就労移行支援、就労継続支援AB、就労定着支援の目的や支援内容などの違い

就労移行支援、就労継続支援AB、就労定着支援の目的や支援内容などの違い


日本で障害者の就労を支援する国の制度は何種類あるかご存知でしょうか。

業界に関わる方なら「就労移行支援」「就労継続支援」「就労定着支援」とすんなり答えられるかと思います。

しかし、それらの明確な違いを答えられる方はそう多くはないのではないでしょうか。

そこで今回は、「就労移行支援」「就労継続支援」「就労定着支援」の3つに絞って、各施設の目的や支援内容、違いを解説いたします。

「就労移行支援」「就労継続支援」「就労定着支援」とは?

最初に「就労移行支援」「就労継続支援」「就労定着支援」とは一体何かを解説します。

この3つの制度は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」という長い名前の法律の中で以下のように定義されています。

第五条 この法律において「障害福祉サービス」とは、(中略)就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援、自立生活援助及び共同生活援助をいい、(中略)その他厚生労働省令で定める施設において行われる施設障害福祉サービスを行う事業をいう。

【引用】e-Gov「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 第5条」

つまり、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援の3つは、介護なども含めた他の障害者福祉サービスという事業にまとめられている福祉サービスなのです。

では、それぞれの定義はないのか見てみると、続く条文に以下のように記載されています。

(中略)「就労移行支援」とは、就労を希望する障害者につき、(中略)生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。

(中略)「就労継続支援」とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。

「就労定着支援」とは、(中略)通常の事業所に新たに雇用された障害者につき、(中略)当該事業所での就労の継続を図るために必要な当該事業所の事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関その他の者との連絡調整その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。

【引用】e-Gov「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 第5条13~15項」

どれも似たような名称で混同しがちですが、分かりやすくまとめると以下のようになります。

【就労移行支援】
就職を希望する障害者に就労の機会を与え、様々な活動を通じて技能の向上を目的とした訓練を行う
【就労継続支援】
一般の会社への就職が難しい障害者に就労の機会を与え、様々な活動を通じて技能の向上を目的とした訓練を行う
【就労定着支援】
就労支援を受けて一般の会社に就職した障害者に対し、継続した就労を目的として事業主や障害福祉サービス事業者、その他医療機関などが連携して一定期間支援を行う

つまり、各支援は「支援対象となる障害者が異なる」ということです。

就労移行支援と就労継続支援ABの違い

更に詳しくそれぞれの違いを解説します。

まず「就労移行支援」と「就労継続支援」の違いを比較しながら見てみましょう。

【就労移行支援】
目的 障害を持つ人が就職するために必要なスキルを身に付けるため訓練を行う
主な支援内容 ・希望の職種に応じた基礎知識やスキル訓練
・履歴書の書き方や面接のシミュレーション
・ソーシャルスキルトレーニング
・適職探しや求職活動の支援
・職場実習やその他必要に応じた支援
費用・収入 訓練が目的のため基本的に賃金は発生しない。就労移行支援施設の利用は生活保護や非課税世帯は無料だが、所得に応じて9,300円か37,200円の利用料が必要となる。
【就労継続支援】
目的 一般の企業に勤めることが難しい障害者に対して、実際に就労の場を提供する
主な支援内容 ・就労継続支援事業所と雇用契約を結んで仕事をする
・仕事を通じて各スキルを身に付ける
費用・収入 就労継続支援A:月額15,603円(時給205円)
就労継続支援B:月額74,085円(時給818円)

この2つの支援内容の違いを簡単に述べると、「訓練」か「就労」かの違いということです。

就労継続支援は、「雇用契約を結ぶ就労継続支援A」と「雇用契約を結ばない就労継続支援B」に分かれています。

就労継続支援Aは、雇用契約を結んでの就労できる場合に利用しますが、難病や体力的な問題で雇用契約が結べない時は就労継続支援Bを利用することになります。

就労定着支援で行われる具体的な訓練

残る「就労定着支援」ですが、実はまだ最近始まったばかりの制度です。

就労定着支援は会社へ就職した後にすぐに退職してしまわないよう支援することが目的です。

障害者雇用促進法の改定によって企業側に課される法定雇用率の義務が厳しくなり、それに伴って働く障害者が増えています。

ただ、実際には企業側の受け入れの準備不足や雇用後の障害者へのサポートが不十分なため、障害者が就職してもすぐに離職してしまうケースが後を絶ちませんでした。

それを防ぐために創設された新制度が「就労定着支援」です。具体的な内容を厚生労働省の資料から抜粋してご紹介します。

【就労定着支援】
目的 就労移行支援などにより就職した障害者に対し、就労面だけでなく生活面での相談や課題把握、その他必要な支援を行う
主な支援内容 ・障害者からの相談を受け付けて生活面の課題を把握する
・勤め先や支援機関との連携による課題解決に向けた支援
・企業側も交えて月1回以上の障害者との面談
費用・収入 サービス事業者や自治体の負担率により利用料が異なるものの、一般的には就労移行支援施設の利用料とほぼ変わらない

始まったばかりの就労定着支援には課題も…

就労定着支援サービスは、2018年4月に開始されたばかりの新しい制度です。

国による新設の制度には何かと課題が残るのが通例ですが、就労定着支援にも何か課題や問題点がないか調べてみたところ、主に以下2つが課題として議論されているようです。

  • 報酬体系の見直しが必要ではないか
  • 就労移行支援から就労定着支援に変わった時のサポートの切り分けが難しいのではないか

まず、就労定着支援を行う事業者には、定着率によって報酬が支払われます。この報酬体系があるが故に本人が仕事を辞めたいと思っても無理に引き留めてしまうケースが発生するのではないかという懸念があります。

そして、就労定着支援の期間は3年と定められており、以降は障害者就業・生活支援センター(通称「ナカポツ」)が引き継ぎます。この支援期間を個別の事情に応じて変更できないかという意見が出ています。

そもそも就労定着支援は就労移行支援事業者だけでなく、ハローワークや企業、医師、その他関係機関が数多く関わります。

しかも3年を過ぎると、障害者就業・生活支援センターが相談等を受け付ける形になりますので、この連携が果たしてうまくいくのかどうかが2つ目の懸念として挙げられています。

とはいえ、上記の懸念点もそこまで大きな問題として取り上げられていませんし、厚生労働省の障害保健福祉部における検討会でもたびたび議論されています。

制度改正の可能性や2018年に始まったばかりということを考えると、今後の就労定着支援の効果によって障害者雇用が更に促進される可能性に期待したいところです。

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