新型コロナウイルス感染拡大の中で普及し始めているテレワークは、障害者雇用でも活用されています。
テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用することで時間や場所等にとらわれない柔軟な働き方をすることです。在宅勤務やリモートワークといった表現を使う場合もあります。
今回は、障害者雇用をテレワーク化することでもたらされるメリットについて解説するとともに問題点にも着目し、メリットに変えるためのポイントについてご紹介します。
コロナ禍で増加する都内企業のテレワーク導入率は約6割
はじめに、企業のテレワーク導入率について見てみます。ここでは、東京都が実施した緊急調査を参考にしました。
2020年4月、従業員が30人以上いる都内企業のテレワーク導入率は62.7%と、全体の半数以上を占めています。3月時点の調査では24.0%程度でしたが、新型コロナウイルス感染症等の拡大防止対策として、テレワーク導入率が一気に上昇しました。
また、企業の従業員規模別にテレワーク導入率を比較すると、規模が大きければ大きいほど高くなりました。大・中堅企業(従業員300人以上)の企業では、約8割が導入済みです。
小規模企業(30~99人)の導入率は54.3%ですが、前月比では2.8倍となっており、急速に導入が進んでいることがわかります。
業種ごとの導入率の比較では、情報通信業、金融・保険業等、事務・営業職が中心の業種が76.2%と高くなっています。
小売業、医療・福祉業等、現場作業や対人サービスが中心となる業種では55%でした。しかし、3月との比較では3.7倍となっており、業種を問わず拡大していることがうかがえます。
テレワークの導入は国が積極的に後押ししていたこともあり、ここ数年で増えてはいました。さらに、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、普及が一気に進みつつあることがうかがえます。
また、IT企業は導入しやすく、製造業は難しいと言われていたテレワークですが、東京都の調査結果から、必ずしも正しいとは言えないことがわかりました。
テレワークに向いているか否か、業種にはあまり関係ないことに気づかされます。
【出典】テレワーク「導入率」緊急調査結果
コロナ禍でも約6割の企業が障害者の採用活動を継続
続いて、コロナ禍において、障害者雇用がどのような影響を受けているかについて見ていきます。
総合人材サービスのパーソルホールディングス傘下で障害者雇用支援事業を行うパーソルチャレンジの調査結果によると、約6割の企業がコロナ禍でも採用活動を継続しています。
新型コロナウイルスによる障害者の採用計画について、「影響はあったが、計画通りに進めている」(28.4%)、「新型コロナウイルスによる影響はほぼなかった」(29.5%)と約6割 (57.9%)の企業が前向きな回答をしました。
コロナ禍とは言え、現在の法定雇用率が2021年3月末までに2.3%へ引き上げられる中、障害者採用は進める姿勢を変えない企業が多いといえます。
法定雇用率とは、企業や地方公共団体を対象に、常用労働者のうち障害者をどのくらいの割合で雇う必要があるかを定めた基準のことです。
また、新型コロナウイルスによって、障害者社員に実施した雇用施策について、「テレワークを導入し、在宅勤務とした」と答えた企業が最も多く(27.3%)なっています。
テレワークに注目が集まる中、障害者雇用においても、テレワーク雇用の重要性と有効性の認知が広まっているといえるのではないでしょうか。
障害者雇用をテレワーク化するメリット
では、障害者雇用をテレワーク化することでメリットはあるのでしょうか。
ICTの発達により、在宅で可能な仕事の幅も広がる昨今。Web会議ツールなどの導入だけで業務の対応ができるようになり、障害者雇用のハードルも下がりつつあります。
通勤は難しいけれど、テレワークなら働ける障害者を雇用対象とすることで、地域を問わず、人材を探す範囲を広げられます。テレワークで働く従業員であれば、通勤費用もかかりません。
通勤に要する移動時間を削減することで、生産性が向上するというメリットもあります。
オフィスで勤務する必要がない従業員が増えれば、オフィスの小規模化が可能になったり、バリアフリー化が必要な身体障害者でも雇用できるなど、経営上のコスト削減も可能です。
障害者雇用のテレワーク化は、新型コロナウイルスや自然災害などの有事の際でも事業継続していくためのBCP対策や、社内のダイバーシティの推進にも有効です。
一方で、障害者にとっても、就業や能力発揮の機会が増えることはメリットです。
また、オフィスまでの通勤が必要なくなることで、身体的・精神的な負担を削減できます。加えて、慣れた自宅で仕事ができることは、多くの困難やストレスの回避につながるといえます。
障害者雇用をテレワーク化するデメリット
一方で障害者雇用をテレワーク化するデメリットは何でしょうか。
前述したパーソルチャレンジの調査の中で、「今後、見直しや再精査が必要と考える雇用課題」として挙げられているのは、次のような課題です。
労務管理の課題(勤怠状況、健康状態の確認・把握、不安や問題発生時の対応など)…48.1%
業務の課題(業務を与えられない、業務性質上、就業環境が用意できないなどの対策)…39.7%
部署やチーム内の社員同士の人間関係、コミュニケーション…35.7%
テレワークは対面ではないため、コミュニケーションが難しいことは健常者でも同じことです。
本人もさることながら、雇う側としても障害者の従業員が抱える不安や体調の変化に気づきにくなったり、様子を見ながら業務をサポートできなかったりというデメリットがあります。
テレワーク化のデメリットをメリットに変える
障害者雇用テレワーク化について、「テレワークで対応できる業務を新たに考える必要がある」、という課題をデメリットとして挙げる企業も多くあります。
しかし、今後はテレワークが必要な社員が増えていきます。障害者雇用のテレワーク化を機会に、「テレワーク用の仕事」という考え方を捨てる必要があるでしょう。
今ある業務の洗い出した上で、テレワークでできるように今の仕事のやり方を変えるのです。業務の見直しをしない限りテレワークの仕事は増えませんし、雇用も生まれません。
また、障害者が職場で活躍するためには、専門知識を有する支援機関と連携していくことが重要です。
全国47都道府県に設置されている「地域障害者職業センター」や「障害者就業・生活支援センター」、「就労移行支援事業所」、民間の就労支援団体など、様々なものがあります。第三者の専門家に入ってもらい適切なアドバイスをもらいましょう。
テレワークで障害者を雇用した場合も助成金を受けて活用できます。主な助成金は以下の通りです。
- 特定求職者雇用開発助成金
- 障害者作業施設設置等助成金
- 障害者介助等助成金
障害者雇用で生ずるデメリットは、見方を変えればメリットにつながるケースも多く、ICTの進化に合わせて、障害者雇用もさらなる発展が必要とされる時期が来ていると言えます。
執筆者プロフィール
広告代理店アカウントエグゼクティブ、取材・撮影コーディネーターなどを経て、現在は2人の息子を育てながらWebライターとして執筆活動を行っている。長年の海外在住経験からダイバーシティに関心があり、誰もが個性を活かし、生きがいのある人生を送れるような情報を発信中。