「障害者の雇入れに関する計画の作成方法が知りたい」
この記事をお読みの人事担当者様や経営者様は、そんな悩みがあるのではないでしょうか。
障害者の雇入れに関する計画は障害者雇用率が未達成だと作成を求められる書類ですが、障害者の雇入れに関する計画の情報は非常に少なく、作成する計画書自体も事前に自治体が開示していることもありません。
では、一体どのように書けばよいのでしょうか。
この記事では、障害者の雇入れに関する計画の作成見本や各項目の意味などについて詳しく解説すると共に、障害者雇用率の未達成で行政指導に至るまでの流れ、そして是正勧告に至る基準についてもご説明します。
【見本】障害者の雇入れに関する計画書を作成するための様式
各都道府県の労働局やハローワークは、毎年6月1日時点で障害者雇用率が未達成の企業に「障害者の雇入れに関する計画」を作成するように命じます。
ただ障害者の雇入れに関する計画は、作成にあたって各都道府県で正式な様式を予め開示していません。
そこで、大阪府が一部の事業者向けに開示している見本となる様式を見てみましょう。
上のフォーマットは全事業者向けに発出されているものではなく、あくまで障害者支援に関して大阪府と協力関係にある事業者向けの様式です。
大阪府は都道府県で初めて、大阪府と事業主の協力によって障害者雇用を推進するための「大阪府障害者等の雇用の促進等と就労の支援に関する条例」を制定した都市。別名「ハートフル条例」と呼ばれています。
同条例では特に、大阪府と関係がある障害者支援に関する事業者に対して、障害者雇用率が未達成の場合に障害者の雇入れに関する計画を作成するよう定めています。
障害者の雇入れに関する計画の作成にあたり、各都道府県が様式を非開示にしている理由は不明です。
ただそもそも障害者の雇入れに関する計画の作成を命じられるのは、障害者雇用促進法で定められた障害者雇用率が未達成の企業に対してのみ。
つまり、障害者雇用率という制度自体が未達成を前提にしていないため、障害者の雇入れに関する計画書は予め開示しておくべき様式ではないというのが理由ではないかと考えられます。
障害者の雇入れに関する計画書の各項目の意味と書き方
正式な様式はありませんが、大阪府の障害者雇用計画の様式を参考に各項目について意味や書き方を解説します。
※あくまで大阪府と関係がある事業所が提出する様式に関する見本です。一般企業向けのルールとは違う部分もあるため、判断に迷う場合はハローワークにご確認ください。
事業主(住所):主たる事業所の所在地や電話番号を記入
事業主(名称):事業所名や会社名を記入
事業主(氏名):代表者の氏名を記入
事業の種類 :業種を記入
始期・終期 :各自治体による ※大阪府の資料では「障害者雇入れ計画の提出期限の翌日から1ヶ月以内」とされていますが、一般企業は翌年1月が始期となります。詳しくはハローワークへご確認下さい
- 計画の基礎となる雇用状況(調査年月日)
- 各自治体による
※大阪府では「できる限り計画の始期に近い時点」としていますが、詳しくは各地域のハローワークにご確認下さい
- ア 常用雇用労働者の総数
- 「短時間労働者を除く常用雇用労働者の数 + 短時間労働者の数 × 0.5」で計算し、小数点1位まで記入
- イ 法定雇用障害者数算定の基礎となる労働者の数
- 「(ア) -((ア)× 業種ごとの除外率)」を計算して記入
- ウ 身体障害者、知的障害者および精神障害者である労働者の数
- 下記を参照しつつ算定する
・下記以外の障害者…実人員1人を「1人」と算定
・重度身体障害者または重度知的障害者…実人員1人を「2人」と算定
・重度身体障害者以外の身体障害者または重度知的障害者以外の知的障害者である短時間労働者…実人員1人を「0.5人」と算定
・精神障害者である短時間労働者…実人員1人を「0.5人」と算定
ただし、精神障害者である短時間労働者であって、各基準日(調査期日、計画1期末、最終期末)時点で次のいずれかに該当する者
┗雇入れから3年以内の者
┗精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の者…実人員1人を「1人」と算定 - エ 実雇用率
- 「(ウ) ÷ (イ) × 100」で計算し、小数点3位を四捨五入して記入
- オ 身体障害者、知的障害者又は精神障害者の不足数
- 「(イ) × 法定雇用率2.2% - (ウ)」で計算して記入
- カ 身体障害者、知的障害者又は精神障害者の雇入れを予定する事業所の数
- 上段で障害者を雇用する子会社等も含んだ事業所の数
- 計画期
- 障害者雇入れ計画の1年目の期間(1期)と2年目の期間(最終期)を記入
- 雇入れ予定数
- 各期で雇用を予定する障害者数を記入
- 期末において見込まれる雇用の状況
