宮城県内には、障害のある方々が自分らしく働き、社会参加を実現するための重要な拠点として、多くの就労継続支援事業所が存在しています。東日本大震災からの復興過程において、障害者の就労機会創出と地域課題の解決を同時に目指す特色ある取り組みが展開されてきました。本記事では、宮城県内の就労継続支援事業所における特徴的な取り組みを、具体的な事業所を紹介しながら解説していきます。
株式会社ワンズ「しいたけランド」:しいたけ栽培を核とした農福連携
「しいたけランド」は登米市に拠点を置き、農業分野で障害者の活躍の場を広げています。特にノウフクJAS認証取得は地域の農産物に新たな価値を与え、農業と福祉の連携の可能性を広げています。ここでは、同事業所の革新的な取り組みを詳しく見ていきましょう。
【参考】株式会社ワンズ「しいたけランド」
しいたけ生産でのノウフクJAS認証取得
株式会社ワンズが運営する「しいたけランド」は、宮城県登米市南方町に拠点を置く就労継続支援A型事業所です。2024年9月、同事業所は宮城県内で初となる「障害者が生産行程に携わった食品及び観賞用の植物の日本農林規格(ノウフクJAS)」の認証を取得しました。しいたけや長ネギ、小ネギなどの生鮮食品とイチゴジャムの加工食品がノウフクJAS認証を受けており、障害者が関わる農産物の価値向上と品質保証を実現しています。
しいたけ栽培を通じた障害者の活躍促進
しいたけランドでは、農業分野における障害者の活躍の場を創出しています。特にしいたけ栽培においては、種菌の植え付けから収穫、パッケージングまでの一連の工程を障害のある方々が担当しているのが特徴です。農作業の特性を活かし、一人ひとりの能力や特性に合わせた作業分担を行うことで、効率的な生産体制を構築しています。自然と関わりながら働くことで、利用者の心身の健康維持にも寄与しているようです。
しいたけブランドによる地域価値の創造
ノウフクJAS認証の取得は、単に障害者の就労機会を創出するだけでなく、地域の農産物のブランド価値向上にも貢献しています。「障害者が携わった」という付加価値を持つ農産物は、消費者の共感を呼び、新たな市場開拓につながる可能性を秘めているのです。しいたけランドの取り組みは、農業と福祉の連携を通じて、人と地域が元気になる持続可能な社会の実現に向けた先駆的な事例として高く評価されています。農業の可能性と障害者就労の新たな形を同時に示す取り組みと言えるでしょう。
株式会社ドリーム「ドリーム農園」:加工食品開発による高付加価値化
「ドリーム農園」は独自の加工食品開発で農産物に高い付加価値をつけ、障害のある方々の活躍の場を広げています。一人ひとりの特性を活かした生産体制や地域活性化への貢献など、農福連携の優れた実践例として注目されています。
特色ある農産加工品の開発
宮城県登米市南方町に位置する株式会社ドリームが運営する「ドリーム農園」は、就労継続支援B型事業所ながら、A型事業所と連携しながら特色ある取り組みを展開しています。同事業所もノウフクJAS認証を取得しており、乾燥ねぎ、一味唐辛子、にんにく一味、にんにくチップ、梅しそふりかけなどの加工食品を手掛けています。原材料の栽培から加工、パッケージングまでを一貫して行うことで、高品質な商品の提供を実現しているのです。特に地元産の素材にこだわった商品開発は、地域の特産品としても注目を集めています。
障害特性を活かした生産体制
ドリーム農園では、障害のある方々の特性を活かした生産体制を構築しています。例えば、細かい作業が得意な方は選別や包装を、体を動かすことが好きな方は栽培や収穫を担当するなど、個々の強みを最大限に引き出す工夫がなされています。このような適材適所の人員配置により、効率的な生産と利用者の働きがいの両立を図っているのが特徴です。
農福連携による地域活性化への貢献
ドリーム農園の取り組みは、農福連携による地域活性化の好例といえるでしょう。地域の農業資源を活用した事業展開は、遊休農地の有効活用や地域特産品の開発につながっています。また、障害者の就労を通じて生み出される製品は、地域経済の活性化にも寄与しています。農業と福祉の連携によって、地域社会全体の持続可能な発展を目指す同事業所の姿勢は、宮城県における農福連携のモデルケースとして注目されています。
imukat Lab.(イムカラボ):IT技術とクリエイティブスキルの習得支援
「imukat Lab.」は、デジタル時代に対応した新しい形の就労支援を展開し、IT技術やクリエイティブスキルの習得を通じて障害のある方々の可能性を広げている就労継続支援B型事業所です。仙台市青葉区に拠点を置き、在宅ワークにも対応した柔軟な働き方を提供しています。
【参考】imukat Lab.
