事故や病気の発症などを理由に、今まで健康に働いていた人が障害を背負ってしまう場合があります。
従来は中途障害の労働者は休職を余儀なくされ、最悪の場合、退職まで追い込まれるケースも少なくありませんでした。
障害者が解雇されると、健康な人と比べ再雇用が難しくなるため、生活は困窮を極めます。
こうした事態を生じさせないために、中途障害者の雇用継続の促進を目的に、障害者職場復帰支援助成金という制度がスタートしました。
今回は、障害者職場復帰支援助成金の受給要件や手続きの流れ等、解説します。
【障害者職場復帰支援助成金】労働者の受給要件
障害者職場復帰支援助成金は、受給に必要な要件がいくつかあり、労働者・事業主双方に満たすべき事項はありますが、まずは労働者の受給要件を紹介します。
労働者の場合、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。どれか一つではなく「全て」という点に注意です。
・障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第2号に規定する身体障害者
・障害者の雇用の促進等に関する法律第2条第6号に規定する精神障害者(発達障害のみの方を除く)
・難治性疾患のある方
・高次脳機能障害のある方
② 指定の医師の意見書で、①の障害に関連して、3か月以上の療養のための休職が必要とされた方
③ 障害者総合支援法に基づく就労継続支援事業(A型)の利用者として雇用されていない方
④ 国などの委託事業費から人件費が支払われていない方
「職場復帰の日」とは、障害や疾患を理由とした連続した休暇が開けた後の最初の勤務日を指し、出勤簿などの公的な書類で確認できる日でなくてはいけません。
また、②の医師の意見書は、職場復帰の日、もしくは職場適応措置の開始日以前に交付を受ける必要があります。
身体障害者の定義
①の障害の範囲に関してですが、障害の種類と具体的な基準は以下の通りです。
・両眼の視力(万国式試視力表によって測ったものをいい、屈折異状がある場合は矯正視力について測ったものをいう。以下同じ)がそれぞれ0.1以下
・一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下
・両眼の視野がそれぞれ10度以内
・両眼による視野の2分の1以上が欠けている
(2)聴覚又は平衡機能の障害で永続するもの
・両耳の聴力レベルがそれぞれ70dB以上
・一耳の聴力レベルが90dB以上、他耳の聴力レベルが50dB以上
・両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下
・平衡機能の著しい障害
(3)音声機能、言語機能またはそしゃく機能の障害
・音声機能、言語機能またはそしやく機能の喪失
・音声機能、言語機能またはそしやく機能の著しい障害で永続するもの
(4)肢体不自由
1. 一上肢、一下肢または体幹の機能の著しい障害で永続するもの
2. 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠く、または人差し指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠く
3. 一下肢をリスフラン関節以上で欠く
4. 一上肢のおや指の機能の著しい障害又は人差し指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で永続するもの
5. 両下肢のすべての指を欠く
6. 1〜5までに掲げるもののほか、その程度が1〜5までに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
(5)心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
いずれも「永続性」「程度の著しさ」が判断基準となっていることが分かります。
精神障害者の定義
一方、精神障害者の具体的な基準は、以下の通りです。
・精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている者
・統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む。)又はてんかんにかかっている者
【参考】障害者雇用促進法施行規則
【障害者職場復帰支援助成金】事業主の受給要件
事業主の要件
事業主の場合、以下の6つの要件を全て満たさなければいけません。
② 対象労働者が65歳以上の年齢に達するまで、かつ職場復帰後の雇用期間を2年以上継続すること
③ 職場適応の措置に関する経費・医師からの意見書の交付に要する経費・助成金申請に要する経費を全額負担すること
④ 支給対象期間の労働者に対する賃金を期日までに支払っていること
⑤ 起算日前4年間に、同一の対象労働者に対して、同一の障害を理由に、障害者職場復帰支援助成金の支給を受けていないこと
⑥ 対象労働者の出勤や賃金の支払い状況に関する書類(出勤簿・賃金台帳等)を整備・保管していること
※⑤の「起算日」とは、職場復帰の日、または職場適応措置(能力開発・訓練関係やリワーク支援関係)の終了日の翌日(いずれか遅い日の直後の賃金締切日の翌日)をいいます。例えば、毎月30日が賃金締切日、職場復帰の日が6月15日、職場適応措置の終了日の翌日が7月15日のケースでは、7月31日が起算日となります。
事業主が取るべき職場適応の措置
また、上記要件の他に、指定の職場適応の措置を行わなければ受給を受けることはできません。
指定の職場適応の措置とは、以下のような内容です。(1)~(3)のいずれかの対応を行う必要があります。ただし、対象労働者がそううつ病の場合、加えて(4)を行う必要があるので、注意してください。
- (1)能力開発・訓練関係
- 職場復帰のために必要な能力開発をが50時間以上(OJTを除く)本人に無料で受講させる
- (2)時間的配慮等関係
- 労働時間の調整・通院のための特別休暇の取得等
- (3)職務開発等関係
- ・外部専門家の援助や医師の意見書、身体障害の態様などを踏まえ、明らかに実施できない業務がある場合、作業内容の変更や職種の転換等、必要な措置を講じる
・外部専門家の援助や医師の意見書、身体障害の態様などを踏まえ、必要な支援設備の整備や機器の導入を行う - (4)リワーク支援関係
- 主治医・本人の同意のもと、支援計画に基づき、1ヵ月以上のリワーク支援を実施する
障害者職場復帰支援助成金の受給金額
注意していただきたいのは、障害者職場復帰支援助成金は労働者に対して支給されるものではなく、業務遂行能力の低下などを理由とした解雇等を防ぐために、事業主を対象として助成金を支給する制度です。
助成対象期間は1年間で、中小企業は70万円、中小企業以外は50万円の支給を受けられます。対象期間を6ヵ月で2つに分けて、分割して支給されます。
例えば、中小企業であれば第一期に35万円、第二期に35万円支給されることになります。
障害者職場復帰支援助成金の手続きの流れ
障害者職場復帰支援助成金の受給を受けるには「受給資格認定申請」と「支給申請(第一期・第二期)」の2つの申請を行う必要があります。
おさらいですが、まず前提として、以下の2つの要件を満たす必要があります。
・3ヵ月以上の療養のための休職期間が必要だとする医師の意見書の取得
・休職期間中、もしくは職場復帰の日から3ヵ月以内に、職場適応のための措置を開始
受給資格認定申請では、起算日から3ヵ月以内に、事業所を管轄する労働局かハローワークに、受給資格認定申請書および必要書類を提出する必要があります。(ここでいう起算日は、事業主の要件⑤のものと同義)
受給資格の認定を受けたら、次は支給申請です。支給対象期間の末日の翌日から2ヵ月以内に、事業所を管轄する労働局、もしくはハローワークに支給申請書および必要書類を提出します。
障害者職場復帰支援助成金は受給要件が数多く設けられ、手続きも複数回行う必要があり、複雑な制度だと感じたかもしれません。
しかし、雇用を継続してほしい障害者の救いになる可能性がある点は事実です。
新しくできたばかりの制度で、会社の担当者も制度自体を知らない可能性もあります。要件に該当する方は、職場に制度の内容等を伝えてみてはいかがでしょうか。
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