生活に困難を抱える人が自分らしく暮らせるよう、日常生活・相談支援・医療・福祉制度などの多方面から寄り添い支える専門職が福祉現場を支えています。相談支援専門員、生活支援員、介護職員、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、リハビリ専門職、施設職員など。
福祉現場の支援者は、利用者や家族、関係機関と連携しながら生活全体を支えていますが、その一方で、誰かの人生を支えようとするほど、自分自身の疲れやストレスが見えにくい立場でもあります。気づかないうちに負担を抱え込み、限界まで頑張ってしまうことが少なくありません。福祉現場の支援者は日々、誰かの力になろうと全力を尽くしています。
支援者は利用者やご家族、同僚、地域の関係機関など、多くの人の気持ちと期待を受け止めながら、目に見えない問題や感情に向き合い続けています。
一方で、福祉現場の支援者自身の心の疲れはなかなか周囲から見えません。
誰かの人生を支えようとするほど、「自分のことは後回し」「弱音を吐いてはいけない」といった思い込みに縛られ、自分の心と身体のSOSに気づけなくなることがあります。
そしてある日突然、動けなくなってしまう——
そんな経験は、現場の中でも決して珍しいことではありません。
本記事では、実際の事例を通して、福祉現場の支援者が燃え尽きるときに何が起きているのか、そして 燃え尽きる前にできること について、一緒に考えていきます。
事例—相談支援専門員のAさん—
Aさん(30代・女性)は、地域の相談支援事業所で働く相談支援専門員です。
利用者や関係機関からの信頼も厚く、どんな相談にも丁寧に向き合う姿勢が評価されていました。
「Aさんに話すと気持ちが楽になる」「本当に助かっています」
と言われることが仕事のやりがいでした。
しかしある頃から、急な相談や深刻なケースが続き、Aさんは休みの日でも携帯を手放せなくなりました。
夜中に連絡が来ることも増え、本当は疲れていたのに断れず、仕事を抱え込み、自分の時間を失っていきました。
眠れない日が増え、朝は体が動かず、利用者の話を聴いても心が動かなくなってしまいました。
小さなミスが増え、焦れば焦るほど空回りする日々。
そしてある朝、Aさんは突然ベッドから起き上がれなくなりました。
職場に連絡するのも精一杯で、その日を境に出勤できなくなってしまいます。
Aさんは、多くの利用者の問題を長い間一人で抱え続け、ついに限界を迎えてしまったのです。
支援者が燃え尽きるときに現れるサイン

福祉の現場を支える支援者が燃え尽きるとき、心や体にさまざまな不調のサインが出ます。
以下のサインが出たら、「しっかり休む必要がある」という緊急のアラートです。
心に出るサイン
•共感疲労
他者の苦しみや悲しみ、困難な状況に寄り添い続けることで、支援者自身の心がすり減り、感情が疲弊した状態になります。「相手を思いやる力」が強い人ほど共感疲労が起きやすいと言われています。
•何も感じない、心が動かない
利用者の話を聴いても、心が麻痺して動かなくなってしまいます。
感情の距離感がつかめなくなり、自然に寄り添えなくなります。
•過剰に感情が爆発する
些細な言葉でも過剰にイライラしてしまったり、涙が止まらなくなります。
心が疲れ切ってしまうと、心が麻痺してしまったり過敏になってしまうのです。
支援者は感情を使って仕事をするため、心がすり減りやすく、不調のサインが現れやすいです。
体に出るサイン
•朝、布団から出られない
•眠れない、何度も夜中に目が覚める
•頭痛、めまい、肩こり、胃痛、息苦しさ
•食欲不振(過食になる人も)
•疲れているのに休んでも回復しない
気力で押し切ろうとしても、体は正直です。
体の不調は限界のサインです。
思考に現れるサイン
•「自分がもっと頑張らなければ」
•「私のせいでうまくいかない」
•「迷惑をかけるから休めない」
•「支援者失格だ」
こんなセリフが頭の中を占めていたら、要注意です。
さらに危険なのは、それらの思考と同時に
•「もうどうでもいい」
•「自分には向いていない」
など無力感の混ざった思考や、投げやりな思考が頭をかけめぐるときです。
これは、精神的なエネルギーが枯渇している証拠です。
行動のサイン
•遅刻、早退、欠勤が増える
•仕事が雑になる、ミスが増える
•何をするにも時間がかかる
•人と関わりたくなくなる(表情が乏しくなる)
普段、責任感の強い人ほど、行動に不調のサインが出やすいです。
•我慢強い人
•優しい人
•真面目な人
•頼られやすい人
こうした人は特に燃え尽きやすく、自分を限界まで追い込んでしまうことがあります。
不調のサインに気づくことは、自分と利用者両方を守るために必要な専門的スキルなのです。
燃え尽きの背景にある心理と現場の構造

