全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜和歌山県〜

全国の就労支援事業所のユニークな取り組み〜和歌山県〜

障がいを持つ方々が生きがいを感じながら働くことは、共生社会を築く上で欠かせない要素となっています。全国各地で特色豊かな就労支援の取り組みが展開される中、和歌山県においても、利用者の潜在能力を最大限に引き出し、地域社会への貢献も視野に入れた事業所が注目を集めています。
本記事では、和歌山県で展開されている4つの特筆すべき就労継続支援事業所をピックアップし、それぞれが持つ活動内容をわかりやすく紹介していきます。

ソーシャルファーム もぎたて:農業と福祉の融合で生まれる新たな価値

2014年4月に社会福祉法人一麦会によって開設されたソーシャルファーム もぎたては、就労継続支援A型事業所として運営されています。事業所はJA紀の里の敷地内に位置し、地域との密接な連携を基盤とした活動を展開している点が特徴的です。

事業所名に含まれる「ファーム」は、農園を意味するFarmではなく、企業を表すFirmから名付けられており、この命名にも運営方針が表れています。障がい者雇用の枠を超え、社会的課題の解決を事業活動を通じて実現し、持続可能な社会づくりに寄与することを使命としています。

「働きたいと願う全ての人に仕事の機会を提供すること」を目標とする社会的企業として、「全てのヒトの働く権利の保障とあたりまえの暮らしができる社会」の実現を理念に掲げています。利用定員は20名となっており、働くことを通じて誰もが幸福になれる社会を目指し、日々の活動に取り組んでいます。

多彩な事業内容と地域連携

もぎたての最も注目すべき特徴は、事業内容の多様性にあります。「紀州のめぐみでヒトつなぎ、コトづくり」をキーワードとして、地域の豊富な資源を最大限に活用した多角的な事業展開を行っています。

農業分野では、農業従事者の高齢化により生じた耕作放棄地を有効活用し、有機玉葱、加工用トマト、大根、唐辛子、キウイフルーツなど、多品目にわたる作物栽培を手がけています。単一作物に依存しない多品目栽培により、年間を通じた安定的な作業機会を確保しています。

農産加工事業では、自家栽培した農産物や県内産の原材料を使用し、米粉、米菓子、あんぽ柿、ジャム、ピールといった加工品の製造を行っています。特に県産うるち米を原料としたノンフライ製法の「お米かりんとう」は、自然な美味しさにこだわった看板商品として人気を博しています。

さらに、JA紀の里の農産物直売所「ふうの丘」に併設された飲食店「open cafe 風車」や「カフェムリーノ」の運営も担当し、地域住民との交流拠点としての役割も果たしています。このように、生産から加工、販売、そしてサービス提供まで一貫したバリューチェーンを構築することで、利用者に幅広い職種選択の機会を提供しているのです。

利用者支援と社会からの評価

同事業所の利用者の約6割は、過去に一般企業での就労経験を持ちながらも、様々な理由で継続的な勤務が困難となった方々が占めています。代表の中原力哉氏は「安心して働ける場を提供することが、私たちの使命」と述べており、一人ひとりの尊厳ある労働の実現に向けた取り組みを継続しています。
こうした努力の結果、農林水産省主催の「ノウフク・アワード2021」での優秀賞受賞という形で社会的にも認められています。

これらの取り組みや日々の活動の様子は、Instagramでも積極的に発信されており、地域の方々との交流促進にも役立っています。

就労継続支援A型事業所HANDS:駅近で新しい挑戦をサポート

和歌山市中心部の利便性の高い立地で、新たなスタートを切る方々を支援する事業所があります。JR和歌山駅から徒歩4分という絶好のアクセス環境を誇る就労継続支援A型事業所HANDSは、2022年10月の開設以来、通勤しやすさを重視した支援を提供しています。

事業所の特徴とアクセス

HANDSは比較的新しい事業所として、和歌山市太田のビル内で運営されています。公共交通機関を利用したアクセスが極めて良好で、利用者にとって継続的な通所が可能な環境が整備されています。
新設事業所であることのメリットは、最新の設備と清潔な作業環境で働けることだけではありません。利用者とスタッフが共に事業所の文化や雰囲気を築き上げていく過程に参加できるという、貴重な経験の機会でもあります。既存の慣習に縛られることなく、柔軟で創造的な働き方を模索できる可能性を秘めています。

