2025(令和7)年10月から、障害福祉サービスの中に「就労選択支援」という新たな制度が導入されました。
現時点では就労継続支援B型を新規で利用する障害者は、必ず「就労選択支援」の制度を利用しなくてはなりません。
(令和9年4月からは就労継続支援A型を利用する障害者も必ず利用しなくてはなりません。)
まだ認知が進んでいない「就労選択支援」ですが、一体どんな制度なのでしょうか?
本記事では、「就労選択支援」の制度の仕組みと利用までの流れについてご説明します。
厚生労働省:就労選択支援について
なぜ「就労選択支援」が生まれたのか?
障害者の就労支援は、「就労移行支援」「就労継続支援A型・B型」などの制度によって支えられてきましたが、
「どのサービスを利用したら良いのかわからない」
「B型に通い始めたが、思っていた支援と違った」
「働きたいけれど、まだ体調や生活リズムを整える段階で働けない」
などの声が少なくありません。
これまでの仕組みでは、行きたい事業所に直接行って見学・体験し、利用する事業所を決めていました。
ですが、実際に施設に通所してから、施設や就労段階のミスマッチなどが生じるケースも多くみられていました。
また、いったんB型を利用し始めると、ずっとB型に留まってしまいやすく、A型や就労移行支援、一般就労など、他のサービスを検討する機会が少なくなることも課題でした。
この前段階に「就労選択支援」という制度を入れることにより、
・自分の興味や強みを見つける
・働くうえでの課題を整理する
・自分に合う職場や支援形態を知る
といったプロセスを挟むことで、本人が自分に合った働き方を主体的に選ぶことを支援する仕組みを作ったのです。
ただ「就労選択支援」は、あくまで障害者本人を多角的にとらえ、働くうえでの強みや課題などを見出し、本人の主体性を重視するものです。
決して職員側が本人の行き先を決めたり、どこかの支援機関に振り分けるために就労選択支援があるわけではありません。
就労選択支援の仕組みと特徴

就労選択支援という制度は、障害者総合支援法にもとづく新たな就労系サービスです。
就労選択支援の仕組みと特徴についてみていきましょう。
対象者
・就労意欲はあるが、どの支援を利用する必要があるか判断できない人
・長期ブランクや体調の変動があって就労準備が必要な人
※ただし、50歳以上の方、障害者手帳1級の方は必ずしもこのサービスを受けなくても良いことになっています。
支援の目的
・就労への第一歩を見きわめる準備期間として利用していただく
主な支援内容
・アセスメント(ご本人の興味、能力、課題を整理する)
・職場見学や体験の機会を提供する
・生活リズムの安定や通所習慣をつけるサポートを行う
・次の就労ステップ(就労移行、就労継続支援など)への橋渡し
・家族や関係機関との連携と協働
ほかの就労系サービスとの違い
・訓練よりも「お試しで作業体験・就労体験を行う」ことを重視
・雇用契約がなく、柔軟に次のステップに移行できる
利用までの流れと手続き
それでは、就労選択支援の利用までの流れと手続きをお伝えします。
利用開始のステップ
1.市区町村または相談支援事業所に相談
2.相談支援事業所にサービス等利用計画(計画相談)を作成
3.就労選択支援事業所の見学・面談
4.受給者証を市区町村から交付されたら、契約をし、利用開始
利用期間の目安
原則1ヶ月(やむを得ない事情がある場合は2ヶ月まで延長可能)です。
費用の負担
他の障害福祉サービスと同じく、原則1割負担です。
ただし、生活保護の方や低所得(非課税世帯)の方は0円になります。
課税されている方は所得に応じた上限金額までは1割負担することになります。
目安としては、本人(および配偶者がいれば配偶者)の収入が600万以下であれば上限9,300円、それ以上の収入であれば上限37,200円です。その額を超えることはありません。
支援の進め方
まず、本人のことを知るためのアセスメント(強みや課題などを整理)をします。
具体的には、本人からの聞き取りや、作業体験を通した観察などを行います。
ここで本人にとっての必要な配慮の確認や整理も同時に行います。
次に、アセスメントの結果を踏まえてご家族や関係機関とのケース会議を行いますが、具体的には
・どのようなサービスを利用するのが適しているか
・今後の支援方針をどうするか
などを話し合い、今後どう連携していくか考えていきます。
最後に本人の希望に配慮しながらアセスメントのフィードバックを行い、次に使うサービスについて検討していきます。
今後の展望と「自分らしい働き方」を選ぶために

就労選択支援は、現在どのような課題を抱えているのでしょうか。
また、就労選択支援を使うことで、どのような可能性が開けていくのでしょうか。
現場が直面する課題
2025(令和7)年10月から始まった就労選択支援ですが、事業所数はまだ十分とはいえません。
就労選択支援の利用を希望しても、地域によっては受け皿が十分に整っていない場合があります。
また、実際にアセスメントを行う「就労選択支援員」の要件もかなりハードルが高いのが実情です。
就労選択支援員の養成講座修了者が就労選択支援員になれるのですが、その養成講座自体もなかなか受けられないうえに、養成講座を受けるための条件も狭き門になっています。
就労選択支援員のジョン材育成や高い専門性の共有も大きな課題となるでしょう。
さらには、選択支援では「障害者本人の気づきや納得」といったところをどう可視化していくかが、課題となります。
あくまで障害者本人の「希望する就労のあり方」を重視するのが就労選択支援です。
自分の力で自分の進路を選べるように支援していくことになるのですが、なかなか自分の意思が伝えられない方も中にはいらっしゃいます。
そういった方にどう自己決定を促していくかも課題のひとつです。
「切れ目のない支援」への第一歩
就労継続支援は、就労系サービスの前段階に位置づけられています。
実際には、新しく障害福祉サービスを利用する前に利用したり、障害福祉サービスと障害福祉サービスの間に利用するケースが多いと考えられます。
次の障害福祉サービスにつなげるためには、支援者間でのスムーズな情報共有が求められます。
就労選択支援で得られた情報やアセスメント結果を、役所や相談支援事業所等を通して次の支援先が引き継ぐことで、より本人の希望に沿った支援ができるでしょう。
そのような連携の仕組みが、就労選択支援を利用することで整備することが期待できます。
自分らしい「働き方」を選ぶということ
就労選択支援の最大の意義は、「働くこと」そのものを「生き方の一部」として考えられるようになることです。
週に数日働きたい人もいれば、人とのかかわりを大切にしたい人、社会参加として働きたい人など、人によって「働く」の意味はさまざまです。
就労選択支援は、そうした多様な「働き方」の形を尊重し、本人が納得して自分の行き先を選べるように支援する制度として位置づけられています。
まとめ
本記事では、「就労選択支援」という新しい就労系サービスの制度の仕組み、利用までの流れ、そして今後の展望についてお話ししました。
誰もが「自分に合った働き方」を見つけられる社会をつくるための制度として、就労選択支援は一役担う存在になることでしょう。
現在は新規でB型事業所に入る人が就労選択支援を使うことが義務化されていますが、ぜひ使ってみて、よりきめ細やかな支援につながることを願っています。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。