発達障害者が取り組むソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

発達障害者が取り組むソーシャルスキルトレーニング(SST)とは?

精神障害者の治療の一環として「ソーシャルスキルトレーニング」という訓練法があるのをご存知でしょうか。

主な精神障害の治療では、心理的療法や薬物療法もしくはその両方を組み合わせたものが一般的ですが、治療とは別に「社会適応のための訓練」として行われているのがソーシャルスキルトレーニングです。

実はこのソーシャルスキルトレーニング、障害があるかどうかに関係なく、社会人として相応しい能力を身につけるために必要なスキルでもあるのです。

あまり聞き慣れないソーシャルスキルトレーニングについて、その概要や具体的なトレーニング内容などをご紹介します。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)の概要

ソーシャルスキルトレーニングとは「対人関係、集団行動の中で必要な社会的スキルを身につける訓練」です。

英語表記が「Social Skills Training」であるため、「ソシアルスキル」と書いたり、「SST」と略されることもよくあります。

このソーシャルスキルトレーニングですが、主に成長過程にある子どもや発達障害のある人に有効な訓練法とされています。

では、身につけるべき社会的スキルとは、具体的にどのようなものを指すのか見てみましょう。

  • 挨拶や返事などの基本的なコミュニケーション
  • お願いや依頼する、逆に断るという対人マナー
  • 自分の考えの伝え方や自己主張の方法
  • 相手の仕草や話から気持ちを読み取る技術
  • etc…

健常者が当然のように行っていることが身についていない、発達障害者には理解できないことがよくあります。

そこで、「社会的(ソーシャル)に必要とされる能力(スキル)を訓練する(トレーニング)」のがソーシャルスキルトレーニングの目的となります。

ソーシャルスキルトレーニングのやり方と流れ

ソーシャルスキルトレーニングは特に国家資格などがあるわけではなく、社団法人によるソーシャルスキルに関する資格を持った人や民間企業のトレーナーやカウンセラーによって行われます。

そのため、ソーシャルスキルトレーニングには様々な手法がありますが、一例として以下のような流れで行うトレーニングがあります。

  1. 訓練内容や場所、課題を決める
  2. 日常生活等におけるシーンを決める
  3. シーンを基にロールプレイングを行う
  4. 良かった点や改善点を洗い出す
  5. 「3.」を踏まえて再度ロールプレイングを行う
  6. 最後に良くなった点を挙げ、日常生活の中で行える宿題を作る
  7. 日常生活で実際にやってみる
  8. 次回のソーシャルスキルトレーニングで結果を発表する

例えば、まず実際にある日常生活のシーンを設定します。続いて設定したシナリオの中で、どういった言動が適切なのか考えながら演劇のようにして実践します。

その後、どこが良かったかどこを改善すべきかを洗い出し、それを踏まえて再度、同じシーンもしくは少し設定を変えて実践していくという流れです。

他にも、チームワークを必要とするゲーム形式で学ぶ、ディスカッション形式で課題と改善策を話し合うといった方法もあります。

大人の発達障害に対するソーシャルスキルトレーニング

ソーシャルスキルトレーニングは主に子供の教育現場などで用いられる治療法で、成人向けのトレーニングを行っている機関はあまりありません。

発達障害への就労支援で導入されるケースはありますが、大人向けソーシャルスキルトレーニングの導入ケースは大変少ないのが現状です。

だからといって、「大人はソーシャルスキルトレーニングが不要」ということではなく、レクリエーションの一環としてソーシャルスキルトレーニングを取り入れる会社もありますし、個人的な興味や悩みを理由として、ボードゲーム等でソーシャルスキルトレーニングをされている健常者の方もいます。

では、発達障害者も含めて、成人に対するソーシャルスキルトレーニングがなぜ必要なのか、発達障害が原因で起こりがちなトラブル事例を基に考えてみましょう。

  • 会議中に全く関係の無い話をする
  • 見たまま感じたままの事をダイレクトに口に出してしまう
  • 本音と冗談の区別がつかずトラブルになる
  • 作業工程を少しでも変更されると怒りだす
  • 相手の都合を考えず自分の意見ばかり主張する
  • 自分も遅刻が多いのに相手の遅刻にひどく怒る
  • 上司の話が理解できず同じ失敗を繰り返す
  • etc…

上記は、発達障害者のトラブルとして紹介されることが多い事例の中のほんの一例です。

どれも社会人としてやってはいけない行為であったり、相手に対する配慮が必要なシーンであることがお分かりいただけるかと思います。

もしかすると、発達障害がなくても、経験のある方や身に覚えのある方もいるかも知れません。

ご理解いただきたいのは、上記に当てはまったら発達障害であるということではなく、日常生活を円滑にするための訓練ができるという点で、ソーシャルスキルトレーニングは健常者にも一つのツールとして利用されているということです。

「職場や日常生活における対人関係のトラブルを無くす」こともソーシャルスキルトレーニングの目的の一つですから、発達障害者に必要なトレーニングと考えるのではなく、成人の方の悩みを緩和する手段と考えても良いでしょう。

ソーシャルスキルトレーニングを実施している機関

成人の発達障害者向けのソーシャルスキルトレーニングを行っている機関がないか調べたところ、以下の機関でソーシャルスキルトレーニングを行っているケースがあることが分かりました。

  • 医療機関の精神科
  • 就労・生活支援センター
  • 就労移行支援事業所
  • 自治体等で設置している発達障害者支援施設
  • 民間のカウンセリング施設

どの機関でどんなプログラムのトレーニングを行っているかといった詳細な情報はありませんが、各支援機関で発達支援マネージャーがトレーニングを行っていたり、障害者雇用を進める会社が独自に行っている場合もあります。

以下のページでも厚生労働省がソーシャルスキルトレーニングの普及を推進していますので、ソーシャルスキルトレーニングを実施している機関を知りたい方は、まず各地域にある障害者福祉支援の機関などに問い合わせてみましょう。

【参考】厚生労働省「発達障害者支援施策の概要」

まとめ

ソーシャルスキルトレーニングのプログラムの内容を調べていくと、社会人として当然行っている社会的スキルを学ぶという事からどうしてもそのトレーニングの重要性が軽視されがちです。

ただ、健常者の成人であっても、ふいに「やってしまった!」という瞬間はあるはずで、気づけば対人関係で同じ失敗を繰り返してしまっていることもあるのではないでしょうか。

今回ご紹介した支援機関によるトレーニングを受けずとも、ソーシャルスキルトレーニング用のボードゲームやカードゲームといった取り入れやすいものもありますので、興味がある場合は会社のレクレーションや家族が集まる場などで気軽に楽しみながらソーシャルスキルトレーニングを体験してみてもいいかもしれません。

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