全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜岡山県〜

全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜岡山県〜

障がいのある方々が自分らしく働き、社会とのつながりを深められる場所として、全国各地で特色豊かな就労支援事業所が注目を集めています。岡山県においても、革新的な取り組みを展開する事業所が数多く存在しており、利用者の多様な可能性を引き出す活動が活発に行われています。

本記事では、岡山県内で特に印象深い活動を展開している4つの就労支援事業所の実例をご紹介いたします。これらの事業所は、利用者の自立支援と社会参加の促進を目指すだけでなく、地域コミュニティとの深いつながりを築きながら、持続可能な事業運営を実現している点が特徴的です。

ゆめこうば:パン工房と製麺工房で展開する本格的な製造販売

岡山市南区片岡に拠点を構えるゆめこうばは、2004年4月の開設以来、20年以上にわたって地域密着型の支援を継続している就労継続支援B型事業所です。定員38名、職員11名という体制のもと、利用者の社会適応能力向上と一般企業への就労実現に向けた包括的な支援を基本方針として掲げています。

玉野市、早島町、岡山市、倉敷市といった広域エリアからの通所が可能となっており、JRなどの公共交通機関を利用した自力通所から、家族による送迎、事業所専用の送迎車両による通所まで、利用者の状況に応じた柔軟な通所方法に対応しているのが特徴的です。

パン工房と製麺工房の本格的な製造販売

ゆめこうばの中核的な事業として位置づけられているのが、パン工房での本格的な製造販売活動です。この取り組みでは、利用者が個々の能力や特性に合わせてパン作りの工程に参加し、製造された商品は施設内の喫茶スペースや地域で開催される各種イベントで販売されています。

パン製造を通じた学習内容は、単純な製造技術の習得にとどまりません。利用者は食品製造における品質管理の重要性や、衛生管理に関する基本的な知識と実践方法を体系的に学ぶことができます。この実践的な学習は、将来の就労に向けた貴重なスキル獲得の機会となっています。

製麺工房では自家製うどんの製造に取り組んでおり、その優れた品質は地域住民から高い評価を受けています。製造されたうどんは冷凍商品として商品化され、企業への納品から個人の方への直接販売まで、多様な販売チャネルを確立しています。特にもちもちとした独特の食感は定期購入を希望される方も多く、利用者にとって大きな達成感と継続的なやりがいをもたらす源となっているようです。

地域交流の拠点となる喫茶スペース運営

地域の皆様にくつろぎの時間を提供したいという想いから、ゆめこうばでは喫茶スペースの運営も手がけています。このスペースでは、自家製のパンやうどん、各種飲み物を提供しており、利用者自身が接客や応対業務を担当することで、社会人として必要なコミュニケーション能力や実践的な接客スキルを身につける機会となっています。

利用者による元気な挨拶や心のこもった丁寧な対応は、社会参加への自信向上につながる重要な経験として位置づけられています。また、施設内には雑貨販売スペースも設置されており、利用者が手作りしたハンドメイド雑貨の展示・販売活動も行われています。

ビーズを使用したアクセサリーや革製品、多肉植物の寄せ植えなど、手先の器用さと豊かな創造性を活かした多彩な作品が展示されており、来訪者の目を楽しませています。
これらの活動の様子は、Instagramを通じて日常的に発信されており、地域との結びつきを深めながら事業所の認知度向上と活動範囲の拡大に貢献しています。

 

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カモノハシ:プロのデザイナーが指導するアート・デザイン制作B型事業所

岡山市北区楢津に2024年4月1日に開所したカモノハシは、アートとデザインに特化した画期的なB型事業所として注目を集めています。この事業所は、4年間にわたるDESIGN GOALS事業を通じて構築された全国のクリエーターとのネットワークを最大限に活用し、障がいのある方がアートやデザインを学びながら仕事として自立していくことを目標とする革新的な取り組みを展開しています。

事業所名の「カモノハシ」は、爬虫類、鳥類、哺乳類の特徴を併せ持つオーストラリアに生息する動物から名付けられており、福祉と企業を結ぶ架け橋となる新しい概念の障害福祉サービスを象徴する名称として選ばれました。卵で産んで母乳で育てるという特別な生態は、従来にない「訓練」に重点を置いた就労継続支援の理念と重なる部分があります。

