近年、複数のメディアで「大人の発達障害」が話題になる事が多くなりました。発達障害はこれまで子供の頃に発覚する脳機能の障害として認知されてきましたが、実は大人になってから発達障害を発現した事例も数多く報告されています。
「大人の発達障害」は精神的ストレス等により発達障害になるのかと誤解されやすいですが、発達障害は先天性のものですので、大人になってから新たに発症することはありません。
そこでこの記事では、何かと間違った認識をされがちな発達障害とは何か、なぜ発達障害が大人になってから発現するのかを基本的な知識と具体的な事例を踏まえて解説いたします。
発達障害が現れる要因
発達障害者に交付される障害者手帳が「精神障害者保健福祉手帳」となるため非常に誤解されやすいのですが、発達障害と精神障害は全く別のものであり、発達障害が現れる原因を知るには、その特徴や症状の違いを理解する必要があります。
- 《発達障害》
- 生まれつきの脳機能の偏りなどにより、読み書きやコミュニケーションなど年齢に応じたスキルが身につかず、生活等において困難が生じる先天的な障害であり、幼少期に発現するケースが多い。
- 《精神障害》
- 遺伝や脳機能障害が要因になることもあるが、過度なストレスや人生経験等の外的要因による後天的な障害。精神疾患を患う年齢は様々だが、10代以降に発症しやすいとされている。欧米では障害ではなく明確に「病気」として扱われる事も多い。
発達障害の話題となると、多くのメディアが取り上げるのは子供向けの情報ばかりですが、本人も周りも発達障害だと気づかない、もしくは大人になるまで違和感を感じたまま時を重ね、精神科で診察を受けたところ、初めて発達障害であることが発覚するケースがあります。
発達障害は、加齢や外的要因で患う病気などではなく、個人差はあるものの幼少期から少なからずその症状が現れているのがほとんどで、「大人になってから発達障害になった」というのは、正確には「元から発達障害の症状はあったが、大人になってから気づいた」という事なのです。
また、発達障害者が増えているという記事を見かける事がありますが、これは社会福祉制度の充実や精神障害や発達障害の認知が進んだことにより、精神科や心療内科の診察を受ける人が増え、結果的に発達障害と診断される人が増えているという事です。
大人になるまで気づかなかった事例
最近でもタレントやアナウンサー、作家などの芸能人・著名人が次々と発達障害をカミングアウトして話題になっていますが、彼らの体験談を読んでいると、自分が発達障害だと知らないが故に、辛い思いや生きづらさを感じたまま過ごしてきた人がいかに多いかがよく分かります。
その一例として、東洋経済ONLINEで連載されている「私たちは生きづらさを抱えている」から、大人になってからASD(自閉症スペクトラム)であることが発覚した、一人の女性の体験記を引用してご紹介します。
- 人との関係をどうすればいいのかわからない。
- 人に嫌われたり拒絶されたりするのがいちばん怖い。
- 集まりに遅刻してしまったの。周りはそんなに気にしていなかったと思うけど、私、パニックになってしまって出席していた友達全員に「遅刻してごめんなさい」というメールを送ったの。
- リストカットを始めた中2の頃、学校の勧めで精神科に行った。でも、そのときはASDではなくうつ病と診断された。
- 高3の夏休み前に、大々的な自殺未遂をしちゃって。中2の頃にも部屋のカーテンレールで首吊りをしようとしたんだけど、苦しくてすぐにやめちゃった。
- 障害者手帳は22歳の頃取得していたものの、手帳取得のために必要な診断書は自分では確認できないようになっており、詳細な病名までは知らされていなかった。
- 24歳のとき、障害者年金の手続きをしている際「病名:発達障害」となっていて「えっ!?」って思って初めて知った。
この女性の事例を見ると、ASDの特徴である「人とのコミュニケーション方法が理解できない」や「相手の表情や状況から気持ちを察することができない」といったことが原因で、成長過程で二次障害となるうつ病を発症していることが分かります。
高校生の頃に既に発達障害があることは分かっていたものの、親がそれを隠していたために、本人が気づいたのは24歳になってからとのこと。もっと早く本人が知っていれば、また違った人生になっていたかもしれないという事例です。
なぜ放置される?大人の発達障害
先のケースは、親が敢えて本人に発達障害のことを話さなかったために起こった辛い体験談とも言えます。
実は、大人の発達障害の多くが「その歳になるまで知らなかった」という声も多く報告されており、また、親や周りの人すら気付かないケースもあります。
ではなぜ、大人になるまで発達障害は放置されてしまうのでしょうか。主な原因は以下のように考えられます。
- 本人が自分の行動を普通と捉えている
- 単に「性格の問題」として片付けられてしまう
- 本人の問題行動を周りが「個性」として受け入れてくれる環境にある
- 勉強が優先のため他の問題が後回しにされがちな状況にある
- スマホやパソコンの普及で対面のコミュニケーションが少なくなった
- etc…
特に女性の場合、男性よりも発達障害の発現性が分かりづらく、見逃されやすいと言われています。
女性の場合、友達同士の会話の中で空気の読めない発言をしてしまったり、自分のことばかり話してしまって場をしらけさせてしまっても、周りがフォローしてくれるため発達障害だと気づきにくいのです。
発達障害の可能性に気づいたら注意すべき事
対人関係において、いわゆる「変わった人」に出会った経験がある人は少なくないでしょう。
実はその変わった人は発達障害かもしれないのに本人の自覚が無いばかりか、周りの人も変わった言動を「個性」として受け入れてくれるため、結果的に発達障害と知らないまま大人になってしまうのです。
子供の場合は発達障害が原因でいじめに発展するケースも少なくありませんので、発達障害であることは早めに自覚して対策するに越したことはないと言えるでしょう。
本人だけでなく、周りの人も「発達障害かもしれない」と気づいたら注意すべきことがあります。
- 二次障害を起こさないよう早めに精神科の相談を受ける
- 睡眠、運動、食事といった生活習慣を整える
- 診断を受ける前でも自分の苦手なことを相手に告げる勇気を持つ
- 無理に他人との付き合いを優先せず、一人で考える時間を作る
先ほどの「大人になるまで気づかなかった事例」にもあるように、生きづらさを感じたまま大人になったり、対人関係が上手くいかずに過度なストレスを抱えてしまい、うつ病や統合失調症などの「二次障害」を生む場合もあります。
そういった二次障害を引き起こさないためにも、嫌われたくない一心で相手に気を使いすぎたり、自己判断で自分は正常と決めつけるのではなく、少しでも思い当たるフシがあったら早めに専門医に相談し、個性なのか障害なのか切り分けを行う必要があります。
まとめ
発達障害を抱える人は、身勝手な言動や振る舞いをしても自分の行動の何が悪いかを理解できず、それをごく普通の事と捉えています。
発達障害自体の認知度が低く、受け入れられる環境が整っていないと、単に「自分勝手」「ワガママ」「だらしない」と見られて、結果的に本人だけが悩み苦しんでしまう事につながります。
発達障害者は見た目からは気付かれにくいものですので、障害を抱えた人たちが苦しまない社会にするためにも、子供だけでなく大人の発達障害についても認知を広めていくことが大切です。
執筆者プロフィール