2021年1月現在、従業員が45.5人以上いる企業は障害者を1人以上雇用することが義務づけられています。
2021年4月までに43.5人以上へと拡大されることが決まっており、自分の会社がそれに該当すると気を引き締めている方も多いことでしょう。
そこで今回は、初めて障害者を雇用する事業主のために、障害者を雇用するメリットをはじめ、事業主に支給される助成金などについて詳しく紹介していきます。
事業主にとって障害者を雇用するメリットは?
「改正障害者雇用促進法」の施行に伴い、障害者を雇用する事業主が増えています。一方で、「雇用したいが障害者は育成指導が難しそう」とか「長続きしないのでは?」といったマイナスイメージを持って雇用に踏み出せないでいる事業主も少なくないようです。
しかし、障害があっても自分の特性を活かし、会社の戦力となって活躍している人がたくさんいます。また、障害者を雇用することで事業主が得られるメリットが数多くあります。その主なものをあげてみましょう。
有能な人材の確保・定着につながる
障害者の中には、優れた能力を持ちながらハンディキャップがあるために就職の機会が得にくく、能力を発揮できずにいる人がいます。
例えば、発達障害でアスペルガー症候群の傾向が強い人は周囲とコミュニケーションを取ることが苦手ですが、得意分野の仕事ならだれにも負けないほど完璧にやり遂げることができます。
車椅子ユーザーの身体障害者の場合は、通勤ラッシュの9時出社5時退社は難しくてもパソコンスキルが高く、「1人で2人分以上の仕事をこなす」と評価される人もいます。
このように、雇用主がその人の特性や能力を見極め、適切な職務に配属することで有能な人材を定着させることが可能です。
CSRを果たすことができる
CSR(Corporate Social Responsibility)は「企業の社会的責任」という意味で、企業は自社の利益を追求するだけでなく、社会へ影響を与える存在として社会全体に責任を果たすことが求められています。
具体的には「障害者雇用」をはじめ「環境保全」「人権擁護」「ダイバーシティ(国籍や性別、年齢、障害の有無などの違いを受け入れ、多様な価値観や発想を活かす戦略)の推進」などの社会的な課題に積極的に取り組むことを指します。
障害者の特性や能力を理解して雇用することはCSRを果たす経営者として、企業の価値も高めることにつながります。
法定雇用率以上の障害者を雇い入れると調整金が支給される
障害者雇用促進法より従業員が45.5人以上いる会社では障害者を1人以上雇用することが義務づけられていますが、これを障害者雇用率制度といい、法定雇用率を超える人数を雇用している事業主に対して調整金や報奨金が支給されます。
・全従業員100人以下の企業は、全従業員の4%または6人のいずれか多い数を超えて雇用している場合、月額21,000円×超過人数の調整金
このほか、障害者を雇用して定着させるためにエレベーターを設置したり、寮など福利厚生施設を用意した場合は、事業主の経済的負担を軽減する目的で「障害者作業施設設置等助成金」や「障害者福祉施設設置等助成金」が支給されます。
障害者を仮採用できる制度の目的や支給要件
障害者を雇用する際は、事業主が想定する業務遂行能力があるかどうかを確認するための試行期間や、スキルアップするための訓練期間を設定することが認められています。本採用に至る前のいわゆる仮採用で、以下のような制度が設けられています。
なお、雇用に関する各種制度は雇用保険事業の一環なので、助成金などの支給要件はいずれも「雇用保険の適用事業所であること」と「ハローワークまたは民間の職業紹介事業者を通して雇用する労働者であること」の両方に該当するものとされています。
障害者トライアル雇用
障害者を原則3か月間試行(トライアル)雇用し、指導を行いながら適性や業務遂行能力を見極め、トライアル雇用期間終了後に本採用するかどうかを決めることができるという制度です。
未経験で就職が難しい障害者にチャンスを与えるとともに、障害者を雇用する事業主の不安を解消することを目的としています。
この期間中は障害者に賃金を支払います。雇用期間満了後は常用労働者として本採用するのが前提ですが、本採用は義務ではありません。
対象者 | 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害があり、障害者手帳を持つ人 |
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奨励金 | トライアル雇用奨励金が1人あたり月4万円(最長3か月)、精神障害者を初めて雇用する場合は1人あたり8万円(最長3か月)の支給 |
対象期間 | 原則3か月間 |
精神障害者ステップアップ雇用/グループ雇用
フルタイム勤務は難しいといわれることの多い精神障害者を、6~12か月間の有期雇用で雇い入れ、週10時間以上の短時間勤務からスタートして、最終的に週20時間以上の勤務ができるようになることを目的としています。
期間途中で常用労働者として本採用することもできます。逆にステップアップ雇用期間中に本採用に至らない場合は、契約期間満了による雇用終了となります。