IT技術とクリエイティブワークの融合
仙台市青葉区に位置する「imukat Lab.」は、IT技術やPCスキルの習得を目指す方に向けた事業所として注目を集めています。動画編集やデジタルイラスト制作、Vtuber配信用の背景制作など、クリエイティブな作業を中心に提供しており、デジタル技術の専門性を活かした就労機会を創出しています。従来の軽作業とは異なる専門的なスキルを習得することで、利用者の自己成長と将来的なキャリア形成を支援しているのが特徴です。
在宅ワーク対応による柔軟な働き方
同事業所の大きな特徴の一つは、在宅ワークにも対応している点です。自分の体調や生活リズムに合わせた働き方が可能で、障害の特性に応じた個別の就労環境を提供しています。この柔軟な働き方は、通勤が困難な方や、集中できる環境を必要とする方にとって重要な選択肢となっており、より多くの障害のある方々に就労機会を提供することを可能にしています。
デジタル時代に対応した新しい就労モデル
imukat Lab.の取り組みは、デジタル技術の進歩に対応した新しい就労支援のモデルとして高く評価されています。IT分野やクリエイティブ業界での専門スキル習得は、一般就労への道筋を明確にし、障害のある方々の社会参加の可能性を大きく広げています。宮城県におけるデジタル人材育成と障害者就労支援の両立を図る先進的な事例として、今後の発展が期待されています。
AMEHARE:お弁当作り、ドライフルーツの製造・販売など食と農業で育む働く喜びと地域循環
「AMEHARE」は富谷市に拠点を置き、農作業からお弁当作り、ドライフルーツの製造・販売まで一貫して手がける就労継続支援B型事業所です。畑での野菜作りから加工・販売までの全工程を体験できることで、利用者は食を通じて働く楽しさを実感し、自信を持つことができます。農業と食品加工の両分野を組み合わせた独自のアプローチにより、持続可能な働き方と地域貢献を同時に実現している点が大きな特徴です。
【参考】ゴリラファーム「AMEHARE」
農作業を通じた自然との共生体験
AMEHAREでは、畑での野菜作りから始まる農業体験を重視しています。土に触れ、種をまき、収穫する一連の農作業を通じて、利用者は自然のリズムに合わせた働き方を学びます。季節の変化を肌で感じながら作業することで、心身の健康維持にも寄与しています。農作業は個人のペースで進められるため、体力や能力に応じた作業分担が可能であり、誰もが参加しやすい環境が整っています。自分たちが育てた野菜が形になる喜びは、働くことの充実感と直結しています。
ドライフルーツ製造による付加価値創造
AMEHAREの主力事業であるドライフルーツの製造・販売は、農産物に付加価値を与える重要な取り組みです。収穫した果物を丁寧に加工し、保存性の高いドライフルーツに仕上げる技術を習得することで、利用者は食品加工のプロフェッショナルとしてのスキルを身につけます。品質管理や衛生管理の重要性も学びながら、商品として販売できるレベルの製品作りに携わることで、社会的な責任感と誇りを育んでいます。製造から販売まで一貫して関わることで、ビジネス全体の流れを理解できる貴重な機会となっています。
食を通じた地域コミュニティとの連携
お弁当作りやドライフルーツ販売を通じて、AMEHAREは地域コミュニティとの強い結びつきを築いています。自分たちが作った農産物や加工品が地域の人々に喜ばれることで、利用者は社会参加の実感と達成感を得ることができます。食は人と人をつなぐ重要な媒体であり、美味しい食品を提供することで地域社会に貢献している実感が、働く意欲と自信の向上につながっています。農業から食品加工、販売まで一貫した事業展開により、食の循環を通じた持続可能な地域づくりに貢献している先駆的な取り組みと言えるでしょう。
涌谷・放送字幕制作センター:被災地での新たな障害者雇用創出
涌谷・放送字幕制作センターは震災後の被災地で立ち上げられ、専門性の高い放送字幕制作業務に障害のある方々が携わる新たな就労モデルを確立しています。被災地における雇用創出という社会的意義も持つ事業所です。
【参考】涌谷・放送字幕制作センター
東日本大震災後の新たな就労モデル
宮城県遠田郡涌谷町に位置する「涌谷・放送字幕制作センター」は、東日本大震災後に就労継続支援A型事業所として指定を受けた施設です。被災地における障害者雇用の創出を目的として設立され、放送字幕制作という特色ある事業を展開しています。テレビ放送のクローズドキャプション(字幕)制作業務を主な事業内容とし、障害のある方々に専門性の高い就労機会を提供しているのが特徴です。震災という困難な状況の中から生まれた新たな就労モデルとして、被災地復興と障害者支援を両立させる先駆的な取り組みといえるでしょう。
専門スキルの習得による付加価値の創出
同センターの特徴は、放送字幕制作という専門性の高い業務に障害のある方々が従事している点にあります。一般的な軽作業とは異なり、専門的な知識やスキルを必要とする業務に取り組むことで、利用者の自己成長や自信につながっているようです。また、専門スキルの習得は、将来的な一般就労への可能性も広げています。障害のある方々の可能性を広げる新たな就労モデルとして注目されており、従来の福祉的就労の枠を超えた先進的な取り組みとなっています。
