改正障害者雇用促進法の重要ポイントを初心者向けにわかりやすく解説

改正障害者雇用促進法の重要ポイントを初心者向けにわかりやすく解説

障害者雇用促進法は1960年の制定後、対象者が身体障害者から知的障害者へと範囲が広がってきました。また先の2013年の改正により、2018年からは精神障害者も雇用義務の対象です。この法改正は雇用義務の範囲拡大に加えて、雇用分野の障害者差別禁止・合理的配慮の提供義務等これまでにない規定も導入されています。

そのため障害者雇用を検討する企業にとって、しっかりと内容を把握すべき大事なポイントがいくつかあるのです。今回は障害者雇用促進法の概要と、法改正におけるポイントについて分かりやすく解説します。

障害者雇用促進法とは?法律の目的や概要を解説

障害者雇用促進法とは障害者の職業の安定を図るための法律で、障害者の雇用を進めるための具体的な方策が定められています。一定割合で障害者を雇用することを各企業に義務付ける「障害者雇用率制度」が障害者雇用促進法の主な内容です。もう少し具体的に見てみましょう。

【障害者雇用率制度】
同法37条「対象障害者の雇用に関する事業主の責務」が根拠になっています。条文内では「社会連帯の理念に基づいて障害者雇用に関する共同の責任を負う」とされており、事業主は障害者雇用率を順守しなければいけません。たとえば民間企業では原則として障害者雇用率(法定雇用率)が2.2%以上です。分かりやすく言うと労働者のうち100人に2人以上は障害者を雇用しなさいということになります。
【障害者雇用納付金制度】

障害者雇用の義務化にあたってのインセンティブ措置で、具体的には以下のようになります。

・法定雇用率を満たしていない企業:不足した1人につき月5万円の納付金を徴収
・法定雇用率を超えて雇用している企業:超過1人につき2万7,000円の調整金が支給される(常用労働者100人以上の企業が対象)

なお、納付金は罰則金ではないため、納めたからといって雇用義務を免れるものではありません。この点は勘違いされやすいので、この機会に覚えておきましょう。

改正・障害者雇用促進法4つのポイント

2013年の法改正によるポイントは主に4つあります。それぞれが非常に大事な改正になっていますので、詳しく解説します。

1.障害者の範囲の明確化

精神障害に「発達障害」が含まれ、さらに「難病に起因する障害」も対象になり、障害者雇用促進法の障害者の定義が以下のように明確になりました。(2013年6月施行)

  1. 身体障害
  2. 知的障害
  3. 精神障害(発達障害を含む)
  4. その他の心身の機能の障害

なお、障害者雇用促進法の第2条1号では、上記の障害者に限らず「長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」ともされています。

差別の禁止及び合理的配慮の提供義務

「差別の禁止」と「合理的配慮の提供義務」も導入されています。(2016年4月施行)

【障害者に対する差別の禁止】
障害者雇用促進法の第34条、第35条において、「募集および採用から採用後の待遇の決定についてまで、不当な差別的取り扱い」を禁止しています。

差別の主な具体例としては、下記のようなケースが挙げられます。

  • 各障害を理由として採用を拒否すること
  • 車いすや人工呼吸器など福祉用具の使用を理由として採用を拒否すること
  • 賃金を引き下げること
  • 低い賃金を設定すること
  • 昇給をさせないこと
  • 研修、現場実習をうけさせないこと
  • 食堂や休憩室の利用を認めない

【出典】e-Gov「障害者の雇用の促進等に関する法律」

【合理的配慮の提供義務】
合理的配慮とは「障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者が有する能力の発揮に支障となる事情を改善するための必要な措置」のことを言います。合理的配慮の提供義務は下記をイメージしていただければ分かりやすいかと思います。
  • 車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること
  • 文字だけでなく口頭での説明を行うこと
  • 口頭だけでなくわかりやすい文書や絵図を用いて説明すること
  • 筆談ができるようにすること
  • 手話通訳者や要約筆記者を配置、派遣すること
  • 労働者と雇用主の間で調整役になる相談員を置くこと
  • 通勤時のラッシュを避けるため勤務時間を変更すること

【出典】障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の概要 / 改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A

