障害者雇用は企業にとって果たすべき義務であるという側面もありますが、事業のどういった領域に活躍できる場が作れるのかという課題もあります。障害者だからこそ成功した事業から、障害者雇用を組み込んだビジネスモデルのヒントを見てみましょう。
儲かる障害者雇用は「チョコレートづくりだった」
障害者雇用を組み込んだ人事体系を前提としていない企業では、真の意味での障害者雇用は困難を極めます。企業もメリットがあり、障害者側にも働きやすい職場であるというウィンウィンの環境であることが理想ですが、現状多くの企業がそれを達成できていません。愛知県豊橋市にある「一般社団法人ラ・バルカグループ(以下ラ・バルカ)」は「チョコレート」という切り口でそれを実現しました。
ラ・バルカが目指すのは、障害者を含めた誰もが活躍出来る場所。それは「働ける」という仕事ではなく、頑張れば頑張った分だけ報酬がもらえる「稼げる仕事」である必要があったのです。
驚くべきことに、ラ・バルカが運営する「久遠チョコレート」では、フランチャイズ店舗を含めた全従業員の約半数が障害者であり、給料も健常者と遜色のない金額を受け取っています。一例では、直接雇用で最低15万円を確保しており、その金額は全国平均の約3倍という事からも「稼げる仕事」であることが伺えます。
障害者雇用とビジネスモデルの成立は難しい
厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、身体障害者・知的障害者・精神障害者・発達障害者ともに「適当な仕事があるか」が会社内で最も多い課題となっています。身体障害者では71.3%、知的障害者では74.4%、精神障害者では70.2%、発達障害者では75.3%の企業が、障害者にどういった仕事を割り当てるか悩んでいると言う結果が出ています。
障害者雇用を促進したいと考えていても、現場ではどうしても特別扱いをしたり、気を使ったりという事が発生するので、二の足を踏んでいる企業が多い様です。また、障害の種類によってお出来ること、出来ないことが違うため、一倍に障害者雇用と行っても全ての障害者を同じ基準で評価するのが難しいという問題もあります。
就労支援を行う団体のスタッフは次のように話します。
「受け入れ先を探すのにも労力がかかりますが、その中でも障害者ひとりひとりの特性に合った職場を紹介するとなると、選択肢が非常に少なくなってしまいます。就労に成功しても、現場になじめずしばらくするとやめてしまうケースも多いのが現状です。就労支援施設としてもトレーニングや企業の理解促進など出来ることはやりますが、どうしても企業側の基盤が整っていないので、稼げる場所ではなく、ただ働ける場所の提供になっています」
ラ・バルカはなぜチョコレートづくりにたどり着いたか
ラ・バルカの公式ホームページによると、次の言葉が目に入ってきます。
「センスある社会をつくる!」それがラバルカのミッション!
ラ・バルカの考える「センスある社会」とは、誰もが活躍できて、暮らし方や生き方に多様な選択肢があり、豊かで面白いと感じる事が出来る社会のこと。各人の属性や環境によって暮らし方や生き方に制限がかかる社会を「ナンセンス」とした上で、理想的な社会の事を「センスある社会」と表現しています。
ラ・バルカがセンスある社会を実現するにあたり、何よりも重視したのが「豊かに働けること」でした。つまり、前述した「働ける仕事」ではなく「稼げる仕事」であることだったのです。しかし、チョコレートにたどり着くまでは15年の時間を費やしました。パン屋、カフェ、飲食店、果ては名刺印刷などの業種へ事業を拡大するも、どうしても重度の障害者には任せられないという壁があったそうです。
そんな中、チョコレートなら溶かして固める、正しい材料を正しく使えば誰でも美味しく作れる、失敗しても溶かせばやりなおせる、ということに気づき、「久遠チョコレート」が生まれたそうです。1つの事をに集中して作業が出来る事がチョコレートづくりには大切ですが、障害者の方の中には、1つのことに集中すると周りが見えなくなるという方も多く、健常者よりも向いている方もいらっしゃるとの事でした。
持続可能な障害者雇用はビジネスチャンス
ラ・バルカが着目したのは「チョコレート」でしたが、元々はチョコレートとケーキは専門性が高い為、手を出さなかったという経緯があります。「障害者でも」、「障害者だからこそ」という要素は、今まで目を向けていないところに転がっているのではないでしょうか。資本主義が成熟し、すべてを「ビジネス」として捉えがちな現代において、障害者雇用もビジネスとして成立しなければ、障害のある方にとってもメリットになりえません。
久遠チョコレートは2020年2月の時点で、全国に38拠点を持ち、年間の売り上げは8億円を超え、超人気ブランドに成長しました。その秘密は、「障害者が作っているから社会貢献で買ってほしい」という売り方ではなく、「おいしいから買いたい」と思ってもらえるような売り方にこだわったことにあります。その結果、余計な油を加えず、カカオ本来のおいしさを感じられるチョコレートづくりを選んだそうです。
障害者雇用をビジネスモデルに組み込んだラ・バルカのフランチャイズの一つに、デイサービスを生業としている団体もあるようで、同じスキームで高齢者雇用も達成できる見込みだそうです。障害者雇用をビジネスの目線で真剣に考えることは、既に到来している超高齢化社会においても非常にメリットがあるという事が分かります。
これから事業を始める方、既に事業をはじめている方、企業に従事している方も、視点を変えることで「センスある社会」を作ることが出来るのです。一度、障害者というネガティブなフィルターを取って社会全体を見渡すことが、障害者雇用問題を解決する近道なのかもしれません。
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