被災地雇用への貢献
涌谷・放送字幕制作センターは、障害のある方々の雇用だけでなく、スタッフとして一般の方の被災地雇用にも取り組んでいる点も大きな特徴です。震災によって失われた雇用機会を創出し、地域の復興に貢献している点も高く評価されています。福祉と復興を結びつけた取り組みは、宮城県ならではの事例と言えるでしょう。震災からの復興過程で生まれた新たな就労支援のあり方として、全国的にも参考になるモデルとなっているのです。地域に根差した雇用創出が、持続可能な地域社会の形成につながっています。
大規模野菜工場:ソーシャルファーム大崎
ソーシャルファーム大崎は「脱福祉」という革新的なアプローチで、障害のある方々の一般雇用への道を開いています。大規模野菜工場での安定雇用により、利用者の収入は大幅に増加し、支援と自立の両立を実現しています。
【参考】ソーシャルファーム大崎
国内初「脱福祉」の取り組み
宮城県美里町に位置する株式会社ソーシャルファーム大崎は、障害者の働き方に関する全国初の試みを実施している事業所です。従来の福祉的就労から一般雇用への転換を図り、障害のある方々の収入とやりがいの向上を目指しています。2025年現在、社会福祉法人チャレンジドらいふが運営する就労継続支援B型事業所を廃止し、利用者を職員として一般雇用する形態に切り替えるという画期的な取り組みを行っているのです。この「脱福祉」の試みは、障害者就労支援の新たな形として全国から注目を集めています。
大規模野菜工場での安定雇用
ソーシャルファーム大崎は、大規模な野菜工場を運営しており、知的障害と精神障害がある11人の方々が、ホウレンソウの栽培から出荷までの作業を担当しています。従来のB型事業所での就労では月収が約1万6000円程度だった利用者が、一般雇用への切り替えにより月収7万3000円以上を得られるようになりました。これは4倍以上の収入増加であり、経済的自立に向けた大きな一歩となっているのです。収入の増加は生活の安定だけでなく、利用者の社会参加の幅を広げることにもつながっています。
支援と自立の両立モデル
ソーシャルファーム大崎の特徴は、福祉的な支援と経済的自立の両立を図っている点にあります。B型事業所で支援員をしていた職員が、一人ひとりの障害に合わせて仕事を割り振るなど、社会福祉法人の強みを活かした働きやすい環境を整えているのです。支援を受けながらも、一般就労と同等の責任と収入を得られる環境は、障害のある方々の自己肯定感や仕事へのやりがいを高めています。この「脱福祉」の取り組みは、障害者の働き方の新たなモデルとして全国から注目を集めており、福祉と経済の両立を実現する先駆的な事例となっています。
まとめ
宮城県内の就労継続支援事業所は、東日本大震災からの復興過程において、障害のある方々の就労機会創出と地域課題解決を同時に目指す特色ある取り組みを展開しています。
本記事で紹介した事業所は、それぞれ独自の強みを活かした活動を行っています。農福連携の分野では、株式会社ワンズ「しいたけランド」と株式会社ドリーム「ドリーム農園」が宮城県初のノウフクJAS認証を取得し、障害者が携わる農産物の価値向上を実現しました。AMEHARE は農作業からドライフルーツ製造まで一貫した食の循環を通じて地域貢献を果たしています。
IT・クリエイティブ分野では、imukat Lab.が動画編集やデジタルイラスト制作など専門的なスキル習得を支援し、在宅ワークにも対応した柔軟な働き方を提供しています。涌谷・放送字幕制作センターは被災地での新たな雇用創出として放送字幕制作という専門性の高い業務を展開し、復興と福祉を結びつけた先駆的な取り組みとなっています。
特に注目すべきは、株式会社ソーシャルファーム大崎の「脱福祉」の試みです。B型事業所を廃止し利用者を一般雇用に転換することで、月収を4倍以上に増加させ、支援と経済的自立の両立を実現しています。この革新的なアプローチは、障害者就労支援の新たなモデルとして全国から注目を集めています。
宮城県全体の取り組みとして、「みやぎの福祉的就労施設で働く障害者官民応援団」が障害者の所得向上を目指し、県内企業・団体と連携した支援体制を構築しています。特定非営利活動法人みやぎセルプ協働受注センターが共同受注窓口として機能し、個々の事業所では対応困難な大口受注や継続的な取引を支援しています。
宮城県の就労継続支援事業所の特徴は、震災復興と福祉を結びつけた活動、農福連携による地域活性化、IT・専門技術分野への進出、そして「脱福祉」という革新的アプローチなど、多様性に富んだ取り組みにあります。これらの事例は、障害のある方々の可能性を広げるだけでなく、地域社会全体の持続可能な発展にも貢献しています。今後も官民が連携しながら、誰もが自分らしく働き、社会の一員として活躍できる共生社会の実現に向けて、さらなる発展が期待されるでしょう。
執筆者プロフィール

ウェブ・コピーライターとしてクライアントワークを中心に活動中。