利用者一人ひとりに寄り添う支援体制

HANDSでは、サービス管理責任者をはじめとする専門職の配置に力を入れていることが、公開されている採用情報からも確認できます。サービス管理責任者は、個々の利用者の状況や希望を詳しく把握し、それに基づいた個別支援計画の策定と相談業務を担う重要な役職です。
このような専門職を適切に配置することで、きめ細やかな支援体制を構築し、利用者が安心して働ける環境づくりに取り組んでいると考えられます。また、正社員やパートタイマーなど多様な雇用形態でスタッフを募集しており、活発な事業運営が行われている様子がうかがえます。

新しい環境で踏み出す一歩

就労継続支援A型事業所の特徴として、利用者との雇用契約締結により、働くことへの責任感と安定した収入の両立が挙げられます。HANDSのような新しい事業所では、まだ固定化された慣例や伝統が少ない分、利用者やスタッフの意見が事業運営に反映されやすい環境が期待できます。
和歌山駅近くという立地は、通勤の利便性に加えて、地域情報へのアクセスや社会との接点を持ちやすいという副次的なメリットも提供します。開設から数年以内という新鮮な環境で、専門スタッフの手厚いサポートを受けながら、自分のペースで新しい挑戦を始めたいと考える方にとって、HANDSは魅力的な選択肢の一つとなっています。事業所の活動状況はInstagramでも発信されており、新しい取り組みや日常の様子を知ることができます。

 

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一般社団法人 み・ゆーじ:廃校活用で地域と人を繋ぐ

山間部の静かな環境に位置する和歌山県のある地域で、役目を終えた小学校が新たな命を吹き込まれ、障がいのある方々の就労の場と地域交流の中心地として再生されました。一般社団法人み・ゆーじが運営する宿泊施設「Neast Side」とカフェ「はぴらぶ」は、障がい者支援と過疎地域の活性化という二つの社会的課題に同時にアプローチする革新的な取り組みです。

廃校が生まれ変わった就労の場

み・ゆーじは、使われなくなった校舎をリノベーションし、就労継続支援B型事業所として活用しています。かつての教室は宿泊客用の客室に、校舎の一部はカフェスペースへと生まれ変わり、障がいのある利用者がスタッフとして活躍しています。

代表の末永将大氏は、もともと障がい児の支援業務に従事する中で、彼らの将来における「働き方の選択肢」があまりにも限定的であることに深い課題意識を抱いていました。「決められた仕事から選ぶのではなく、もっと自分らしく働ける場所を創ることはできないだろうか」という強い想いが、この事業所設立の原動力となっています。

廃校という特殊な立地と豊かな自然環境を最大限に活用し、従来の福祉施設の枠組みを超えた新しい形の就労支援を実現しています。地域の過疎化という社会問題の解決にも貢献する取り組みとして、多方面から注目を集めています。

多様な仕事の選択肢と個性の尊重

この事業所の最大の魅力は、廃校という広いスペースと恵まれた自然環境を活かした、仕事内容の豊富さにあります。一般的なB型事業所では作業種類が限定されがちですが、み・ゆーじでは利用者が自身の関心や得意分野に応じて、様々な業務から選択することが可能です。

宿泊・カフェ業務では、客室の清掃やベッドメイキング、カフェでの接客や調理のサポートなど、サービス業に関連する幅広い職種を体験できます。農作業においては、校舎裏の畑で野菜の栽培や管理を行い、土に触れながら自然のリズムに合わせた働き方を学びます。

内職・軽作業として、元理科室を活用したスペースで神棚に祀る榊の制作など、室内で集中して取り組める作業も用意されています。さらに、校舎内でのエビ養殖や外部企業からの委託業務など、他では体験できないユニークな仕事も提供されています。

地域に開かれた共生の拠点として

Neast Sideには、障がいのある利用者だけでなく、地域住民、合宿利用のスポーツチーム、観光客など多様な人々が訪れます。この自然な交流により、障がいのある人とない人が互いを理解し合う貴重な機会が生まれています。

この温かい雰囲気を支えているのは、多様な経歴を持つスタッフチームです。30年間大工として働いてきたマネージャーの竹本さんは、施設内のテーブルやカウンターを自作する一方で、カフェでのコーヒー提供も担当しています。また、福祉分野で長年の経験を積んだスタッフも、み・ゆーじの事業理念に共感して転職してきました。

