虐待や家庭内暴力から子供を守る「こども若者シェルター」とは?

虐待や家庭内暴力から子供を守る「こども若者シェルター」とは?

現在、虐待や家庭内暴力など様々な理由で家庭に居場所がない子供や若者が日本では年々増加しています。
そんな子供達が安全に過ごせる居場所を提供する為、こども家庭庁は2025年に「こども若者シェルター」を創設することを決定しました。
このシェルターは厳しい環境にある子供にとって緊急の避難所であり、新たな支援の場として注目されています。
今回は「こども若者シェルター」の目的や具体的な支援内容、現在直面している問題について詳しく解説していきます。

創設の背景と目的

「こども若者シェルター」とは、家庭内での虐待やネグレクト(育児放棄)などにより、家庭に居場所がない10代から20代の子供や若者を対象とした一時的に保護するための施設です。

家庭での居場所を失った子供達は家庭内での問題や学校でのいじめなどから逃れるために街に集まり居場所を求めています。
特に都市部では子供や若者が犯罪に巻き込まれるケースが多発しており、安全な居場所の提供が求められている現状です。

一例として、東京の歌舞伎町「トー横」と呼ばれるエリアでは、多くの未成年者が夜中に集まり、犯罪や危険な状況に巻き込まれる問題が深刻化しています。
以下の表は、18歳未満の少年少女を対象に行われた補導件数を示したものになります。

トー横周辺での補導件数
2020年 約70件
2021年 約180件
2022年 約580件
2023年 約950件

【引用】春休みのトー横で未成年者31人一斉補導

たった4年の間で「トー横」周辺での補導件数は爆発的に増えています。
未成年者が昔と比べて深夜に出歩くようになったということは、それだけ犯罪に巻き込まれるリスクも当然高くなります。

この問題を解決するために、安全なシェルターの創設が早急に求められています。
【参考】こども若者シェルター・相談支援事業

1.20代でも入所が可能

子供や若者自身が利用を申し出て入所するケースも考えられたことで、家庭で居場所のない20代の成人も一時的に避難することができる、と想定されています。
更に18歳未満の子供が児童養護施設や一時保護施設への入所を拒んでいる場合でも、社会的養護の枠組みを超えて入所することができる施設として注目されています。

社会的養護とは?保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと。

【引用】社会的養護

具体的な実施計画と支援内容

以下に現在検討されている「こども若者シェルター」の運営内容をまとめました。

実施主体 都道府県や児童相談所を設置する市
運営委託 社会福祉法人・NPO法人に委託可能
補助金額 1,758万円/1カ所
加算補助
(相談支援・心理カウンセリング・就労支援・弁護士サポートを含む場合)
最大4,067万円/1カ所
補助率 国:1/2
都道府県等:1/2
運営方法 自立援助ホーム
一軒家・アパートの借り上げ
入所期間 数日から2ヶ月程度
利用料 検討中
職員配置 1カ所あたり4人程度
加算により変動
資格要件 検討中

※こちらは現在検討中の為、決定ではありません。
【参考】こども若者シェルター創設へ 社会的養護に新たな選択肢

支援内容

続いて加算補助の対象となる支援内容について、くわしく説明していきます。

相談支援

専門の相談員が施設に常駐し、さまざまな問題を抱える子供や若者にアドバイスやサポートを提供する。

心理カウンセリング

心理的なサポートが必要な子供や若者に対して、専門のカウンセラーがカウンセリングを行う。トラウマケアやストレス管理の支援を行う。

就労支援

若者の社会復帰をサポートするための就労支援を行う。職業訓練や就労先の紹介、履歴書の書き方指導などの就労に向けたサポートを提供する。

弁護士サポート

法律的な問題を抱える子供や若者に対して、弁護士による法律支援を提供する。法的なアドバイスや裁判手続きのサポートなど、権利保護を図るための支援を行う。

子供や若者に対する支援に対して補助が降りることで、社会で困難を抱える子供や若者にとって前向きに取り組まれることが期待できますね。

【参考】こども若者シェルター創設へ 社会的養護に新たな選択肢

児童養護施設や一時保護施設との違い

「居場所がない子供の施設はもう既にあるじゃないか!」と、児童養護施設や一時保護施設を想像した方もいるでしょう。
「こども若者シェルター」の創設が進められている背景には、既存の「児童養護施設」や「一時保護施設」との違いが大きな理由としてあります。

