2018年に初めて行われた「障害者向け国家公務員試験」。2019年3月には700名超が試験に合格、6月には248名が採用予定と発表されています。
今回行われた障害者採用試験を初めて知った方も多いと思いますが、障害者向けの国家公務員試験とは一体どのようなものなのでしょうか。
この記事では障害者向け国家公務員試験について、試験の概要から試験が行われることになったキッカケ、採用後の処遇・待遇などについて詳しく解説します。
障害者向け国家公務員試験とは?
障害者向け国家公務員試験とは、内閣府を始めとした各省庁において障害者を常勤、非常勤の職員として募集する選考採用試験です。
2018年10月に開かれた「公務部門における障害者雇用に関する関係閣僚会議」にて、初の障害者向け国家公務員試験を実施することが閣議決定されました。
障害者向けの公務員試験はこれまでにもありましたが、すべて地方公務員試験でした。
また、主に身体障害者ばかり採用されるという問題もあったため、上記の閣僚会議にて「公務部門における障害者雇用に関する基本方針」、つまり「障害者枠の公務員採用についての取り決め」がなされました。具体的には以下の方針が決められています。
- 公務部門における障害者雇用に関する基本方針の概要
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- 2019年末までに障害者採用計画を策定
- 障害者雇用を推進するための体制や採用活動の具体的な計画を策定
- 各省庁内の障害者雇用に関する理解の促進
- 採用計画を確実に進めるための取組や支援
- 障害者が活躍しやすい職場環境の推進
- 障害者が働きやすい勤務体制の検討
- 障害者の自立促進や民間の障害者雇用への取組を推進
- 障害者が対象の常勤採用制度の導入
- ステップアップ制度の導入
- 本人の希望に応じて常勤採用の前に非常勤から勤務できる制度の導入
- 障害の特性に応じた配慮として、非常勤の雇用安定を確保する運用指針を策定
障害者向け国家公務員試験が始まったキッカケ
国家公務員障害者選考が始まったキッカケは、昨年大騒ぎになった「公務部門における障害者雇用率の水増し問題」です。
一部報道によれば、2017年時点で公務員として不正に計上された雇用者数は4000人近くにのぼるとも言われています。
しかも上記は最近行われた不正ではなく、長年続けられてきていたというのですから驚きです。
完全に国民の信頼を損なった障害者雇用率の水増し問題ですが、当然、関係機関における会議にて直ちに話し合いが行われました。
会議には関係機関だけでなく障害者関連団体も参加しており、主に以下のような要望を上げています。
- 不正に関する厳正な検証
- 障害者雇用の拡大と安心して働ける職場環境の整備
- 十分に能力を発揮できる職場環境の整備
- チャレンジ雇用やステップアップ制度の導入
- 雇用率未達成の各省庁や地方自治体などに関する罰則規定の厳格化
各省庁や地方自治体の障害者雇用水増し事件を背景に始まった障害者向け国家公務員試験ですが、具体的に募集要項や処遇等はどのようになっているのでしょうか。
障害者枠における国家公務員の試験内容・給料・仕事内容
まず、障害者枠の国家公務員試験の受験資格から見てみましょう。以下は2019年2月に行われた「国家公務員 障害者選考試験」で公開された募集条件や仕事内容です。
- 【受験資格】
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- 日本の国籍を有する者
- 各種障害者手帳や医師の診断書、意見書を所持している人
- 昭和34年4月2日以降に生まれた人
- 【給与】
- 基本給:14万8,600 円~24万7,600 円
扶養手当:1万円
地域手当:最高で給与の 20%(地域により異なる)
住居手当:最高2万7,000 円
通勤手当:定期券相当額で最高 5万5,000 円
ボーナス:約4.45月分 - 【勤務時間・休暇】
- 勤務時間:7時間45分
休日:土日祝
その他休暇:残20日までの年次休暇、その他病気休暇、特別休暇、介護休暇、育児休暇など - 【仕事内容】
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仕事内容は勤務する省庁により異なるため、一部の省庁の主な仕事内容をご紹介します。
- 厚生労働省
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- 審査関係処理業務
- 入力、集計業務
- 部署内の業務補助
- 求職者の職業相談
- 労災、雇用保険の審査、支給
- 国土交通省
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- 政策の企画、立案、調査、研究(常勤職員)
- 事務補助(非常勤)
- 気象庁
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- 事務補助の仕事(コピー、ファイリング、データ入力など)
- 技術的な気象観測業務や統計などの業務補助
- 観測データ入力や資料作成など
募集条件に該当しなければ、国家公務員試験は受けられません。また、成年後見人や禁固刑を受けている人、2年以内に国家公務員として懲戒免職になっている人なども同様です。
初の障害者向け国家公務員試験も問題山積みか?
始まったばかりの障害者向け国家公務員試験ですが、実は問題が大きな問題があります。それは「既存の職員による差別的発言や不公平な扱い」です。
初の障害者向け国家公務員試験とはいえ、配慮や理解の不足という範囲を超えた障害者に対する不適切な言動が各所で報告されています。
たとえば、西日本新聞社と日本経済新聞社で以下のような報道がされています。
- 2次試験の申し込みが先着順で締め切られた
- 「できない仕事」「健常者より劣る点」ばかり聞かれた
- 学科試験に合格したが面接の参加を断られる人が相次いだ
- 「コピーなど簡単な仕事しかさせられない」と言われた
【参考】西日本新聞「障害者採用、公平性に疑問 配慮不足の質問、能力や経験問われず」 / 日本経済新聞「障害者雇用水増し防止へ法改正 働きやすい職場目指す」
上記を見る限り、採用する側の不適切な対応や配慮の無さが目立ち、障害者雇用に対する理解が著しく欠けている印象を受けます。
そもそも事の発端が「水増し計上」ということもあり、今回の障害者向け国家公務員試験に対して後ろ向きな意見も少なくありません。
執筆時点で非常勤に関しては各省庁にてまだ募集しているところもありますが、2019年における常勤募集は既に終了しています。
人事院では次回の試験で同様の混乱が起きないよう面接日の割り当てを適切に行うなどの方針を示していますが、まだまだ公職者や内部職員の障害者雇用に対する意識が低い印象は否めません。
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