燃え尽きは、本人の努力不足や精神力の弱さが原因ではありません。
むしろ、真面目で優しく、責任感が強く、誰かの力になりたいと願う人ほど起きやすいのです。
ここでは、福祉現場の支援者が燃え尽きてしまう背景にある心理と現場の構造的な問題を整理します。
「いい人」でいようとする心理
福祉現場の支援者は、人の気持ちに敏感で、誰かのつらさに寄り添える人が多いです。
そのため、
•迷惑をかけてはいけない
•弱音を吐いてはいけない
•頼られる存在でなければいけない
•断ることで相手を傷つけてはいけない
などの信念を持ちやすくなります。
これらは素晴らしい資質ですが、強すぎると「過剰適応」に陥ります。
「自分の感情」と「役割としての自分」が乖離し、心が悲鳴を上げていても、役割を演じ続けてしまうのです。
自己犠牲の文化と相談しづらい雰囲気
福祉の支援現場には、
•「誰よりも利用者のために」
•「忙しいのは当たり前」
•「休めないなら気合いで乗り越えるしかない」
などの空気が往々にしてあります。
現場を守ろうとする善意から生まれた文化でもあるのですが、同時に現場の支援者同士がつらさを共有できず、孤立しやすい環境を生み出してしまいます。
その結果、苦しさを抱え込んで我慢しようとすることが増えていきます。
孤立が悪循環を生む
一人職場である場合、福祉現場の支援者が孤立しやすくなります。
また、チーム支援をおこなっていたとしても、疲れがたまってくると人は他者との関係を避け始めることがあります。
•同僚と話すのが気重になる
•報告や相談が遅れる
•家庭やプライベートでも孤立し始める
こうなると、支援者はさらに自責感が増し、「自分だけが頑張らないといけない」という思い込みが強くなりがちです。
この悪循環が進むと、こころと体の限界に気づくより先に、支援者のエネルギーが尽きてしまうのです。
福祉現場の支援者の燃え尽きは、
•心理的な特性
•現場の文化
•周囲からの期待
•周りへの相談のしづらさ
•孤立による悪循環
などが絡み合って起こります。
つまり、福祉現場の支援者自身が悪いからではなく、彼らが一生懸命だったからこそ起きることなのです。
燃え尽きる前にできる予防策

燃え尽きは、気合いや根性で乗り越えられるものではありません。
むしろ、限界まで頑張り続けることで悪化し、回復に時間がかかってしまうことがあります。
問題が大きくなる前に「いったん立ち止まる力」を持つことが大事です。
感情を「見える化」する
福祉現場の支援者は、他人の感情を受け止めることは得意ですが、自分自身の感情は後回しにしがちです。
短時間でも、自分の感情を振り返る習慣をつけましょう。
•1日5分、自分の感情をノートに書き出す
•週に1度、感情の状態を振り返る
•「なぜ?」ではなく、「どう感じているのか?」を問いかける
感情の変化に気づくことができれば、心が限界に向かっているサインをいち早くキャッチすることができるようになります。
自分と他人の境界線を引く
福祉現場の支援者が燃え尽きる大きな要因のひとつは、自分が何でも引き受けてしまう状況です。
どこからどこまでが自分の役割で、どこからが他者の責任なのか、をはっきりさせましょう。
判断に迷ったときは、
•即答せず、いったん持ち帰るクセをつける
•できることとできないことを明確にし、言葉にする
•緊急でない連絡は勤務時間内に対応する
自分と他人の境界線を引くことは、「冷たい」ことでも「責任放棄」でもありません。
むしろ、長く良い支援を続けるためのスキルだといえます。
支援者も支えられて良い—助けを求める力を持つ
福祉現場の支援者も相談できる相手、弱みを見せられる相手を作りましょう。
支援とは本来、一人ではなくチームや地域全体でおこなうものです。
一人で利用者のすべては抱えられませんし、ひとりで抱えると視野も判断も狭くなってしまいがちです。
•同僚、上司
•スーパーバイザー、コンサルタント
•外部相談窓口やカウンセラー
などに「助けてください」「どうしたら良いでしょうか」と伝えることが大事です。
適切なところに相談し、自分の状態を維持できることは立派なリスクマネジメントです。
小さな成功体験を積み重ねる
燃え尽きを感じ始めていると、福祉現場の支援者は「本当はできていること」に目が向かなくなりがちです。
•1日の終わりに、できたことを3つ書く
•チームで「ありがとう」を言い合う時間を作る
•支援のプロセスを記録し、変化を見える化する
などして、自分の小さな成功体験を見つけられる工夫をしましょう。
自分では「当たり前」と思っていることも、当たり前ではありません。
自分を客観的に見るコツは、「もし利用者が自分と同じことをしていたら、どう声をかけるか?」と考えることです。
きっと「よくやっているね」「すごいですね」と褒めるはずです。
その言葉を、自分自身にもかけてあげてください。
まとめ
福祉現場を支える支援者は、日々たくさんの人の思いを受け止め、誰かの人生を支えるために全力を尽くしています。しかし、支援者自身の心の疲れは周囲から見えにくく、「自分は大丈夫」と無理を重ねてしまいがちです。真面目で優しく、責任感のある人ほど、誰かの役に立ちたいという思いが強い人ほど、燃え尽きにおちいりやすいものです。だからこそ、自分自身を後回しにせず、心や体からの不調のサインに気づき、十分な休息をとりましょう。
そして、必要なときは誰かに助けを求めてください。
利用者に接している支援者の笑顔こそが、利用者にとって最大の援助なのですから。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。