「障害者雇用と一般雇用の違い」を法律・制度面から解説

「障害者雇用と一般雇用の違い」を法律・制度面から解説

ここ数年で法律や制度面の整備が進んだ日本の障害者雇用。雇用率も年々増加しており、特に精神障害者が雇用者数に算入できるようになってからは更に増加しています。ただ、障害者と企業にとって「障害者雇用」と「一般雇用」に大きな隔たりがあるのも事実。更なる法や制度の改正が望まれます。

では、障害者雇用と一般雇用にはどんな違いがあるのか、法律や制度面から障害者雇用と一般雇用の違いを解説します。最後までお読みいただければ、障害者と企業の双方で知っていただきたい障害者雇用で何が必要かが見えてくるでしょう。

障害者雇用と一般雇用の法律と制度による違い

障害者雇用と一般雇用の違いを一言で表すなら「労働環境や企業の義務」が違うと言えるでしょう。企業は障害者雇用でなくても職場の安全や社員の健康を維持する「安全配慮義務」、雇用契約の禁止事項などを定める「労働契約法」など様々なルールに則って経営しています。障害者雇用においてはさらに順守すべき厳しい法律や制度があるのです。

法律面の違い

法律面では障害者の雇用に特化した「障害者雇用促進法がある」という点で大きく違います。一般雇用にはない障害者雇用に関連する法律で定められた点は大きく分けて3つです。

・障害者の雇用義務​企業は障害者へ雇用機会を与えるために障害者を積極的に雇用しなければならない
・差別の禁止​障害者と健常者で労働条件に差をつけてはいけない
・合理的配慮​障害者が安心して就労できるよう施設改修や社内体制の整備をしなければならない

一般雇用でも男女で労働条件が違うなどの差別は禁止されていますし、社員の労働環境を整備する義務はありますが、障害者雇用には障害の症状や特性に応じて社内の設備を変える必要があり、障害者を確実に雇用して労働環境も整えなければならないというのが一般雇用との大きな違いと言えるでしょう。

制度面の違い

障害者雇用促進法にある「企業は積極的に障害者を雇用しなければならない」という点は、罰則や報奨金などを設けなければ実現しません。そのため、国は企業が一定数以上の障害者を雇用するよう、4つの制度により企業にノルマを課したり助成金の支給などを行っています。

【障害者雇用率制度】
障害者に一般雇用と同じ水準で労働の機会を確保するため、民間企業だけでなく国や地方公共団体、特殊法人に対して一定数の障害者雇用を義務付ける制度。民間企業が雇用する障害者数を平均割合として設定し、国や地方公共団体、民間企業の雇用率達成が義務付けられています。
【障害者雇用納付金制度】
障害者の法定雇用率が達成できなかった場合、一定額の納付金を納めるよう義務付ける制度。反対に法定雇用率を達成できれば、同制度により助成金が支給されます。
【特例子会社制度】
障害者のために配慮した子会社を設立して要件を満たせば、雇用率に算定できる制度。
【各種助成金制度】
施設改修や通勤対策、職場実習、支援機関の利用を行う企業に助成金などを支給する制度。

特に各種助成金は実に多くの制度で充実しており、企業はもちろん障害者の就労支援や継続支援を全面的にサポートしています。

障害者雇用と一般雇用のメリットデメリットを比較

ここまでお読みいただき、「法律の義務や制度面の優遇があるのだから、一般雇用より障害者雇用が良いに決まっている」と思われていませんでしょうか。

実はそうとも限りません。障害者本人は障害者雇用か一般雇用か自ら選択して就職活動を行いますが、どちらでも何らかのメリット・デメリットが存在するのです。

障害雇用と一般雇用のメリット

【障害者雇用】
・大企業の求人が多く安定かつ充実した雇用条件で働ける
・通院や服薬、休憩、社内設備などに配慮してもらえる
・障害の症状や特性に応じた業務や配属を決めてもらえる
・支援機関との連携により悩みなどを相談できる
・残業は少なく休暇も取りやすい
【一般雇用】
・求人数や職種が多いため自分にあった仕事を見つけやすい
・様々な仕事に関われるためスキルアップしやすい
・待遇や昇給、昇進などで有利

障害雇用と一般雇用のデメリット

【障害者雇用】
・障害者手帳を保有していることが絶対条件
・就職できる業界や職種が限られる
・簡単な仕事が多くスキルアップしづらい
・一般雇用より給与が低く設定され、昇給もされにくい
・社内の人が必ずしも障害に理解のあるとは限らない
【一般雇用】
・障害を隠して入社するため特別な配慮はない
・障害を隠し続けることが大きなストレスになる
・残業が多く休憩や休暇も自由に取りづらい
・任される仕事の責任や業務量が大きい

障害者雇用の法律は義務?努力?

障害者雇用は求人数が少なく、給与が低いケースも少なくないため「結局、障害者雇用は差別的な扱いなのでは?」と思われるかもしれません。確かに障害者雇用と一般雇用を比較すると障害者に不利な点はあります。

ただ、障害者雇用に関連する法律では企業に一方的な負担を強いているわけではなく、ある程度の配慮もされています。事実、障害者雇用促進法では以下のような条文があります。

【第36条の2】

事業主は、労働者の募集及び採用について、(中略)障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

【第36条の3】

事業主は、(中略)障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。

【引用】e-Gov 障害者の雇用の促進等に関する法律

企業は障害者を一定数雇用するのが義務。法定雇用率を下回ればペナルティとして納付金を払わなければなりません。しかし、全ての企業が障害者を雇用する余裕があるとは限らず、障害に配慮するための社内体制の整備や施設改修などの費用を負担できない企業もあります。

そのため障害者雇用促進法では、過度に企業の負担となる「配慮事項に関しては努力義務」としているのです。障害者を雇用するのは企業の義務ですが、雇用した障害者にどこまで配慮できるかに関しては、企業が実現できる範囲内と考えていただければ良いでしょう。

障害者雇用の法改正!2020年4月から何が変わる?

障害者雇用と一般雇用の違いを見てきましたが、現在の法律や制度では「大手企業が中小企業の障害者雇用の機会を奪っている」と言われています。

障害者雇用納付金制度は、雇用率未達成の企業が雇用率を達成した企業に助成金を払う仕組みのため体力のない中小企業にとって不利なのです。

事実、厚生労働省が公表している「障害者雇用状況の集計結果」では、規模別の障害者雇用がゼロの企業割合は以下のようになっています。

【参考】厚生労働省 平成30年度 障害者雇用状況の集計結果

障害者雇用においては300人未満の企業が中小企業と定義づけられていますが、ご覧の通り、中小企業は障害者雇用で出遅れている状況です。そこで国は障害者の更なる雇用と中小企業における障害者雇用を促進させるため以下のような法改正を行いました。

【週20時間未満の特例給付金】
障害者雇用の算定に含まれない「週の労働時間が20時間未満の障害者」が一定数いることから、短時間労働の障害者を雇用する企業に対して助成金を支給する特例を創設
【優良な中小企業の認定制度】
障害者を雇用していない中小企業が多いことを鑑み、障害者を雇用し、更に雇用内容の評価が高かった中小企業を「障害者雇用に関する優良な中小事業主」として認定する制度を創設

創設される新制度の施行は2020年4月。新たな制度により、中小企業の積極的な障害者雇用が期待されています。「障害者雇用より一般雇用のほうが有利」と感じている障害者は少なくありません。国による法律や制度内容が更に整備されていくことが期待されます。

執筆者プロフィール

TOPへ