介護や福祉の現場で働く人は、なかなか現場に定着しないと言われています。
介護や福祉の仕事に就く人は、同じ職場で長く働き続けるのが難しいと言われています。
確かにやりがいのある仕事です。でも同時に、心も体も大きな負担がかかる、とても大変な仕事でもあります。
職員は日々の疲れ、人間関係のストレス、報われない気持ちにおそわれることもあり、介護や福祉の仕事を続けたくても心身ともにやられてしまい、続けられないことがあるのも事実です。
本記事では、なぜ介護や福祉の職員の離職率が高いのかを探り、どうしたら職員の離職を防ぐことができるのか、事例も交えてお話しします。
なぜ介護・福祉職の人は辞めてしまうのか 〜離職の現状と本音〜
統計から見える離職率の高さ
公益財団法人介護労働安全センターの統計によると、介護・福祉の仕事の2023(令和5)年度の離職率は13.1%となっています。
2023年の採用率は16.9%で、2021(令和3)年を底に少しずつ増えてきています。
つまり、新しく働き始める人が増えてはいるものの、それと同じくらい辞めてしまう人も多いため、介護・福祉の現場では人手不足の状態が続いていると言えるでしょう。
参考:公益財団法人介護労働安全センター 令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について
よくある離職理由
介護や福祉の現場で職員の定着率が低いのは、以下のような複数の要因が重なっているためです。
少人数でのシフト勤務や休日出勤が常態化しており、身体的・精神的に疲弊しやすい環境になることがあります。
慢性的な人手不足により、業務量が多くなりがちで、さらに事務作業も多いため、職員一人ひとりの負担が大きくなっています。
職員全体に余裕がなく、相談しづらい雰囲気があることで、上司や同僚との人間関係にストレスを感じやすくなっています。
賃金が十分とは言えず、将来的な生活設計に不安を抱える職員が少なくありません。
日々の努力が目に見えづらく、十分に評価されないことが多いため、仕事に対するやりがいを感じにくい傾向があります。
「続けたくなる職場」
それでは、介護や福祉の現場で働く人たちが離職せずに済む方法は何かないのでしょうか。
職場をどう変えたら「続けたくなる職場」になるのでしょうか。
業務負担の軽減
介護や福祉の現場では、人手不足な上に業務が非常に多いです。
ここでは業務負担を軽減できるような方法をご紹介します。
①記録や事務作業の簡略化
介護・福祉職の現場で働く人の頭を悩ませている記録や事務作業。
事務作業を簡略化することで、介護・福祉の現場で働く人たちの業務負担がかなり軽くなります。
たとえば、日々の記録を電子カルテの導入で簡略化したり、利用者の利用日数をPCで管理するなど、ICTの導入をすることで事務作業がかなり簡略化されます。
そのためには介護・福祉の現場で働く人もPCの操作に慣れないといけませんが、手書きで記録をするよりは格段に楽になるでしょう。
②人員配置の工夫、繁忙期対策
介護・福祉の職員の業務負担を減らすには、人員配置の工夫も必要です。
たとえば、
・事務作業専属の人を雇う
・夜勤専属の人を雇う
・繁忙期に合わせて派遣の介護・福祉職の人を雇う
など、少しでも人を増やして分担作業をおこなうことで、業務負担を軽減することができます。
柔軟な働き方の実現
介護や福祉の現場で働く人たちが仕事を続けられるようにするには、柔軟な働き方も重要です。
介護や福祉の現場で働く人たちにも家庭での生活もあるため、家庭と両立できるような制度を整える必要があります。
①希望休の取得、子育て・介護両立支援
介護や福祉の現場でより働きやすくなるように、希望休が取りやすい制度である必要があります。
できれば、時間休が取れる制度があると良いでしょう。
また、仕事と家庭の両立を考えると、子育てや介護で休暇を取ったり時短勤務ができるような体制を整えておけると良いですね。
②夜勤回数の調整、パート・短時間勤務の活用
夜勤は、体に大きな負担がかかります。睡眠リズムも狂いますし、不眠の原因になりえます。
夜勤回数を調整し、できれば日勤・夜勤が頻繁に入れ替わるシフトにならないのが理想です。
パートや短時間勤務の職員を活用し、一人ひとりの業務負担を少なくすることで、介護や福祉の現場で働きやすくする工夫が必要です。
介護・福祉の現場で働く人の心身の休息が取れる時間が増えれば、離職率も減るでしょう。
「安心できる制度」の整備
介護・福祉の現場は神経をすり減らすことが多いです。
利用者やご家族との関係はもちろん、ストレスの多い職場の中で余裕のなくなった職員同士で起こる問題も多く生じることがあります。
①メンタルヘルス支援
外部のカウンセリング施設との連携や、面談制度を利用し、職員のメンタルヘルスの維持をしていくことが重要です。
職場内の立場に関係なく相談できる場を確保しておくことで、離職する人が減ります。
②ハラスメント防止
職員同士でストレスがたまると、ハラスメントが起きるおそれがあります。
ハラスメント防止の仕組みをあらかじめ職場内に作っておくことで、いざハラスメントが起こった場合に職員が対処しやすくなります。
人が辞めない職場の秘密:人間関係とマネジメントが効果的に作用した事例
精神障害のある人のグループホームは離職率が高いと言われています。
それでも人が辞めにくい職場は存在します。
いったいどのような工夫がされているのでしょうか。
<精神障害者グループホームAの事例>
精神障害者グループホームの中でも、グループホームAには重い精神障害の人が何人か利用しています。
管理者やサービス管理責任者の手厚いサポートや、世話人など同じ職種同士のサポートが功を奏し、離職率を減らしています。
グループホームAの工夫は、以下のことが挙げられます。
・夜間担当の世話人業務は不安の大きな業務だが、何か困ったことがあるとすぐ電話やSNSで対応してくれるため、利用者に何かあっても安心感がある
・利用者対応に困ったとき、世話人同士の伝達ノートがあるため、書き込んでおくとほかの世話人が答えてくれる
・管理人やサービス管理責任者が小さなことでも「ありがとう」と感謝を伝えてくれる
・利用者への対応マニュアルが用意されている
・専門的な知識などの研修制度が整っている
・非常勤の世話人が多く、毎日夜勤をやらずに済むようなシフトになっている
これらの工夫があり、グループホームAの職員は離職が少なくなりました。
介護・福祉職の離職率を下げるために必要なのは、
・仕事していて困ったときに責任者が助けてくれるという安心感
・職員同士の人間関係の良さやサポート体制
・心身の負担感の少なさ
が重要であると言えます。
まとめ 〜「辞めない理由」を育てていこう
介護・福祉の現場で働く人たちが離職しないためのカギは、「誰と働くか」「どう認められるか」であるといえます。
介護・福祉の現場では日々利用者の困りごとに向き合うことが多いので、職員も一人で対応するのは難しいです。
職場全体で利用者に対応することが職員の職場定着につながっていきます。
一つひとつは小さな工夫ですが、その積み重ねが「ここで働きたい」という職員の思いを生みます。
ぜひ本記事を参考にしていただき、介護や福祉の現場で働く人たちが働きやすい職場を実現していってほしいです。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。