障害者が地域社会の一員として活動できるように定められた、法定雇用率。これを達成することは義務ですが、2020年になった今でも未達成の企業が多いというのが現状です。法定雇用率は上がり続け、対象となる事業主の範囲が広がっていることから企業に対する責任は大きくなっているにも関わらず、未達成が依然として多いのは問題です。
この記事では、法定雇用率が未達成の企業が多い理由や現状を改善するためにできることについて、ご紹介します。
障害者の法定雇用率とは?
まずは、現在の法定雇用率についてご紹介しましょう。平成30年4月1日以降、法定雇用率は民間企業で2.2%、国、地方公共団体等で2.5%、都道府県等の教育委員会で2.4%と定められています。全ての事業主は、これ以上の割合で障害者を雇用しなければいけないという義務があります。
なお、対象となる事業主の範囲は、従業員45.5人以上です。この法定雇用率の数字は、それ以前よりもそれぞれ0.2%ずつ上がっており、事業主の範囲も50人から4.5人少なくなっています。さらに令和3年の4月までに、法定雇用率は0.1%上がる予定です。
このことから、法定雇用率はだんだんと上がっていることが分かり、令和3年4月までに行われる改正以降も、法定雇用率や従業員数が再び変更されることが十分考えられます。
法定雇用率の達成率は?
法定雇用率を達成することは義務ですが、実際にはどれくらいの企業が達成できているのでしょうか?
エン・ジャパン株式会社が運営するサイトで障害者雇用の実態に関するアンケートを行ったところ、法定雇用率を達成している企業は39%で、61%の企業が未達成ということが分かりました。また、2017年に行った同様の調査では、法定雇用率を達成していた企業は57%ということもあり、18%も割合が少なくなっていることが示されています。
さらに、前回の2017年の調査より後に始まった「改正障がい者雇用促進法」によって法定雇用率が上がっていますが、これについては92%の企業が把握していることもアンケートから分かっています。つまり、法定雇用率について正しく理解していても、実際に行動には移せていないという実態が見えてくるのです。
法定雇用率未達成の企業が多い理由4つ
なぜ法定雇用率について理解しているにも関わらず、未達成の企業が半数以上を占めているのでしょうか?その理由を、以下に4つまとめました。
- 1.社員の理解が得られていない
- このアンケートでは、障害者を雇用しない理由について尋ねるアンケートも行なっています。その中の「社内の理解や支援が得られない」に17%が回答しています。障害者と一緒に働く際には周りがサポートに回ることが時に必要とされますが、その必要性を十分に理解できていなかったり、抵抗を感じたりする社員が居るため、障害者の雇用に踏み切れないようです。
- 2.障害者に適する業務がない
- 障害者を雇用しない理由として一番多いのが、「障害者に適した業種・職種ではない」でした。世の中には様々な企業があり、作業内容はそれぞれ異なります。法定雇用率は、「民間企業」という大きなくくりで決められており、それぞれの職種は考慮されていないため、法定雇用率が定められていても障害者に適した仕事がないために、雇用できないと頭を抱える企業もあります。
- 3.障害者に対応できる設備がない
- 会社の設備が原因で、障害者を雇用できない企業もあります。例えば、障害者の中には車椅子で移動する人がいますが、会社で車椅子が自由に移動できるような設備になっていなければ、雇用は難しくなるでしょう。
- 4.募集したが採用できなかった
- 法定雇用率が未達成の企業が多いと、企業が障害者の雇用に積極的ではないという印象を受けますが、未達成の理由として27%が「募集しているが採用できない」と回答しています。つまり、法定雇用率の達成に向けて動いているものの、良い人材とマッチングせず、未達成になってしまっている企業も一部あるということです。
法定雇用率を達成するためにできること3つ
企業によって様々な事情はありますが、法定雇用率は必ず達成しなくてはいけません。そこで最後に、企業が法定雇用率を達成するためにできることについてお伝えします。
- 1.担当者が障害者の採用に集中できる環境を作る
- 障害者の雇用を促進するためには、採用担当者が業務に集中できる環境を整えることが必要です。一般採用と障害者の採用を同じ人が担当する場合は、どうしても一般採用の募集人数が多くて忙しくなるため、障害者採用に関する業務を後回しにしてしまいがちです。障害者採用だけを担当する人を作れば、こうした問題も解消されるでしょう。
- 2.社員に障害について理解してもらう
- 障害者と一緒に働くのは現場の社員なので、障害者を雇用する際には社員の理解を得ることが欠かせません。そこで社員が障害について理解するためのセミナーを開くなどして、社内で障害者を受け入れる態勢を整えれば、今よりも前向きに障害者採用ができるはずです。
- 3.法定雇用率を達成している企業の成功例を知る
- 法定雇用率を守るためには。すでに雇用率を達成している企業の成功事例を取り入れるのも有効です。どのように募集をかけたか、どのような業務を任せているかといった具体的な方法を知ることによって、社内で障害者が働く環境を整えることができることでしょう。
【出典】
障がい者雇用実態調査2018
厚生労働省・都道府県労務局・ハローワーク
執筆者プロフィール
精神保健福祉士、社会福祉士、認定心理士、心理カウンセラー
カウンセリングセンターや精神科病院に勤務。うつ病などの患者やその家族に対するカウンセリング・相談や支援を経て、現在はメンタルヘルス系の記事を主に執筆するライターとして活動中。