それぞれの施設の違いを以下に説明していきます。

施設名 目的 対象者 支援内容 入所期間
児童養護施設 長期的な生活支援を提供 18歳未満の児童 生活支援、教育支援、医療支援、心理支援 長期(数年)
こども若者シェルター 安全な居場所を提供し幅広い支援を行うこと 家庭内問題から逃れ安全な場所を必要とする子どもや若者 安全な居場所、心理支援、社会支援、法的支援 中期(数日~2ヶ月)
一時保護施設 緊急避難的な保護を提供 緊急保護が必要な児童 緊急保護、生活支援、心理支援、医療支援 短期(数日~数週間)

特に大きな違いとしては、対象者と入所期間にあります。

今までは家庭内に居場所がないこどもや若者が中期的に避難できる場所が無かったことがポイントとして挙げられます。
この柔軟な支援が多様なニーズに応えるために必要とされています。

子供や若者の行動はスマートフォンの影響もあり、随分と変化しました。
従って「こども若者シェルター」の創設は、既存の施設では十分に支えられなかった部分を提供するための重要なステップだと考えられます。

課題と問題点

「こども若者シェルター」の運営には現在5つの課題が見受けられます。

現在「こども若者シェルター」と近い形で、社会福祉法人やNPO法人が運営する子供や若者向けの「こどもシェルター」や「自立援助ホーム」などが存在しています。
その施設で現在起こっている問題が、2025年度に創設される「こども若者シェルター」にも重くのしかかってくることが想定されています。

1.資金面の問題

運営には多額の費用が掛かります。
今回説明した政府からの補助金や自治体の支援はあるものの、十分とは言えず、多くのシェルターは寄付やボランティアの協力無くしては運営できない状況です。

2.職員の確保と定着

シェルターの運営には専門的な知識と経験を持つ職員が必要ですが、人材の確保と定着が難しいとされています。
職員の離職率が高く、経験豊富な職員が長期間にわたって継続して働くことが難しい状況が続いています。

3.セキュリティとプライバシーの問題

シェルターでは、安全とプライバシーを確保することが非常に重要になります。
しかし、外部からの干渉やトラブルを防ぐためのセキュリティ対策が十分でない場合もあります。
特に、住所を非公開にするなどの対策が求められますが、実際にはうまく機能しない可能性も考えられます。

4.利用者の自由と安全のバランス

利用者が安全に過ごすために一定のルールや制限が設けられますが、これが反対に利用者の自由を縛ってしまうことにもつながります。
特に携帯電話の使用制限を現在検討しています。

5.理解と認知度の不足

「こども若者シェルター」の存在について、社会全体の理解と認知度が十分ではありません。
これにより、シェルターの支援が滞ってしまい、必要とする子供や若者に対する援助が行き届かない可能性があります。

まとめ

「こども若者シェルター」は虐待や家庭内暴力から逃れるために安全な居場所を求める現代の子供や若者にとって、重要な施設になっていくことは間違いないでしょう。
既存の児童養護施設や一時保護施設と異なり、緊急かつ幅広い支援を提供することを目的としています。
しかし、資金面や職員の確保、セキュリティ対策など、課題も多く残されています。
これらの課題をひとつひとつ対処していき、シェルターの重要性を広く認知してもらうことが今後の大きな課題となるでしょう。

こども若者シェルターの存在が広く認知され、必要とする子どもや若者が安心して利用できる社会を実現するためには、社会全体の理解と協力が不可欠です。
この記事を通じて「こども若者シェルター」の現状と未来、そして重要性について理解を深めていただければ幸いです。

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