プロデザイナーによる本格的な指導体制

カモノハシの最も注目すべき特徴は、プロのデザイナーが初心者の方にも丁寧に指導を行う充実した体制です。事業所にはiMac2台をはじめとする本格的な設備が整備されており、Adobe Illustrator(デザインソフト)、Photoshop(写真編集や合成などのグラフィックソフト)、Premiere Pro(動画編集ソフト)などの専門的なソフトウェアを使用できる環境が提供されています。

利用者は月曜から金曜の10:00〜15:00の時間帯で、アート制作やデザイン制作に集中して取り組むことができます。さらに、事業所では秋頃から焼き菓子製造の開始も予定されており、オーブン2台や業務用冷蔵庫・冷凍庫などの専門設備も完備されています。これにより、クリエイティブ分野と食品製造分野の両方において技術習得の機会を提供する計画が進められています。

DESIGN GOALSとの連携による実践的なスキル向上

カモノハシの利用者にとって特に価値のある機会として、同じ運営母体が手掛けるDESIGN GOALSのクリエーターとして実際の企業案件に参加できる制度があります。これまでに35件のマッチング事例を通じて、SDGsや共生社会実現をキーワードとした活動実績があり、利用者にとって実践的なスキル向上の貴重な場となっています。

レクリエーションとしてのイベント開催や、月に1回程度の土日祝日開所でのイベント出店なども積極的に行われており、利用者が制作した作品を実際に販売する機会も定期的に提供されています。これらの活動は、制作技術の向上だけでなく、社会とのつながりを実感できる重要な経験として位置づけられています。日々のデザイン制作の過程や完成作品、イベント参加の様子などは、Instagramを通じて積極的に発信されており、クリエイティブな活動の魅力を広く社会に伝える取り組みが継続されています。

のぞみ:クッキーの製造販売で地域に愛されるA型事業所

NPO法人のぞみが運営する就労継続支援A型事業所「のぞみ」は、岡山県総社市エリアを中心として2011年に「ひとりひとりの豊かな生活の実現」を理念に掲げて開設されました。総社市は「障がい者千人雇用」で全国的に知られる先進的な自治体であり、のぞみもこの地域の革新的な障がい者雇用政策の重要な一翼を担う存在として活動しています。

A型事業所として、働く意欲を持つ利用者に充実した就労の場を提供し、作業訓練を通じたスキルアップ支援に取り組んでいます。一般就労を希望する利用者には、障がい者千五百人雇用センターやハローワークなど関係機関との密接な連携により就労支援を行っており、令和4年度には3名の利用者が一般就労を実現するという成果を上げています。

特製クッキーとパンの製造販売事業

のぞみの中心的な事業は、クッキーとパンの製造販売です。特に注目されるのが、赤米・黒米を使用した産学連携商品の焼き菓子で、地域の特色を活かした独創的な商品開発が行われています。これらの商品は品質の高さで多くの評価を受けており、岡山県議会議員の視察時にも注文が入るなど、地域内外で着実に認知度を高めています。

事業所では「恋美豆富 雲白」というお食事処を運営し、手作りの豆腐を使用したボリューム満点のお弁当販売も手がけています。1つの注文から大口注文まで柔軟に対応し、地域の食事提供サービスとしても重要な機能を果たしています。また、パン屋「ニコニコ堂」の運営も担当し、多角的な食品事業を展開しています。

多事業展開による包括的支援体制

NPO法人のぞみは、就労継続支援A型事業所の運営に加えて、就労定着支援、児童発達支援、放課後等デイサービス、日中一時支援、計画相談支援事業など、包括的な障がい者支援サービスを提供しています。この多事業展開により、利用者のライフステージに応じた継続的で一貫した支援が可能となっています。現在は備中エリアを中心に複数の施設を展開し、地域の障がい者支援における中核的な役割を担っています。2025年には恋美豆富 雲白の開店8周年祭の開催も予定されており、地域に根ざした事業所として着実な歩みを続けています。

製造作業の様子やイベント開催情報、商品紹介などは、Instagramを活用して積極的に発信されており、事業所の活動に対する理解促進と地域との結びつき強化が図られています。