グループ雇用は、障害者を2~5人のグループで有期雇用し、同様に20時間以上の勤務を目指すものですが、この場合は資格を持つ支援指導員を1グループにつき1名を選任する必要があります。
対象者 | 精神障害者で障害者手帳を持っている人 |
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奨励金 | ステップアップ雇用は1人につき月2.5万円。グループ雇用はステップアップ雇用2.5万円にグループ雇用奨励加算金として1グループにつき月2.5万円が加算 |
対象期間 | 6~12か月間 |
障害者委託訓練
正式には「障害者の態様に応じた多様な委託訓練」といい、社会福祉法人や教育機関、民間企業などに委託している職業訓練を受けて就職に必要な知識やスキルを短期間で習得することを目的としています。
①知識・技能取得訓練コース、②障害者向け日本版デュアルシステム、③実践能力習得訓練コース、④ e‐ラーニングコース、⑤在職者コースがあります。
対象者 | 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害があり、障害者手帳を持つ人。難病のある人 |
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報奨金 | なし。委託先に対しては受講生1人あたり60,000円が支払われる。 |
訓練期間 | 原則3か月以内、月100時間以内 |
事業主にとってのメリットは、ハローワークで人材募集する際に、障害者委託訓練を終了した優秀な受講生を「指名求人」することができる点です。
精神障害者社会適応訓練
働く意欲のある精神障害者が、協力事業所に一定期間通い、集中力、持久力、対人能力、職場適応能力などを身につけて一般企業への就職を目指します。
都道府県に認められた協力事業所を「職親(しょくおや)」といい、訓練期間終了後はそのまま雇用主になることが望まれます。
訓練中の障害者に対して賃金は不要です。賃金を支払うと雇用したものとみなされ、その後の支援を受けられなくなることがあります。
対象者 | 精神障害者で障害者手帳を持っている人 |
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協力奨励金 | 1日1,000円が事業主に支給されます(都道府県によって異なる) |
訓練期間 | 1日6時間、月20日間で6か月間が原則。本人の状態によって3年を限度として更新可能 |
職業適応訓練
実際に職場で働いて職場環境に適応しやすくなることを目的とし、事業主に対しては障害者の技能のレベルや適性を把握してもらうために実施されるものです。
訓練を行う事業所の条件として、訓練に必要な設備が整っていること、指導員が配置されること、訓練終了後に訓練生を雇用する見込みがあることなどがあげられています。
対象者 | 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害があり、障害者手帳を持つ人 |
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訓練費 | 1人あたり月24,000円。重度の障害者の場合は月25,000円が事業主に支給 |
訓練期間 | 通常6か月、重度の障害者は1年 |
短期訓練(短期職業訓練)
障害者を雇用したことのない事業主が、3~5日間の職場実習を受け入れて障害者雇用に対する理解を深めることを目的とした制度です。実習生を受け入れるための費用は一切かかりません。
訓練中は障害者雇用サポートセンターの支援を受けることができるので安心です。
また、あくまでも職場実習ですから訓練終了後は必ず雇用しなればならないというわけではありません。
対象者 | 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害があり、障害者手帳を持つ人。 |
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報奨金 | なし |
訓練期間 | 3~5日間 |
まとめ
仮採用は一般の試用期間にあたりますが、試用期間との違いは期間満了時の対応の仕方です。
一般の試用期間においては、期間満了時に本採用に至らない場合は「解雇」の扱いとなり、解雇する際は「正当な事由」がないと労働契約法違反となり、解雇は無効となることがあります。
今回紹介した制度も本採用が前提とはいえ、本採用をしない場合でも「雇用終了」となるだけで法に触れることはありませんが、仮採用であっても期間満了の30日前には本採用できない旨を通知するなど礼を尽くすことが大切です。
【参考】
トライアル雇用のご案内 – 厚生労働省
ハローワークと助成金はどんな関係にあるの? – 財務局経済産業局認定支援機関 資金調達ノート
障害者の方の『働きたい!』を強力バックアップ! – 東京しごと財団
執筆者プロフィール
医療ライター
編集プロダクションに勤務し、主に健康書の企画・執筆・編集業務に従事。専門医や大学教授の著作に執筆協力として長年携わったのち独立。現在はフリーの医療ライターとして書籍やWeb媒体で記事を執筆中。