障害者雇用促進法に基づき、従業員を40人以上雇用している事業主は障がい者を1人以上雇用しなければなりません。
令和6年度から「障害者雇用促進法」の一部が改正される事をご存じでしょうか?
障がい者の法定雇用率が段階的に引き上げられる事になり、障がい者雇用を義務付けられる企業の対象も拡大されます。
今回の改正により、事業主の障がい者雇用に対する支援策も強化されました。
今回はこちらについて詳しく解説していきます。
新たな障がい者法定雇用率の設定
従業員が一定数以上いる事業主は、雇用する障がい者(身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者)の割合を「法定雇用率」以上にしなければなりません。
民間企業での障がい者法定雇用率は2.3%でしたが、2024年4月より2.5%、2026年7月より2.7%と約5年ごとに改正されます。
これまでの改正では5年毎に0.1~0.2%の上昇でしたが、令和6年度から段階的に上昇する事になりました。
現在は従業員を40人以上雇用している事業主は、障がい者を1人以上雇用する事が義務付けられます。
以前まで | 令和6年4月~ | 令和8年7月~ | |
---|---|---|---|
民間企業の法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
障がい者雇用の対象となる事業主の範囲 | 従業員43.5人以上 | 従業員40人以上 | 従業員37.5人以上 |
雇用すべき障がい者の人数が増え、障がい者雇用を義務付けられる企業の対象範囲が広がります。
民間企業だけではなく、国・地方公共団体等にも法定雇用率が定められています。
段階的な引き上げに係る対応は民間事業主と同じです。
以前まで | 令和6年4月~ | 令和8年7月~ | |
---|---|---|---|
国・地方公共団体の法定雇用率 | 2.6% | 2.7% | 3.0% |
都道府県等の教育委員会の法定雇用率 | 2.5% | 2.6% | 2.9% |
【参考】
①厚生労働省
②障害者雇用率制度について
1.雇用率設定基準
民間企業における雇用率の設定基準は以下の計算式で計算されます。
【実雇用率のカウント方法】
- 短時間労働者は原則1人を0.5人としてカウント
- 重度身体・知的障がい者は1人のところを2人としてカウント
- 20時間以上30時間以下での短時間勤務の重度身体・知的障がい者は1人としてカウント
【参考】障害者雇用率制度について
除外率引き下げ
障がい者の法定雇用率が引き上げられることにより、事業主の対象が拡大されました。
しかし、これをすべての業界に適用すると、中には障がい者がなじめない業種もあります。
一般的に障がい者の就業が困難である業種については、雇用する労働者の数を控除する「除外率制度」が設けられていました。
ただし、この制度はノーマライゼーションの観点から平成16年に廃止されました。
急に廃止となり対応が難しい企業も多いはずです。
そこで、完全廃止にむけた経過措置として、業種ごとに除外率を設定すると同時に段階的に除外率の引き下げが行われています。
今回の改正に加えて、令和7年4月1日から各業種ごとに除外率がそれぞれ10ポイント引き下げられます。
今後も廃止に向けて段階的な引き下げが予想されるでしょう。
除外率設定業種 | 除外率 |
---|---|
非鉄金属第一次製錬/精製業, 貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) | 5% |
建設業, 鉄鋼業, 道路貨物運送業, 郵便業(信書便事業を含む) | 10% |
港湾運送業, 警備業 | 15% |
鉄道業, 医療業, 高等教育機関, 介護老人保健施設, 介護医療院 | 20% |
林業(狩猟業を除く) | 25% |
金属鉱業, 児童福祉事業 | 30% |
特別支援学校(専ら視覚障がい者に対する教育を行う学校を除く) | 35% |
石炭/亜炭鉱業 | 40% |
道路旅客運送業, 小学校 | 45% |
幼稚園, 幼保連携型認定こども園 | 50% |
船員等による船舶運航等の事業 | 70% |
今回の引き下げにより、必要雇用数に大きな影響が出る事が予想されます。
障がい者側からすると、今まで挑戦したかった業種で活躍できるチャンスが増えます。
一方で事業主側からすれば障がい者を雇用する体制を一から整える必要があるので、早めの取り組みが重要となってきます。
【参考】障害者雇用率制度・納付金制度について
事業主向けの支援策強化
今まで対象内だった事業主も、今回新たに対象となった事業主も今まで以上に準備が必要となってきました。
国は障がい者雇用促進法に基づき、令和6年4月から支援策を強化する予定です。
強化される支援策については、障害者雇用納付金関係助成金に「障害者雇用相談援助助成金」が創設されます。
また、短い労働時間(週10~20時間)で働く重度身体・知的・精神障がい者の実雇用率への算定が可能になる予定です。
以下では、「障害者雇用相談援助助成金」について詳しく説明していきます。
障害者雇用相談援助助成金