- 雇入れ予定数を実現した結果、雇用する障害者の総数を記入
- 計画期間における雇入れ予定数の合計
- 障害者雇入れ計画全体として雇用する障害者の合計数を記入
障害者の雇入れに関する計画の作成と障害者雇用の是正勧告までの流れ
障害者の雇入れに関する計画は、作成だけでなく「適正実施の勧告」と「特別指導」という行政指導までの流れが決まっています。
【参考】厚生労働省 平成29年度 障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく企業名公表等について
- 障害者雇用率の報告が必要な企業は、毎年6月1日から7月15日の間に「障害者雇用状況報告書」を提出
- 障害者雇用率が未達成の企業は、10~12月に「障害者雇用計画書」を作成する
- 翌年1月~12月を1年目として、間にハローワークから「障害者雇用の勧奨」がある
- 1年目の12月末時点で障害者雇用率が改善していなければ、翌年2~3月に「適正実施の勧告」が発出される
- 2年目の4月にハローワークから改めて「障害者雇用の勧奨」がある
- 2年目の12月末時点で1年目の障害者雇用率未満なら企業名公表を前提とした「特別指導」が入る
- 上記までで障害者雇用率に改善が見られない、または改善しようとしていなければ「企業名公表」
上記「2.」の障害者の雇入れに関する計画は、いつハローワークから作成命令が出るかは不明です。
提出期限も特に法などで定められていませんが、障害者の雇入れに関する計画開始は翌年1月と決められています。
よって障害者の雇入れに関する計画書の作成命令から提出までの猶予は、2~3か月ほどしかないと考えたほうが良いでしょう。
障害者の雇入れに関する計画を作成後、実際に計画通りに障害者雇用を進めなければなりません。
ただ障害者雇用の企業名公表というペナルティを受けないために、注意しなければいけない点がいくつかあります。
障害者雇用の「社名公表リスク」と障害者雇用の「行政指導」を受ける基準
そもそも障害者の雇入れに関する計画は、「作成」「適正実施の勧告」「特別指導」の別で行政指導に至る基準があります。
- 雇入れ計画作成命令
- 基準次のいずれかに該当する事業主
① 実雇用率が前年6月1日現在の全国平均実雇用率未満、かつ、不足数が5人以上
② 不足数が10人以上
③ 法定雇用数が3人又は4人の企業は、雇用障害者数が0人- 適正実施勧告の基準
- 次のいずれかに該当する事業主
① 計画実施率50%未満
② 計画1年目の12月1日現在の実雇用率が計画開始前の6月1日現在の実雇用率を上回っていない- 特別指導の基準
- 次のいずれかに該当する事業主
① 計画終期の実雇用率が計画1年目の6月1日現在の全国平均実雇用率未満
② 不足数10人以上
③ 法定雇用数3人又は4人の企業は、雇用障害者数0人【引用】障害者雇用対策の基本事項
また「企業名公表」について、一定の基準により企業名公表を猶予される場合もあります。
以下は障害者雇用の企業名公表について、平成29年度分の開示資料からの抜粋です。
- 企業名公表の猶予基準
- 特別指導の対象企業が下記のいずれかに該当する場合、初回の公表に限り公表を猶予する
・直近の障害者雇用の取組の状況から、実雇用率が速やかに前年度の全国平均実雇用率以上、または不足数が0人となることが見込まれる
・特別指導期間終了後の1月1日から1年以内に特例子会社を設立し、実雇用率が前年度の全国平均実雇用率以上、または不足数が0人となると判断できる
企業名公表の猶予は、あくまで障害者雇用の企業名公表について平成29年度分の基準から抜粋した情報ですが、前年度以前もほぼ同じ基準で企業名公表を猶予しているため、デフォルトの基準として考えても差し支えないでしょう。
それよりも注意しなければいけないのが、各基準は年々厳しくなっているという点です。
上記にご紹介した各基準の中に「全国平均実雇用率」という基準がありますが、実は全国平均実雇用率は年々上がっているのです。
平成27年度:1.88%
平成28年度:1.92%
平成29年度:1.97%
平成30年度:2.05%
障害者雇用率が未達成の企業は色々とペナルティがあるものの、いきなり社名公表に至るわけではありません。
社名公表のペナルティまで一定の猶予があるとはいえ、元々の障害者雇用法定雇用率は2.2%です。全国平均実雇用率の上昇を考えると悠長に構えていられないでしょう。
この記事をお読みの企業担当者様や経営者様の中には、障害者の雇入れに関する計画を作成するよう命令が出されている企業もあるかもしれません。
それならこれを良い機会と考え、社内で障害者雇用の推進を図ってみてはいかがでしょうか。
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