障害者雇用促進法では、事業主に対して一定割合以上(法定雇用率)の障害者の雇用を義務付けています。ただ法定雇用率の達成を義務付けるだけではありません。法定雇用率を達成した企業には、様々な助成金が交付される仕組みです。
企業としては賢く使っていきたい助成金ですが、もし障害者雇用の水増しで違法に助成金を受け取るとどうなってしまうのでしょうか。今回は、障害者雇用関連助成金の不正受給について解説していきます。
障害者雇用水増し問題とは?
「障害者雇用の水増し」といえば、2018年に発覚した公的機関による不適切計上の事件が記憶に新しいところ。本来は障害者手帳の所持によって障害者雇用数を確認するのがルール。ただ「健康診断で異常があった」「うつ状態と自己申告があった」などの理由で障害者としてカウントしていたのです。
実に中央省庁を始めとした8割の機関で不正処理が発覚。しかも公表人数の半数が水増しであったことが判明し、痛烈な批判を浴びることとなりました。大きな波紋を呼んだ障害者雇用に関する水増しですが、国だけでなく民間の事業者でも行われている実態があります。
実際にあった助成金の不正受給事例
- 【事例1】
- 2017年5月、青森県弘前市の広告業者が「特定求職者雇用開発助成金」を不正受給していたとして逮捕されました。実際には働いていない精神障害者を雇用していると見せかけ、虚偽内容の申請書類を労働局に提出したのです。発覚したのは助成金60万円の不正受給ですが、少なくとも全部で240万円になると見て捜査が続けられました。
- 【事例2】
- 大分にある障害福祉サービス事業所は、2016年8月からの約8か月間の間に電子書類の内容を水増しするなどして給付金を請求。もともと障害者が雇用契約を結ばずに働く就労継続支援B型の事業所で、施設利用者の利用回数を水増ししていたのです。不正額は98万円。不正による加算金を含めた137万円の返還と事業所としての指定を取り消す処分が下されました。
違法に助成金を受給すると課せられるペナルティ
違法に助成金を受給していたことが発覚すれば、社会的にも経済的にも大きなダメージは避けられません。課せられるペナルティは大きく4つ挙げられます。
ホームページで企業名等を公表
障害者納付金関係助成金の不正受給が発覚した場合、高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のホームページで以下の内容が公表されます。
- 事業主の名称および代表者の氏名
- 事業所の名称、所在地および事業の概要
- 不正受給に係る金額および内容
ホームページで不正受給をした企業として公表されれば、取引先でなく利用者やその他重要なステークホルダーから信用を失うことになります。
助成金の支給停止・返還・延滞金・罰金の支払い
助成金の支給が始まっていれば、当然ながら助成金の支給は停止されます。もちろん支給済みの助成金も返還しなければなりません。返還するのは不正受給した額だけでなく延滞金が付加され、事業主には30万円以下の罰金が科せられることもあります。
3年間、雇用関係助成金の不支給措置
雇用関連の助成金には障害者を対象としたものに限らず、人材開発・仕事と家庭の両立支援・キャリアアップなど様々な場面で活用できるものがあります。しかし不正受給が発覚すると、これらすべての「雇用関連助成金」が3年間利用できなくなります。
不正の内容によっては刑事事件として告発
上述の通り、特に悪質な場合は詐欺罪等によって刑事告発される可能性があります。詐欺というのは実際にお金を受け取っていなくても、「欺罔」によりお金を騙し取ろうとした事実が発覚した時点で成立します。水増し自体が詐欺と考えたほうが良いでしょう。
助成金の違法な受給はなぜバレる?
障害者雇用納付金等はJEEDが管轄しており、事業所への訪問調査や保管書類、事業所の実態を確認して不正受給防止の取り組みを行っています。また各種助成金に関しては、JEED・各都道府県労働局が不正防止のために実地調査を実施。例えば東京労働局では、以下のような実地調査が行われています。
- 事前連絡なしに突然訪問することがある
- 支給要件の確認に必要な書類等を確認する
- 事業主だけでなく、従業員へのヒアリングも実施される
また、JEEDでは障害者雇用助成金に関する専用の「不正受給通報メールアドレス」を設置しています。窓口がWebで公開され、誰でもメールを使って内部告発できるようになっているので、不正受給が発覚しやすい環境が整っていると言えます。なお、不正受給通報メールアドレスは以下のサイトより確認できます。
「不正受給は刑事告発もありうる」「突然実地調査が行われる」と聞いて、「うちの会社も知らないうちに不正受給になっているかもしれない……」と心配になっている方もいらっしゃるかもしれません。ただ、厳罰はあくまでも「悪意をもって不正が行われていた場合」であって、申告ミスであれば刑事告発にまで発展するようなことはないはずです。
不安に思われた方は、JEED、ハローワーク、都道府県労働局に相談してみることをオススメします。せっかくの助成金、正しく賢く活用していきましょう。
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