ARIGATOU FARM:農福連携と創作活動を融合したA型・B型複合事業所

ARIGATOU FARMは、2014年から岡山市北区表町の商店街に本部を置く就労継続支援A型・B型事業所として運営されており、「生き生きと堂々と、人生を生きる」という企業理念を掲げています。同事業所は「知ることは、障がいを無くす。」をスローガンとして、雇用契約を結んだ障がい者を「メンバー」と呼び、地域との交流を深めつつ「自分たちで稼ぐ」ことを重視した独創的な取り組みを展開しています。

事業所では、アート部門とサービス部門という2つの主要な柱を中心に事業を展開し、メンバーが多様な分野で個々の能力を最大限に発揮できる環境づくりに注力しています。農産物の栽培とアート制作を有機的に融合させた農福連携型の特色ある活動により、多方面から注目を集めています。

テレワーク導入の先駆的な取り組み

ARIGATOU FARMは、障がいや難病を抱える方の中に通所が困難な状況にある方が多いという現実的な課題に着目し、2015年に岡山市事業者指導課との緊密な連携のもとでテレワーク化を実現した先駆的な事業所として知られています。

従来、就労支援型事業所では利用者の通所を前提とした運営が一般的でしたが、精神的な病気などにより通勤に気力や体力を消耗してしまう利用者への配慮から、前例のないテレワーク導入に踏み切りました。厚生労働省との継続的な相談を重ね、テレワーク導入のための詳細なマニュアルや規約を整備することで、2015年8月にテレワークの実現を達成しました。

この革新的な取り組みにより、通所が困難な利用者も安心して作業に参加できる環境が整備され、より多くの方に就労の機会を提供できるようになりました。

アート部門での創造的な収益事業

アート部門では、アート制作、編み物、アクセサリー制作など、利用者の創造性を活かした多様な創作活動が展開されています。特に注目すべき取り組みとして、レンタルアート事業があります。この事業では、企業に絵画作品を1枚あたり月額10,000円で貸し出し、そのうち7,000円をアーティストの継続的な収入として還元する仕組みを構築しています。

また、工事現場の仮囲いなどのアートウォール、自動販売機のラッピング、お菓子のパッケージデザインなどにも作品が使用されており、地域の人々に親しまれる存在となっています。編み物作品では、のぼり製造時に発生する端切れを有効活用して手編みした傘の持ち手カバーやバッグなどを制作し、廃材を魅力的な雑貨に変えるSDGs的な取り組みとして好評を得ています。

フラワーアレンジメント、プラバンアクセサリー、室内水耕栽培によるベビーリーフの栽培・販売なども並行して行われており、多角的な事業展開が図られています。これらの活動の様子は、Instagramを通じて発信され、農福連携の魅力を広く社会に伝える活動が継続されています。

 

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まとめ

岡山県内の就労支援事業所は、それぞれが持つ独自の特色を最大限に活かしながら、利用者の可能性を引き出す多彩で革新的な取り組みを展開しています。20年の豊富な実績を持つゆめこうばのパン・製麺事業、2024年に開所したカモノハシによるアート・デザイン特化型支援、のぞみの地域密着型製造販売と包括的支援体制、ARIGATOU FARMの農福連携とテレワーク導入など、それぞれが独創的なアプローチで障がい者の社会参加を力強く支援しています。

これらの事業所に共通する特徴は、単純な作業提供にとどまることなく、利用者一人ひとりの個性や能力を最大限に重視し、地域社会との積極的な関わりを通じて自立と社会参加を促進している点です。また、各事業所がSNSプラットフォームを効果的に活用し、日々の活動の様子を広く社会に発信することで、障がい者支援に対する社会全体の理解促進にも大きく貢献しています。

岡山県の就労支援事業所による革新的な取り組みは、全国の同様の事業所にとっても貴重な参考事例として位置づけられており、今後さらなる発展と拡大が期待されています。これらの実践例は、障がいのある方々が自分らしく働き、社会とのつながりを深められる環境づくりの重要性を示しており、共生社会の実現に向けた確実な歩みを表していると言えるでしょう。

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