近年、他の児童と遊ぶ時の様子が少しおかしいかも?という些細な疑問や、学校でトラブルを引き起こすまたは巻き込まれるなどで「うちの子は発達障害かもしれない」と考える人が増えているのではないでしょうか。発達障害は年齢が上がる、すなわち出来ることが増えてくると生活などの困難が比例して増える場合があり、親が「育て方が悪かった」と思い悩んでしまうこともあります。
自分の子どもが「障害」と診断されることへの抵抗感、相談すべき場所がわからない、などの理由で悩みを抱え込んでしまうと、将来的に発達障害以外の精神疾患を併発するリスクも生まれます。この記事では、「もしかして?」と思ったときに相談できる窓口や、診断の一例などを紹介します。
発達障害とは
発達障害は自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、知的能力障害群、コミュニケーション障害群(吃音、言語障害など)の5つに大別されます。発達期に発症し、症状の程度や種類は人により様々です。大人になってからの発症はありませんが、職場でのトラブルなどをきっかけに見落とされていた発達の特性が判明して診断が出ることはあります。
1.発達障害の原因は子育てではない
発達障害は生まれつき脳の機能がほかの人と異なる特性で、早ければ乳幼児期に発症がわかり、療育などの支援に繋がるケースもあります。発症の原因ははっきりわかっていませんが、親の子育てを原因として発症することはないことがわかっています。
しかし、本人の発達の特性で親が育てにくさを感じ、愛着形成が上手くいかないことはあります。少しでも育てにくさなどの悩みや、子どもが目を合わせてくれないといった困りごとがある場合は保健所や児童相談所などの機関に早めに相談することが大切です。
2.知能検査や行動観察で診断
乳幼児期や児童期に発達障害が疑われる場合は、家族や本人への問診、行動観察、心理検査や知能検査などを経て診断が出ます。発達検査と呼ばれるものについては、知能検査が含まれていることがあります。検査内容の具体例として、ウェクスラー式知能検査やロールシャッハテスト(心理検査)があります。これらの検査は主に小児精神科や小児神経科で実施されますが、児童相談所などが検査や病院の紹介をしていることもあります。
相談できる行政機関とそれぞれの特徴
発達障害は人によって症状の度合いや特性も様々です。成長と共に特性が改善される、程度が軽いなどで大人になってから判明することもあれば、乳幼児期から「育てにくさ」として特性が現れている場合もあります。
今回は、子どもの発達障害について相談できる行政機関を紹介します。
1.児童相談所
児童相談所は、児童虐待に関する窓口と思う人もいるかもしれません。
ですが、「子どもが学校へ行きたがらない」「病気などの事情で子育てに不安がある」「子どもの同級生で気になる子がいる」など、子どもに関係する内容は何でも相談できる場所です。
自治体ごとに設置されており、児童福祉司や児童心理司などの専門スタッフが助言指導などのサポートをしてくれます。
一部地域では発達検査を実施しているので、お住まいの地域を管轄する児童相談所に、事前に電話で相談してみましょう。
2.保健所
乳幼児健康診査を実施している保健所が、健診結果などに基づいて医療機関を紹介してくれる場合があります。広汎性発達障害については、1歳から3歳までに発覚することが多いほか、成長に伴い特性が改善されて発達障害を見落とすこともあります。子どもの特性について詳しいことがわからなくても、「なんとなく育てにくさを感じている」などの悩みを抱えているときは素直に相談することで、支援に繋がりやすくなることがあります。
3.発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害を抱える人を対象とした支援を総合的に実施する施設です。運営母体は自治体や特定非営利活動法人、社会福祉法人など様々です。それぞれ地域性はありますが、発達検査や支援計画の作成、就労支援などが主な業務内容です。このセンターでは、子どもだけでなく大人も支援対象に含まれます。
行政機関の情報はどこで入手する?
支援センターや施設情報などは、自治体の広報誌で詳細に記述されています。子育て世代向けのイベント情報や行政相談の日程も掲載されているため、定期的にチェックしてみましょう。
相談の前にできること
発達障害は人により特性が異なるだけでなく、学校でのトラブルなどに起因する精神疾患の併発や、精神疾患と誤診されるケースもあります。相談の前などにご家庭で出来ることを紹介します。以下の内容はあくまで一例ですので、すべてを実践しないと相談ができないというわけではありません。
1.子どもの写真や動画を撮影する
写真や動画があると、普段の様子が具体的に伝わりやすくなります。受診や相談の際には、可能であればスマホのデータだけでなくプリントアウトしたものも持参すると良いでしょう。
2.保育士や学校の先生に様子を聞いてみる
保育士や学校の先生の気づきがきっかけとして、発達障害の支援に繋がるケースもあります。家での様子や、成績表の記載事項で気になる点があった時はためらわずに普段の様子を質問し、ノートなどに記録しておけば受診や相談の際の資料になります。
3.セカンドオピニオンを利用する
過去に別の精神疾患の診断が出ている場合でも、「もしかしたら?」と感じたら、再受診やセカンドオピニオンを検討してみてはいかがでしょうか。
発達障害は、普段の生活や社会生活の中で感じる生きづらさから、統合失調症や強迫症、不安症などを併発する場合があります。治療の経過や普段の様子を振り返り、疑問があればすぐに医師に相談しましょう。
SNSでの発信は慎重に
昨今、発達障害児を持っているか否かに関わらず、子育ての悩みをSNSで発信する人も増えています。しかし、子どもの様子をSNSで発信することは子どもの「プライバシー権」「肖像権」の侵害にあたる可能性があり注意が必要です。
海外では、子どもが成長してから保護者のSNSの投稿の取り下げを求め、訴訟に発展したケースもあります。
自分の気持ちを誰かに知ってもらいたい、という気持ちは誰しもが持ち得るものですが、今は子どもも大人もSNSが使える時代です。子どもについての悩みや記録はノート類など、アナログな記録媒体で残すのが安全でしょう。
まとめ ーあれ?と思ったら相談してみようー
発達障害による「生きづらさ」は、本人だけでなく一緒に暮らす家族にも影響を及ぼします。発達障害の診断を受けた本人だけでなく、周囲の人の役割を整理するためにも、相談機関の支援を受けてみてはいかがでしょうか。
【出典・参考文献一覧】
市橋秀夫監修『大人の発達障害ー生きづらさへの理解と対処ー(2018年, 講談社)』
東京都福祉局「児童相談所とは」(2024年3月1日閲覧)
児童発達支援・放課後等デイサービス ハッピーテラス「子どもの発達障害の診断 何歳から受けられる?流れと費用は?」(2024年3月1日閲覧)
株式会社心理オフィスK「ロールシャッハテスト」(2024年3月1日閲覧)
東洋経済オンライン「『子どもの写真』をSNSに載せるのはアリ?ナシ?(宮川舞)」(2024年3月4日閲覧)
執筆者プロフィール
「明日役に立つかもしれない」をモットーに活動しているライター。社会的養護・児童福祉を中心に、実生活で役に立つ制度や法整備について独自に調査を続けている。執筆可能な領域は福祉のほか、歴史(西欧近現代史)や言語学習などがある。