障害者雇用に関する報道やメディアの記事では、障害者雇用納付金を納めるべき会社は「100人以上の従業員がいる」ことを一つの基準として書いていることが少なくありません。
これは間違いではありませんが、実は「100人以上の従業員」という部分については、より細かいルールに則った計算を基に、最終的に何人がどれ位の期間働いていたかで判断する必要があります。
これを正確に把握していないと、障害者雇用納付金を間違って多く納めてしまったり、逆に納めるべき納付額が少なくて追徴金を課せられる事態にもなりかねません。
この記事では、障害者雇用納付金の申告が必要になる会社の要件やその要件を満たしているかどうかの判断基準について、イレギュラーケースはどう判断すべきかも含めて解説します。
障害者雇用納付金の申告が必要になる会社の要件
障害者雇用納付金を納める方法ですが、障害者雇用納付金制度では会社が「自己申告」することになっています。
よって、まずは自社が障害者雇用納付金を納めるべき会社の要件に該当するかどうかの判断から始めなければなりません。
高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障害者雇用納付金を納めるべき企業か判断するためのフローを公開していますが、平成31年度分は執筆時点でまだ公開されていませんので、平成30年度分を基に解説します。
- 〈障害者雇用納付金の納付義務の判定フロー〉
- 1. 常用雇用労働者数を以下の期間と計算でカウントして、100.5人以上の月が5か月以上ある
【期間】平成30年4月~平成31年3月
【カウント方法】短時間以外の常用雇用労働者数+短時間労働者数(0.5人でカウント) - ▼
- 2. 雇用する障害者の人数が、法定雇用率以上の人数に足りていない
- ▼
- 3. 常時雇用している労働者の数が200人以下の月が8か月以上ある
- ▼
- 4. 「1」と「2」の両方に該当していて、「3」がYESなら法定雇用障害者数の不足1人につき「5万円」。NOなら1人につき「4万円」
フロー自体はさほど難しくないかもしれませんが、分かりにくいのが以下3つの定義や意味です。
- 常用雇用労働者数
- 短時間以外の常用雇用労働者数
- 短時間労働者数
これらの定義もしっかり把握しないと正しい申告ができませんので次章で詳しく解説していきます。
「常用雇用労働者」の定義と具体的な例
まず常用雇用労働者数の定義ですが、「雇用契約の形式に関係なく、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者」で、以下に当てはまる労働者と決まっています。
a. 雇用期間に定めなく雇用されている労働者
b. 一定の雇用期間を定めて契約している労働者で、雇用から1年を超過している、または1年以上継続して雇用される見込みのある労働者(契約更新含む)
※「a」は一般の正社員を指しており、雇用契約をする前提での試用期間中の場合も含みます。「b」は主にパートやアルバイト、契約社員や派遣社員が該当します。
他社に籍があって出向という形で企業に勤めている場合はどうかというと、これは出向先企業が出向者に対して給料を支払っていれば、出向先の常用雇用労働者と見なされます。
逆に、他社に出向中だが給与を出向元が支払っている場合は、出向元の常用雇用労働者になります。
また、会社に休職に関する制度があり、雇用契約はあるものの休職している場合も常用雇用労働者数に含めます。
「短時間以外の常用雇用労働者」と「短時間労働者」の違い
常用雇用労働者の定義をご説明しましたが、その労働者は更に「短時間以外の常用雇用労働者」と「短時間労働者」で分けられます。
ややこしく思えますが、先ほどの常用雇用労働者の定義にあった「1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者」を基準に考えると、以下のように分かりやすくなります。
短時間以外の常用雇用労働者 | 1週間の所定労働時間が30時間を超えている |
---|---|
短時間(の常用雇用)労働者 | 1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満 |
常用雇用労働者以外の労働者 | 1週間の労働時間が20時間未満 |
つまり、1週間の労働時間が20時間未満なら、今回のテーマである障害者雇用納付金に関する雇用者数には関係がないため、考える必要はありません。
20時間を超えていた場合に、30時間以上なのか未満なのかによって、短時間以外の常用雇用労働者と短時間労働者に分けられるのです。
常用雇用労働者、実労働時間が判断しにくいケースに注意
最後に、常用雇用労働者数のカウントルールの補足も踏まえて、「果たしてこれは常用雇用労働者にカウントしてよいのか?」といった判断しにくいケースを解説します。
ここまで解説してきた障害者雇用納付金制度における雇用者数のカウント対象者の条件に、「所定労働時間」という言葉が出てきました。この所定労働時間の意味も重要です。
所定労働時間とは、雇用契約等で決められている「勤務すべき時間」のことで、要は「契約上の勤務時間」であり、「実際に働いた時間」ではないのです。
そうすると、以下のような疑問が湧いてきます。
(1)雇用契約では週30時間以上の勤務となっているのに、本人の体調が優れず週20時間も勤務できておらず、社内の生産性も落ちてしまった。それでも常用雇用労働者に含めないといけないのか。
(2)トライアル雇用」と呼ばれる、正式な雇用前の試用期間を設けた場合、その期間も常用雇用の期間に含むのか。
体調不良で休んでしまったり、試用期間後に本採用につなげるというのは、障害者雇用の現場では十分考えられることです。
これらの疑問に対し、高齢・障害・求職者雇用支援機構の資料では以下のような注意書きがあります。
(1)について
週の所定労働時間と実態の労働時間との間に常態的な乖離がある場合は、実態の労働時間によって「短時間以外の常用雇用労働者」、「短時間労働者」、「常用雇用労働者に該当しない労働者」のどれに該当するかを判断する(2)について
トライアル雇用が終了したあとに常用雇用労働者として受け入れたのであれば、トライアル雇用期間も障害者雇用納付金の申告対象となる
(1)については、所定の勤務時間と実働時間が明らかに違うケースが常態化していれば、実働時間で判断しなさいということです。
「常態的な乖離」とされていて少々曖昧ですが、明確にどのくらいという見解が示されているわけではありません。判断に悩む場合は、直接「高齢・障害・求職者雇用支援機構」に相談してみた方が良いでしょう。
まとめ
冒頭でお伝えした通り、一般のメディアでは今回解説したような判断基準に触れることなく、「100人以上の従業員がいる会社」とざっくりした定義で説明していることがほとんどです。
正確な判断基準を伝えるためには、今回ご説明したような細かな解説が必要となるため、致し方ないことかもしれません。
しかしながら、正確な計算方法を理解せずに間違った申告をしてしまうと、納めるべき障害者雇用納付金に10%の追徴金が上乗せされてしまうため、確定申告等と同じように慎重に判断なければなりません。
もし判断に迷うことがあれば、下記の高齢・障害・求職者雇用支援機構の都道府県支部に問い合わせて確認していただくことをおすすめします。
【参考】高齢・障害・求職者雇用支援機構 都道府県支部
http://www.jeed.or.jp/location/shibu/index.html
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