令和6年4月から「障害者雇用相談援助助成金」が新設されます。
この助成金は「障がい者の雇用に関する相談援助の業務経験、または実務経験のある事業主」が支給対象となります。
1.認定事業主とは
助成金の対象となるのは認定事業主が相談援助を行った場合ですが、認定事業主になるにはどのような条件が必要になるのか気になりますよね。
認定要件には、「法人要件」「人員要件」「その他」があります。
カテゴリ | 要件 |
---|---|
法人要件 | ・障がい者の一連の雇用管理に関する相談援助の業務の経験を有すること。または障がい者の一連の雇用管理に関する実務の経験を有すること。 ⇒特例子会社、もにす認定企業等の障がい者雇用の実務の経験を有する者が該当する。 |
人員要件 | ・障がい者の一連の雇用管理に関して、5年以上の業務または実務の経験を有し、2年以上の総括的な指導監督の経験を有する事業実施責任者であること。 ・障がい者の一連の雇用管理に関して、3年以上の業務または実務の経験を有する事業実施者を配置していること。 |
その他 | ・法定雇用障がい者数以上の障がい者を雇用していること ・欠格事由に該当しないこと |
認定を受ける場合は、主となる事業所を管轄する労働局に申請書類を提出してください。
対象となるには時間がそれなりにかかってしまう今回の助成金ですが、障がい者の雇用拡大につながるためにもぜひ認知が広がってほしいですね。
2.障がい者の雇用管理とは
障がい者の雇入れや雇用管理に関する相談援助事業を実施した場合が対象となる助成金ですが、具体的に雇用管理とは何をすればいいの?となる方もいると思います。
以下の8点が障がい者の雇用管理となります。
ステップ | 説明 |
---|---|
1. 経営陣の理解促進 | 経営や人材活用の方針の決定権等をもつ社長など経営陣に対して、障がい者雇用促進法の趣旨やノーマライゼーションの観点から企業に求められている責任、障がい者雇用を通じた経営改善について理解促進を図ること |
2. 障がい者雇用推進体制の構築 | 障がい者雇用の担当者の明確化を図るとともに、属人化・形骸化しないよう、組織として障がい者雇用を推進していくための実効性のある体制の構築を図ること |
3. 企業内での障がい者雇用の理解促進 | 経営陣や人事部門の考える障がい者雇用の方針、障がい者雇用のメリット、働く上で必要な合理的配慮について、障がい者を配属する現場の社員の理解促進を図ること |
4. 当該企業内における職務の創出・選定 | 業務の選定やそれに伴い必要となる業務プロセス・組織体制の見直し、受け入れ部署の検討等に当たり、企業全体を把握して分析を行うこと |
5. 採用・雇用方針の決定 | 4.の職務の創出・選定の結果を踏まえ、求めるスキルや経験、人物像の整理等採用・雇用方針を決定すること |
6. 求人の申し込みに向けた準備など募集や採用活動の準備 | 労働条件の設定、募集媒体の選定、応募状況に応じた条件の見直し、書類選考や採用面接におけるチェックポイントの作成など、募集や採用活動の準備を行うこと |
7. 企業内の支援体制等の環境整備 | 労働者の障がいの特性に配慮した施設・設備の整備や援助する者の配置など、必要な支援体制等の整備について検討し導入すること |
8. 採用後の雇用管理や職場定着等 | 採用後における、業務・作業環境・職場の人間関係等職場適応上の課題が生じた際の課題の把握や予防、解決するための仕組みや体制づくりを行う。また、中長期的な活躍も視野に、職場適応状況や本人の希望を踏まえ、業務範囲や勤務時間の拡大等のキャリアアップの仕組みづくりを行うこと |
3.支給対象と支給額
続いて支給対象と支給額を合わせてご説明します。
支給対象 | 支給額 |
---|---|
認定事業者が障害者雇用相談援助事業を行った結果、支援を受けた事業主が障がい者の雇い入れのための措置を行った場合 | 60万円(80万円) |
認定事業者が障害者雇用相談援助事業を行った結果、支援を受けた事業主が対象障がい者を雇い入れ、6か月以上雇用が継続した場合 | 1人あたり7.5万円(10万円)※上限4人まで |
()内は、認定事業者が中小企業事業主または除外率設定事業主に相談援助を行った場合の支給額です。
【参考】障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
まとめ
今まででは、一部の企業では法定雇用率の達成だけが目的となり、障がい者が自分のスキルを充分に発揮できない問題も多々ありました。
今回の改正で障がい者がもっと活躍できる場が広がることでしょう。
一方で、企業の社会的責任の拡大がますます予想される事となりました。
今後、障がい者法定雇用率が確実に上昇していくことから、対象の事業主は数年先を見越して施策を練っていく対策が必要となります。
国が障がい者雇用の促進に更に力を入れていることが分かります。
障がい者も、障がい者を雇う側も、双方がメリットを得ながら働けるような社会づくりの為に、国だけでなく国民も動いていかなければなりません。
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