだった」などと言われますが、実は確たる証拠はありません。あくまで彼のエピソードなどから発達障害が疑われているにすぎないのです。ただ、ディスレクシア(読字障害)があったのは間違いないとされており、同時に空間をとらえる能力に優れていたとも言われています。アインシュタインは物理学の歴史において知らぬ者はいない程、偉人中の偉人。当時の常識を覆した相対性理論は現代物理学の礎となりました。
スティーブン・スピルバーグ
過去に自身がアスペルガーであると告白したスティーブン・スピルバーグ。2012年にはディスレクシアであることも明かしています。ディスレクシアが原因でイジメにも遭い、学校も遅れて卒業したとのこと。そんな彼を支えたのが映画製作。数々の作品で映画界だけでなく人々に与えた影響は計り知れません。驚くことに、自身がディスレクシアだと知ったのは2007年に60歳になってからのこと。ディスレクシアだと告白した時の「謎が解けた」という彼の言葉は数多くのメディアで取り上げられました。

他にも発達障害を持っていて世界的に有名な人は数多くいます。その多くに共通するのは「いじめの経験」です。もちろん、いじめが天才を育てるわけではなく、いじめに限らず辛い思いをする本人たちへの親や周囲の人のサポート、その中で与えられた何らかのキッカケが結果的に天才を育てたとも言えそうです。

例えば、アインシュタインの場合、幼少期には言語障害があり、文字を書くのも苦手だったとされていますが、彼の特異な才能に気づいた両親が積極的に才能を伸ばすよう教育した結果、数学や物理学の分野で早くから天才的な才能を発揮するようになりました。

また、スピルバーグの場合、父親と出かけた先で見た映画や夜空、そして8mmビデオカメラを与えられたことが映画作成のきっかけとされています。家庭環境が良くなかったため、逆に映画作成に没頭することで心の支えになっていたそうです。

上記の事実を踏まえると、決して裕福な家庭である必要は無く、「才能を伸ばす環境」「没頭できる環境」の2つが発達障害児を天才に育てるための必須条件と言えるのかもしれません。

16歳の発達障害の少女が地球温暖化を止める!?

天才とは少し違いますが、世界中の人々を動かした若き活動家がいます。それは16歳のスウェーデン人の少女「グレタ・トゥンベリ」さん。彼女はオペラ歌手の母と元俳優の父の間に生まれた学生環境活動家です。8歳の頃に地球温暖化について知り、その原因が人間であることに強い危機感を抱きます。その深いショックから11歳でうつ病になりますが、15歳の時には地球温暖化対策を求める「学校ストライキ」をたった1人で実行。そして2018年には活動が全世界に広まり、なんと270都市で2万人以上の学生がストライキを行うまでに拡大しています。

そんな彼女ですが、実は発達障害の持ち主。彼女自身「発達障害だからやれたことだ」と語っており、同時に「誇り」とも言っています。では彼女の言う発達障害だからこそ出来た事とは一体何を指すのでしょうか。彼女の過去の発言をいくつか見てみましょう。

  • 人とは異なる視点で世界を見ることができる
  • 1つのことだけに関心を持ち続けられる
  • 1つのことをいつまでも行うことができる

グレタ・トゥンベリさんの両親は、学校に行くべきだとしながらも、排気ガスの出る飛行機の利用を中止したり、父親も俳優業をやめて彼女の活動支援を行い、家族で温暖化に関する書籍を読みながらどうすればよいかを話し合っているといいます。

発達障害児を天才にする育て方

アインシュタインやスピルバーグ、グレタ・トゥンベリさんに共通するのは、「家族が絶対的なサポーターであること」です。そして、「自分の望んだ行動や活動がしやすい環境にあった」ことも才能を更に伸ばした要因だと考えられます。

発達障害者か健常者かに関係なく、天才を育てる方法に決まったやり方があるわけではありません。しかし、アメリカの研究プログラム「SMPY」では、以下の8つが天才を育てるために重要だとしています。

  1. 子どもに多種多様な経験をさせる
  2. 子どもが1つのことに強い関心を示したら、さらに学ばせて発達させる機会を与える
  3. 知性と感情の両面をサポートする
  4. 本人の能力ではなく努力したことを褒めて成長する大事さを学ばせる
  5. 失敗を恐れず知的なリスクを取るよう促す
  6. 「天才だ」「できる子だ」とレッテルを貼らない
  7. 子供のニーズ沿った学習環境を満たせるよう学校と相談する
  8. 知能テストを受けさせて本人の特性や発達障害の有無を見極める

上記を見た時、発達障害でありながら天才と呼ばれる人たちに当てはまるものが多いと感じた方も多いのではないでしょうか。様々な経験をさせながら、夢中になれるものを見つけたら自由にやらせる。その上で、両親や周囲のサポートがあることで天才は育っていく。そんな風にも捉えられます。

ただし、「発達障害=ギフテッド(先天的な天才)」と決めつける禁物です。発達障害が理由で他の精神障害を併発しているケースもあり、障害者当人にとって周りの期待が苦痛にしかならない場合があるためです。

子供の行動に干渉しすぎず、最低限の社会性は学ばせる。そんな親の姿勢が発達障害児を天才に育てる秘訣なのかもしれません。

執筆者プロフィール

TOPへ