健常者スタッフ8名が、それぞれの専門性を活かしながら利用者をサポートし、共に働く環境を構築しています。この協働体制により、利用者は多角的な支援を受けながら、自分らしい働き方を見つけることができています。

代表の末永氏は、保護者から寄せられた「親亡き後、この子の人生の意義を誰が見つけてくれるのか」という切実な声を受け、この事業への取り組み決意を固めました。廃校を舞台としたみ・ゆーじの挑戦は、障がいのある方々の就労支援の枠を超え、地域に新たな活力をもたらし、誰もが自分らしく生きられる共生社会のモデルケースとして機能しています。これらの取り組みや施設での日常風景は、Instagramを通じても広く発信されており、多くの人々に共感と希望を与えています。

モンキーランド:「わくわく」を追求する多彩な活動

和歌山市内に、利用者の「自分らしさ」「やりがい」「わくわく」を何よりも重視するユニークな就労継続支援B型事業所があります。株式会社真道が運営するモンキーランドは、「共に生きる」をコンセプトに、多彩な活動を通じて利用者の自立と成長をサポートしています。

事業所の理念と目指す姿

モンキーランドの核となる理念は、関わる全ての人が目標や「したい事」を見つけ、挑戦し、その人らしい人生を笑顔で送れるようサポートするというものです。そのため、日常の活動では利用者が「楽しい」と感じられることを最優先に考え、一人ひとりのスキルアップに必要な知識や技能の習得を目標としています。

利用者が様々な経験を通じて「日々成長」を実感できること、そして毎日を「イキイキ」と充実して過ごしてもらうことが、この事業所の根本的な願いです。単なる作業の提供ではなく、利用者の人生そのものを豊かにすることを目指した支援が特徴的です。

施設内外に広がる豊富な作業内容

モンキーランドの大きな特色は、提供される作業の幅広さと多様性にあります。毎日異なる作業に従事することで、利用者が「新しい自分」に出会い、数多くの「できた」という成功体験を積み重ね、就労への意欲を高めることを狙いとしています。

施設内作業では、自動車部品の検品作業やハンドメイド雑貨の製作など、集中力や手先の器用さを養う仕事が用意されています。これらの作業は、細かな注意力と継続的な集中力を要求されるため、利用者の基礎的な就労能力の向上に寄与しています。

施設外作業として、新聞の集配、美容室・理容室の清掃、農作業、家具の梱包、草刈りなど、地域に出向いて行う多種多様な業務を提供しています。これらの作業は、実際の職場環境に近い状況で経験を積むことができ、一般就労への架け橋としての役割も果たしています。

心身の健康を支える独自のプログラム

モンキーランドでは、単純な作業提供にとどまらず、利用者の心身の健康を総合的にサポートする独自のプログラムを導入しています。この取り組みは、就労支援事業所としては珍しい包括的なアプローチと言えるでしょう。

運動プログラムでは、毎日40分間にわたって有酸素運動、体幹トレーニング、ダンス、ヨガ、ストレッチ、瞑想といった多様な運動を実施しています。これにより基礎体力を向上させ、「活かせる身体作り」を行い、作業効率や日常生活の質の向上を目指しているそうです。

事業所での楽しい活動の様子や利用者の成長記録は、Instagramでも積極的に発信されており、「わくわく」に満ちた日常を多くの人と共有しています。

まとめ

和歌山県で活動する4つの就労支援事業所の取り組みは、地方における障がい者就労支援の多様性と豊かな可能性を明確に示しています。これらの事業所は、それぞれが独自の強みを発揮し、利用者が単に「働く」だけでなく、「自分らしく輝ける」場所を創出していました。

これらの事例から見えてくるのは、就労支援事業所がもはや単なる作業提供の場ではないという現実です。一人ひとりの人生に深く寄り添い、個性を尊重し、働く喜びや自己実現の機会を創出する場となっています。そして、地域社会と積極的に関わることで、新たな価値や交流を生み出す拠点としての役割を担っています。

和歌山県のこれらの事業所の挑戦は、全国の地方が抱える課題解決のヒントとなり、障がいのある人もない人も、誰もが自分らしく生きられる社会の実現に向けることに期待できるでしょう。地方だからこそ可能な密接な地域連携と、利用者一人ひとりに寄り添った丁寧な支援が重要です。

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