昨今、新聞や雑誌のコラムで「大人の発達障害」「発達障害グレーゾーン」というワードを目にする機会が増えたと感じる方も少なくないのではないでしょうか。
これまで発達障害は子供特有の疾患と考えられがちでしたが、有名人が「実は発達障害だった」とカミングアウトするケースが増えたことも一因となり、ブロガーなどが「大人になってから発達障害が発覚した」と発言するだけで注目が集まるようになりました。
それと同時に「発達障害グレーゾーン」という言葉も多用されるようになりましたが、一体グレーゾーンとは何のことを指すのでしょうか。
そこで今回の記事では、発達障害のグレーゾーンについて、「何がグレーゾーンなのか」「どうなるとグレーゾーンなのか」という疑問をお持ちの方向けに分かりやすく解説いたします。
発達障害の「グレーゾーン」とは?
発達障害グレーゾーンとは、「発達障害でも定型発達でもない状態」のことで、医師が発達障害とは診断を下せない状態や、自己診断により発達障害の症状があると自覚しながら医師の診断を受けていない状態を指します。
- 定型発達とは?
- 発達障害の対義語として使われる俗称のようなもので、障害者に対する「健常者」ように発達障害ではない人を指す言葉として使われる
さて、発達障害グレーゾーンという言葉の意味ですが「発達障害ではないが、全くその症状がないとも言えない曖昧な状態」と解釈しても間違いではありません。
何故なら、発達障害そのものが「学習能力やコミュニケーション能力、自制心といった脳機能がバランスよく発達しなかった事が原因の障害」であり、症状の度合いによっては単に個性の範囲内とも言えるためです。
グレーゾーンを知るには発達障害そのものを知る
では、発達障害のグレーゾーンに当てはまる人に何か共通した特徴はあるのでしょうか。
実は「発達障害グレーゾーンならではの特徴」というものはありません。
先述の通り、「医師も個性か発達障害か判断できない状態」か「診察は受けていないが発達障害の可能性を自覚している」のがグレーゾーンです。
つまり、発達障害の症状に近い特徴が現れていたら、グレーゾーンと言える範囲になるのです。
ここで、発達障害の症状として主にどのようなものがあるか確認してみましょう。
- ADHD(注意欠如・多動性障害)
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・一定時間の集中が困難で落ち着きがない
・自分の好きなことにはトコトン集中する
・忘れ物、物の紛失や物事のやり忘れが多い
・物事の優先順位が分からず慌てることが多い
・時間の約束を守ることに重要性を感じない - ASD(自閉症スペクトラム)
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・周りの行動に合わせようとしない
・表情や言動から相手の気持ちを察することができない
・自分の気持ちを伝えることが難しい
・強いこだわりがあるため応用力が極端に乏しい
・想定外の事態が起きるとパニックになってしまう - SLD(限局性学習障害)
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・文章を読むのが苦手で文字を1つずつ追って読む
・聞いた内容を文章で表すことが難しい
・「ぬ・め」「る・ろ」を間違えることが多い
・数字の大小を間違えることが多い
・算数や数学の文章問題が苦手
上記の例はいずれも発達障害でよく見られる特徴です。これらを基に、次章で大人の発達障害グレーゾーンに当てはまる可能性のある特徴を考えてみましょう。
グレーゾーンに当てはまるかもしれない3つの特徴
そもそもグレーゾーンという言葉自体の定義が曖昧なものですので、グレーゾーンに当てはまるという表現も適切ではないかもしれません。
ただ、少なくとも「これ、自分も当てはまるかも」と思うだけでも、早期に発達障害に気づくきっかけに繋がり、それまで感じていた生きづらさの解消になるかも知れないのです。
それでは、大人の社会生活においてどのような言動が発達障害グレーゾーンになり得るのか、先ほどの特徴を踏まえて考えてみましょう。
- ①社会性の欠如
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・他人に興味がなさすぎる
・自分の意見が正しいと思いがち
・人から干渉されることが何よりも嫌だ
・表情が変わらず無感情だと言われる
・場の空気を読まず思った通りに行動してしまう - ②コミュニケーション力の欠如
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・自分の事ばかり一方的に話してしまう
・見たまま聞いたまま思ったことを口にする
・冗談と本気の区別がつかない
・会話のキャッチボールが下手だとよく言われる
・相手の言った事を自分に都合良く解釈してしまう - ③想像力の欠如
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・人の気持ちを考えない発言が多い
・抽象的なことを言われても理解できない
・身振り手振りの示す意味を理解できない
・人がケガをしても痛そうとか可哀そうと感じない
これらは意外と経験した事があったり、身に覚えのある方も少なくないのではないでしょうか。
どれも「たまたまそのようになった」というケースも少なくありませんので、上記のような経験をしたからといって必ず発達障害だとかグレーゾーンというわけではありません。
上記のようなことが今まで頻繁に起こっていたり、子供の頃から同じことで悩み続けているといった場合には、一度専門の医療機関で受診されることをお勧めいたします。
事例の少ない限局性学習障害(SLD)の特徴
先述したグレーゾーンかもしれない例には、SLD(限局性学習障害)のグレーゾーンにあたる事例がありません。
実はSLD(限局性学習障害)については、計算、読み書きなどのいずれかの能力のバランスが悪いという症状によって、社会性やコミュニケーション、想像力といったどれにでも影響してしまう可能性があるのです。
そこで、SLD(限局性学習障害)が原因で起こり得る、社会生活の中で困難な事例や失敗事例を挙げてみたいと思います。
- 営業成績は抜群に良いのに事務の仕事が全くできない
- 上司からの指示を記憶だけに頼りメモを取らない
- 渡される作業マニュアルを理解するのが常に人より遅い
- 会計時の計算がどんなに簡単でも電卓が手放せない
- 「〇時間以内」「〇時間後」といった時間計算が難しい
- 話は上手なのに文書作成が極端に苦手
SLD(限局性学習障害)は、「学習能力が低い」と勘違いされがちですが、「計算」「読解」「読み書き」などのいずれかの能力が著しく乏しい障害です。
そのため、「こっちの仕事は驚異的な出来栄えなのに、こっちの仕事は目も当てられない…」といったことが起こり得るのです。
「英語は得意だけど数学は苦手」「漢字を覚えるのが苦手」というのは子供の頃から誰しもあることですが、それらを理由に明らかに人に迷惑をかけてしまうケースが多いようであれば、やはり一度は医師の診断を受けてみて悩みの解消に繋げるのも検討すべきかも知れません。
まとめ
大人の発達障害が話題に上ることが多くなったのはここ数年の間のことで、それまでは発達障害という疾患自体があまり認知されていませんでした。
そのため、大人になってその症状が強く出てしまったことにより、「勝手な奴だ」「仕事を任せられない」と考えられてしまい、大人のいじめやパワハラにまで発展したケースも数多くありました。
今では、少しでも物事が上手くいかないと「自分は発達障害かもしれない」と思い込んでしまう人が増加しているとも言われており、もはや発達障害自体がちょっとした社会現象になりつつあります。
発達障害そのものの理解を深めることは大切ですが、それを理由に自分や他人を独断と偏見で判断するようなことがあってはなりません。
あくまで一つの個性として捉えながら、「グレーゾーンかも?」と思ったら、それをサポートし合える社会づくりを目指すことが、障害者福祉の本来の形と言えるのではないでしょうか。
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