2019年2月22日、社会保障審議会障害者部会でついに「障害者手帳のカード化」が正式に決まりました。
既に2018年中から検討や議論が重ねられてきた障害者手帳のカード化ですが、少しずつその全貌が分かってきています。
すでに概要はご存知の方も多いと思いますが、正式決定した今、改めてその概要やカード化のメリットを整理しつつ、カードタイプの障害者手帳の欠点についても解説いたします。
障害者手帳カード化の施行予定と形状
まず、本記事をお読みの方は「障害者手帳がカード化されるのはいつから?」「どこで発行できるの?」といったところが最も気になるかと思います。
確認したところ、障害者手帳を所持する人向けの情報があちこちに点在しているため、以下に現時点で確認できている情報をまとめて掲載します。
施行日 | 2019年4月1日 |
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発行元 | 都道府県 |
カード名称 | 身体障害者手帳「身体障害者手帳」/精神障害者手帳「障害者手帳」 |
大きさ | 縦5.398cm×横8.56cm |
形状 | プラスティック製(視覚障害者用にカード上部に切り抜き) |
その他様式 | 偽造防止対策用の加工、備考欄、有効期限は手書きや押印が可能 |
記載事項 |
※※身体障害者手帳は以下も記載※※
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カードの形状等は以上のように統一されることになっていますが、必ずしもカードに変更する必要はなく、紛失などの心配があればこれまで通り手帳型も選択可能です。
そしてカードの大きさは免許証やマイナンバーカードと同じです。カードタイプの障害者手帳も含めて本人確認書類のカードの大きさは国際規格である「ISO/IEC7810」のサイズを採用しているため、今後カード化されるものの多くがこの大きさになっていくでしょう。
なお、療育手帳については以前からカード発行ができるため、特に今回の決定で定められた事項はありません。カード化できることは改めて自治体へ周知していくとの考えが示されています。
残念な点も…障害者手帳カード化のデメリット
かねてより障害者からカード化の要望があったため、今回の改定は喜ばしいものとして話題になっていますが、実はいくつか残念な点もあります。現状多く意見が上がっているのは、主に「ICチップがついてない」「発行するかどうかは都道府県次第」という2点です。
カード化したことで扱いやすくなったという声が多い一方で、「ただカードにしただけ」という意見があるのも事実です。つまり、公共機関の割引制度などを利用する際の「提示する手間」や「利用しやすさ」などが軽減されたとは言えないのです。
実際、障害者割引の利用者の声を聞いてみると、以下の報道にもあるように障害者手帳の提示が障害者にとっていかに煩わしいかが分かります。
【参考】 西日本新聞「使い勝手悪い」障害者向けICカード 利用者悩ます“欠点”とは
福岡市は障害者向けに発行していた「福祉乗車証」という紙タイプのカードを取りやめ、「交通用福祉ICカード」を導入しました。使い方は簡単で、Suicaなどのように現金をチャージして読み取り機にタッチするだけです。
このように一見便利に感じる交通用福祉ICカードですが、実は大きな欠点が2つあります。
まず、チャージは駅の切符売り場等ではなく、いちいち役所に持って行かなければなりません。理由は、本人が現金をチャージするのではなく、福祉・介護保険課にてその年の助成金の交付額をチャージするためです。
更に面倒なことに、交通用福祉ICカードを改札機等の読み取り部にタッチしても、自動で障害者割引は適用されません。つまり、役所でチャージしてもらったカードを自動改札にタッチしてしまうと、通常料金が適用される仕組みになっているのです。
では、どのようにして障害者割引を適用するのかというと、駅員のいる有人改札でICカードを渡した上で職員専用の券売機で割引してもらう、もしくは渡した職員の手作業で割引処理をしてもらうという仕組みになっています。
これでは果たしてICカードの意味があるのか?と疑問に思うかも知れませんが、「都道府県が独自に発行する」という前提がある以上、現状の制度ではある意味致し方ないのかも知れません。
今回の障害者手帳のカード化も結局のところカードタイプの障害者手帳を発行するかどうかは都道府県次第ですので、カード化が施行されてもなかなかカードタイプの障害者手帳を導入しない都道府県が出てくることは十分予想されます。
