発達障害と精神障害、知的障害の特徴と違い

発達障害と精神障害、知的障害の特徴と違い


「発達障害、精神障害、知的障害の違いが実はよく分かっていない」という人は意外と多いのではないでしょうか。

いずれも脳の機能が関わる障害ですが、この記事では発達障害、精神障害、知的障害の違いを理解するために、「法律」「医学」「症状」「福祉」という4つの視点から定義や違いを解説いたします。

「法律」上の発達障害、精神障害、知的障害の違い

最初に法律上で発達障害、精神障害、知的障害をどのように定義しているか見てみましょう。

【発達障害の定義】

発達障害者支援法 第二条
この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。

【引用】e-Gov「発達障害者支援法」

条文に出てくる「政令で定めるもの」というのは、脳機能障害のことを指します。更に低年齢期に発現することの多い発達障害のうち、言語や協調運動(両手両足や目などを同時に使う動作)、心理的発達、行動や情緒の障害などの脳機能障害を発達障害であると広く定義しています。

【精神障害の定義】

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 第五条
この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。

【引用】e-Gov「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」

精神障害と発達障害は混同されがちですが、発達障害が脳機能障害だと明示しているのに対し、精神障害は「知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者」と広く定義づけられています。

ここで知的障害が含まれていることに気づくかもしれませんが、「知的障害者福祉法」ではどのように定義されているのでしょうか。

実は、知的障害者福祉法には定義の条文がありません。つまり、知的障害は精神障害の定義にまとめられているのです。

しかしながら、障害者手帳は「精神障害者福祉手帳」と知的障害者の持つ「療育手帳」に分かれています。

厚生事務次官通知156号「療育手帳制度要綱」において、「手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者に対して交付する」とされており、児童相談所や知的障害者更生相談所が知的障害者を認定しているという事になります。

「医学的」に見た発達障害、精神障害、知的障害の違い

法律上の発達障害、精神障害、知的障害の定義に少し曖昧さを感じた方もいるでしょう。そもそも発達障害、精神障害、知的障害は医学的な定義も複雑で、法で定義づけること自体に無理があると言えます。

では、医学や学術的な視点で見た発達障害、精神障害、知的障害は一体どのように定義づけられているのでしょうか。

一つ明確な定義を示していると考えられるものにWHOが医学的視点で類似の疾患や傷害、状態を区別したICD (国際疾病分類)があります。医療関係者も用いる国際的な分類ですので、このICDの定義を見てみましょう。

【ICDによる発達障害の定義】
  • 会話及び言語の特異的発達障害
  • 学習能力の特異的発達障害
  • 広汎性発達障害
  • 運動機能の特異的発達障害
【ICDによる精神障害の定義】
  • 大麻類(コカインなど)使用による精神及び行動の障害
  • 統合失調症
  • 双極性感情障害
  • 恐怖症性不安障害
【ICDによる知的障害の定義】
  • 軽度知的障害
  • 中等度知的障害
  • 重度知的障害
  • 最重度知的障害

【参考】厚生労働省「疾病、傷害及び死因の統計分類」

上記の分類はICDのほんの一部です。ICDの分類は非常に細かく分類されており全てをご紹介できませんので、法律上の定義に近いものを抜粋しています。

国際的な分類ということもあってかなり細かい症状の別で分かれています。ICDは医療関係者も用いる分類ですから、言い換えるならこのICDの定義こそ発達障害、精神障害、知的障害を明確に示すものと言っても過言ではないでしょう。

「症状」による発達障害、精神障害、知的障害の違い

法律や医学的視点での発達障害、精神障害、知的障害の違いは分かりましたが、ではそれぞれの症状が具体的にどのようなものかご存知でしょうか。

先ほどのICDの分類で既に疾病や症状の名前が登場していますが、それらがどのような症状なのか見てみましょう。

【発達障害の症状】
  • 会話及び言語の特異的発達障害:言語の習得が脳の発達の初期から遅れている障害
  • 学習能力の特異的発達障害:様々な技能の習得が脳の発達の初期から遅れている障害
  • 広汎性発達障害:対人関係やコミュニケーションにおいて必要な機能が損なわれている障害
  • 運動機能の特異的発達障害:協調運動の機能などの発達が明らかに遅れている障害
【精神障害の症状】
  • 大麻類(コカインなど)使用による精神及び行動の障害:薬物の乱用により依存症や幻覚、痙攣などを起こす
  • 統合失調症(妄想型含む):幻聴や妄想など感情や思考をまとめることができない障害
  • 双極性感情障害:気分が高揚したり、逆に気分が落ち込んだりすることが反復する障害(躁うつ病とも言う)
  • 恐怖症性不安障害:本来は危険性のないことに対して不安や恐怖を覚える障害
【知的障害の症状】
  • 軽度知的障害:成人の場合において正常な知的水準に無いIQ50~69(精神年齢が9歳から12歳)の状態
  • 中等度知的障害:上記同様にIQ35~49(精神年齢6~9歳)の状態
  • 重度知的障害:上記同様にIQ20~34(精神年齢3~6歳)の状態
  • 最重度知的障害:IQ20未満(精神年齢3歳未満)の状態

ここではあくまでICDの定義に基づく症状として簡単にご紹介しました。

発達障害と精神障害はしばしば混同される事がありますが、このように細かく定義や症状の違いを見ていくと、発達障害、精神障害、知的障害は全く違うものだとお分かりいただけると思います。

「福祉」における発達障害、精神障害、知的障害の違い

では、最後に「福祉」という点で、発達障害、精神障害、知的障害で何か違いがあるのか見てみましょう。

福祉にも様々な種類がある上、国や自治体が行う施策も実に多くあり、就労支援制度や障害者手帳、障害年金、税制上の優遇など障害別に関係なく共通する福祉制度もあります。

ここでは、国や自治体が障害の別で行っている主な福祉施策をピックアップしてご紹介します。

【発達障害への福祉】
各都道府県におけるソーシャルスキルトレーニングやペアレントメンター養成などの普及活動や発達障害者支援センター事業の推進が行われている。

【参考】厚生労働省「発達障害者支援施策の概要」

【精神障害への福祉】
各都道府県における精神保健福祉センターの設置や精神障害者地域移行・地域定着支援事業の実施が行われている。

【参考】厚生労働省「精神障害者の方の地域生活への移行支援に関する取り組み」

※「精神障害者地域移行・地域定着支援事業」とは、症状が重篤な入院患者の退院促進や在宅患者の訪問治療などを行う事業です。

【知的障害への福祉】
知的障害者に特化した施策等は特にないが、障害者自立支援法による地域移行支援や自立訓練、就労移行支援などの包括的なサービスが行われている。

障害者福祉では「障害」自体を「個性」として捉え、健常者と変わらない生活が送れる環境を提供すべきというノーマライゼーションの考え方が一般的です。症状や法的な定義の違いはあっても、福祉において障害別で施策の違いがあることは極力避けるべきと言えます。

法律、医学、症状、福祉という点での違いを全て理解するのは難しいかもしれませんが、やはり障害者への合理的配慮は共通して行われることが望ましく、社会が障害に対する理解を深めるためこ法律や施策の更なる普及が必要不可欠なのではないでしょうか。

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