【職種別】発達障害者の離職率と離職率を下げる方法

【職種別】発達障害者の離職率と離職率を下げる方法


最近、精神障害者が障害者雇用率に算入できるようになったことが話題になりましたが、障害者雇用において発達障害者の離職率が最も高いのをご存知でしょうか。

障害者雇用率の制度上では発達障害者は精神障害者の中に含まれており、詳しい現状が把握しづらい状況です。

では発達障害者の離職率はどのくらい高いのか。ここでは発達障害者の職種別の離職率、障害別の離職率の調査結果と発達障害者の離職率を下げるために何が必要かを解説いたします。

職業別に見る発達障害者の離職率

最初にご覧いただきたいのが、職業別に見た発達障害の離職率です。高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターは、2017年に障害者雇用の定着率を公表しています。

同調査における職種別の定着率を逆算して離職率に直したところ、最も離職率の高いのが「生産工程」の職種。続いて「販売」、「運搬・清掃」の離職率が高い結果となっています。

【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センター
※調査対象者が少ない「建設・採掘」「管理」「輸送・機械運転」は除外

全体を通して離職率が3割を下回っているのが「専門・技術」「サービス」「事務」の3つです。そもそも各職種は具体的にどんな職業を指すのでしょうか。

厚生労働省編職業分類では、各職種の具体的な職業を以下のように分類しています。

生産工程 機械の制御、オペレーター・機械部品の組み立て・製品、食品加工・機械、家電の修理・製品検査、CADオペレーター
販売 小売店の店員、店長・売り場の販売員・各種営業職・証券外務員
運搬・清掃 各種配達員・引越作業員・倉庫作業員・各種清掃員・製品包装・公園整備
専門・技術 研究者・農林、食品、電気製品、機械、建築、設計、IT関連の技術者・医療技術者・法務・経営、金融、保険の専門職・教員・記者、編集者・画家、デザイナー、音楽家など
サービス 家政婦・ベビーシッター・介護、福祉職員・医療関連の助手・理容師、美容師・料理人・接客業・マンション、アパートの管理人など
事務 一般事務・会計事務・生産関連事務・営業、販売関連事務・集金人・運輸・郵便事務・データ入力など

発達障害者に限らず、日本の障害者雇用では事務職への就職が多いのが現状です。また比較的障害への理解がある業界のため、介護や福祉関連に就職する人も多くいます。

よって事務職やサービスという職種は障害者雇用におけるノウハウをもっとも有していると考えられ、結果として離職率の低さに繋がっていると言えるでしょう。

発達障害の離職率が高い理由

最初に発達障害者の離職率をご紹介しましたが、実は他の障害者と比べて発達障害者の離職率は高い傾向にあります。

先ほどご紹介した障害者職業総合センターが公表している「障害別の職場定着率の推移」をご覧ください。

【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センター

2017年に公表されたデータのため、現在との状況に多少の違いはあるでしょう。それでも発達障害者の離職率は高いと言える結果です。

では、なぜ発達障害者の離職率は高いのでしょうか。同じく障害者職業総合センターのデータから、「1年未満に離職した発達障害者の具体的な離職理由」をご覧ください。

【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センター

興味深いのは、発達障害者の離職理由で最も多いのが「不明」であること。不明が何を意味するかは分かりませんが、人に言いづらい理由やプライベートな問題、また何となく肌に合わない仕事だったなどが考えられます。

続いて離職理由で多いのが「業務遂行上の課題あり」という理由。具体的には以下のような状況です。

・体力的な問題
・作業環境(音やにおい)が合わない
・強い緊張感
・仕事が覚えられない
・業務上の意思疎通が難しい
・要求される作業水準に達しない
・遅刻や欠勤が多い

人とのコミュニケーションやマルチタスクが苦手という特性を持つのが発達障害。職場環境が発達障害者の離職率に大きく影響しているのがよく分かる結果です。

発達障害者の離職率の高さは、職場環境や職務遂行上のフローが整備されていないことが原因と言えるでしょう。

発達障害者の雇用に対する企業の意識

とはいえ、企業側が障害者雇用について課題や不安を抱えているのも事実。厚生労働省が毎年発表する障害者雇用実態調査では「適当な仕事があるか」「障害者雇用のノウハウがない」といった課題や不安を抱える企業が多くなっています。

【参考】厚生労働省 平成30年度障害者雇用実態調査結果

グラフを見る限り、具体的な課題より「適当な仕事があるか」「ノウハウがない」「能力を発揮できるか」という何となくぼんやりとしたことが課題だと答える企業が多いのが分かります。

一方で、「通勤上の配慮」「給与、昇格などの処遇」といった具体的な課題を挙げる企業は少ない状況です。

障害者雇用を検討する企業は何をどうすべきか決めかねている状態と言え、そもそも障害者雇用について詳細に理解することが企業の課題と言っても過言ではありません。

発達障害者の離職率を下げる8つのポイント

離職率の高い職種や離職理由のデータなどを見てきましたが、総合してみると発達障害者の障害者雇用では「障害への理解」と「障害者雇用のノウハウ」が何よりも重要だと言えるでしょう。

発達障害にも種類がいくつかありますが、主な発達障害の症状を知るとどういった配慮が必要か見えてきます。

【発達障害の主な症状】
・直近で聞いた指示を忘れたり、物を無くしたりしやすい
・周囲の状況や音や匂いなどが気になりすぎて集中できない
・複数同時で行うマルチタスクが苦手
・「あれ」「それ」といった曖昧な指示は理解できない
・場の空気や相手の気持ちを読み取れない
・自分が好きなことに没頭しすぎてしまう
・悪気なく相手が傷つくことを言ってしまう
・計算や書字読字など特定の技能で困難がある

これら発達障害の症状に対し、企業が発達障害者の離職率を下げるためのポイントを8つご紹介します。

【発達障害の症状や特性の理解】
1. 発達障害の特性や感覚過敏といった症状に応じて職場環境を整える
2. 業務の指示は一つずつにして、メモやマニュアルなどで説明する
3. 体調の変化に併せて勤務時間や休憩は柔軟に対応する
4. スケジュールや業務の管理は周囲の助けを得られるようにする
5. 学習障害者なら音声読み上げなどのツールを活用する
【障害者雇用のノウハウ】
6. 独自の施策や基準で障害者を雇用せず、必ず支援機関を頼る
7. 発達障害者が働く企業の見学
8. 社内理解を深めるための研修は必ず行う

発達障害を理解できれば、障害への配慮方法や仕事の切り出し方などが明確にできます。障害者雇用のノウハウを蓄積できれば、継続した優秀な人材の確保にもつながるでしょう。

昨今では業務内容をマニュアル化したり、発達障害者への合理的配慮が紹介される雇用事例も増えてきました。

ただ、離職率が高いのは発達障害者だけではありません。基本的に障害者全般で離職率は高く、だからこそ障害への理解と障害者雇用のノウハウを蓄積することが最重要課題なのです。

障害者雇用が進んできた今、日本の企業は障害者の離職率をどう低くするか考えるべきフェーズに入ったと言えるのではないでしょうか。

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