これまで障害者手帳の大きなデメリットだった「都道府県ごとに大きさや色、名称が違う」という点は解消されそうですが、手帳の運用方法や発行基準が統一されるにはまだまだ時間がかかりそうです。
それでもメリットの多い障害者手帳のカード化
カードの様式や形状、課題点を解説しましたが、メリットが多いのも事実です。今回の障害者手帳のカード化により、どのようなメリットがあるか考えられるものを挙げてみましょう。
- 持ち運びでかさばらない(財布やパスケースにも入る)
- 様式の統一化で認知度の高まりに期待できる
- 偽造しづらいため本人確認書類として有効性が高まる
- 耐久性に優れる(濡れや破れ)
- 障害の詳細が記載されないためプライバシーが守られる
一番はやはり、これまでの障害者手帳が「微妙な大きさで邪魔」と言われていたデメリットを解消できた点ではないでしょうか。
以前某有名女性アーティストのコンサートで、障害者手帳を本人確認書類と知らないスタッフの対応により、会場に入場できなかったというトラブルが騒ぎになったこともありました。
こういったトラブル防止という面でも、統一化されたカードタイプの障害者手帳なら広く認知され、本人確認書類としての有効性に期待できます。
また、メリットと言えるかは分かりませんが、一部では「写真を新しいものにしたかった」という声もあり、今回の改定は全体的に肯定的な意見が多い印象です。
障害者手帳を既にICカード化しているエリア
さて、先ほど障害者手帳の課題として取り上げた「ICカード化」ですが、関西では既に障害者割引制度が自動で受けられるように、障害者手帳のICカード版に近いものを導入しています。
その発行元となっているのが、大阪に拠点がある「スルッとKANSAI協議会」です。
スルッとKANSAI協議会では「特別割引用ICカード」を発行しており、身体障害者手帳と療育手帳に限られますが、加盟店の全てで割引を利用できるようになっています。
特別割引用ICカードの概要は以下の通りです。
カード方式 | チャージ式 |
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利用方法 | 駅の改札やバスのICカード読み取り機にタッチ |
発行手数料 | 無料 |
発行方法 | 以下の書類を用意して、株式会社スルッとKANSAI特別割引用ICカードサービスセンターへ送付
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スルッとKANSAI協議会では、関西を中心として岡山県と静岡県を含めた64の鉄道やバスの乗車について、共通カードの乗車システムを導入しています。
関東が「PASMO」なら関西は「PiTaPa」ですが、PiTaPaを提供しているのがスルッとKANSAI協議会です。概要にもある通り、使い方は現金をチャージして読み取り機にタッチするだけです。
これで自動的に障害者割引料金が適用された金額が引き落とされるため、改札の通過やバスの乗降等でいちいち障害者手帳の提示や確認が必要なくなるという仕組みです。今回の障害者手帳のカード化はこのような利用方法になることを望んでいたという声も多いのですが、結果としてICチップは搭載されませんでした。
マイナンバーカードの場合はICチップが搭載されており、住民票の交付や役所の窓口での手続きも簡単にできますが、カードタイプの障害者手帳は券面の内容を人が目視で確認して手続き等を行うという不便さが残りました。
障害者手帳はこれまで、「手帳を取り出して見せる」「確認してもらう」「場合によっては障害の程度や事情を説明する」「手帳を返してもらう」といった非常に煩わしい工程が障害者の負担となってきました。
こういった手間や心理的負担を少しでも早く解消するため、今後の最重要課題として国に取り組んでもらうことが望まれます。
まとめ
最後にご紹介した関西エリアの特別割引用ICカードは、行政がわざわざICチップ搭載型のカードを発行しなくても民間が障害者手帳を確認して専用のICカードを発行すればよいのでは?と疑問に思います。
ただ、カード発行もタダで行えることではありませんし、読み取り機にかざした後の処理をスムーズに行うためには、現在のシステムの大幅な刷新が求められることでしょう。
日本の福祉が障害者の暮らしやすさを目指す社会モデルを中心に考えられている以上、せめて交通機関の利便性くらいは先だって改善すべきと言えるのではないでしょうか。
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