精神障害者の雇用義務化と法定雇用率の引き上げ

3つ目のポイントは「精神障害者の雇用義務化」です。(2018年4月施行)

雇用義務化とは「精神障害者を必ず雇わなければならない」という意味ではなく、法定雇用率の算定に精神障害者を含めるということです。これにより民間企業の法定雇用率は2.2%にアップ。さらに2021年4月までに2.3%にアップすることが決定しています。

苦情処理、紛争解決の援助

今回の改正では「企業内で紛争が生じた際の対処に関する規定」も設けられています。(2016年4月施行)

事業主は相談窓口の設置や障害者からの苦情を自主的に解決することなど、障害者からの相談に対応するための体制整備が必要です。

障害者雇用促進法が改正された理由や背景

障害者雇用促進法改正のきっかけとなったのは、2006年12月に国連総会で採択された「障害者権利条約」です。権利条約では労働分野の差別禁止や合理的配慮の提供等の確保が定められており、締結前に国内法の整備を進めることとなりました。

また、雇用の状況を見ると、2005年から雇用率への算入が可能となった精神障害者の雇用数は着実に増加。今後も増加が見込まれることから、精神障害者の雇用義務化、法定雇用率の引き上げも実施されることになりました。

【出典】「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」 / 第1回 障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会

企業が障害者雇用促進法の改正で把握しておきたい3つのポイント

では最後に、企業として把握しておきたいポイントをご紹介します。大きく分けて3つあり、それぞれに大事な注意点がありますので、一通りお目通しいただくことをオススメします。

雇用率制度と納付金制度の把握

やはり一番のポイントである雇用率制度。企業として把握すべきは以下の6つです。

  1. 雇用率が2.0%から2.2%に引き上げられたこと
  2. 上記により常時45.5人以上の労働者を雇用する企業は、障害者を1人以上雇用することが義務
  3. 雇用率未達成の企業で常時100人以上を雇用している企業は、不足1人当たり月額5万円の納付金を支払う
  4. 法定雇用率未達成の企業で正当な理由なく雇用状況の改善が見られない場合は、企業名が公表されること
  5. 雇用義務のある企業は、毎年6月1日時点における障害者の雇用状況を翌15日までにハローワークに報告
  6. 報告義務違反の場合30万円以下の罰金が科せられること

【出典】障害者雇用納付金制度の概要

精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置

雇用率の算定上では、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である短時間勤務の障害者は0.5人とカウントされます。ただ、以下の要件を満たす精神障害者は、1人とカウントされる特例措置が設けられました。

  • 新規雇入れから3年以内であること、または精神障害者手帳の交付日から3年以内であること
  • 2023年3月31日までに雇用され、同日までに精神障害者手帳の交付を受けた者

民間企業により雇用される身体障害者と知的障害者の数が伸び悩む中、精神障害者は2006年以降増加を続けています。身体障害者、知的障害者の新規雇い入れが困難な現状で本来より軽い負担で1カウント算定できる特例措置は、精神障害者の雇用を進めるチャンスです。

【出典】精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置 Q&A

差別禁止・合理的配慮の提供について

差別禁止・合理的配慮の提供義務については「すべての企業」が対象です。「合理的配慮の提供」については個別性が高く、「何をどの程度まで」という指標がないため対応に苦慮するところです。押さえておきたいのは下記の2点です。

  • 事業主と障害者の話し合いにより、その内容が決定されるものであること
  • 合理的配慮が事業主にとって「過重な負担」となるなら必ずしも措置を講ずる義務はないこと

「過重な負担」に当たるか否かについては、下記の要素を総合的に勘案して事業主が個別に判断することとなります。

  1. 事業活動への影響の程度
  2. 実現の困難度
  3. 費用・負担の程度
  4. 企業の規模
  5. 企業の財務状況
  6. 公的支援の有無

合理的配慮は障害者の意向を十分に尊重しなければならないとされています。よってまずは「障害者との対話」にしっかり力を入れれば、問題に発展することは少ないでしょう。

まとめ

中央省庁等による障害者雇用水増し問題を受け、障害者雇用について社会的関心が高まりました。同時に問題の是正に向けた更なる法改正の動きも進んでいます。本メディアでは法改正に関する情報を随時発信していきますので、ぜひ最新の内容をチェックしてみてください。

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