精神障害者の定着率が低い理由を「業種」「待遇」「支援の有無」別に解説

精神障害者の定着率が低い理由を「業種」「待遇」「支援の有無」別に解説

障害者雇用において最も定着率が低いのは精神障害者というのをご存じでしょうか。

精神障害者の定着率が低い理由は様々で精神障害者の採用を検討する企業にとって悩みの種になっている場合もあるでしょう。

この記事ではあらゆるデータを参考に、精神障害者の定着率が低い理由や定着率をアップさせる方法を解説します。

ご紹介する全てのデータをご覧いただければ、精神障害者の定着率の現状や定着率アップのために必要な考え方が見えてくるはずです。

障害者雇用の実態が分かるデータ!最も定着率の高い業種とは?

精神障害者の定着率は低いと申し上げましたが、根拠がないわけではありません。

高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターが調査した「障害者の就業状況等に関する調査研究」という興味深いデータがあります。

2017年に行われた同調査では、障害別で見た障害者雇用の定着率は1年後に大きな差が出ると報告されています。

精神障害者の定着率が最も低く、就職して1年後の定着率は49%ほどしかありません。

離職率という見方をすれば、たった3ヶ月間で3割以上が1年後には半数以上の精神障害者が離職しているということになります。

ただし、どの業界でも1年以内に半数以上が離職するわけではありません。前述の調査では「産業別の職場定着率」も公表しています。

下のグラフは就職して1年後の精神障害者の定着率を表したものです。なお、データのサンプル数が業種により20~240と差が大きいため参考程度にご覧ください。

農業林業、電気ガス関連業、鉱業採石業はサンプル数が非常に少ないため除外しています。

最も定着率の高い業種は、意外にも数字を多く扱う「金融・保険業」です。

数字を扱うとなれば逆に事務作業が増えるため、事務補助などの比較的簡単な業務が多いということなのかもしれません。

公務における定着率の低さが気になりますが、グラフは2017年のデータを基にしています。

2018年から国家公務員試験の障害者選考で急速な雇用拡大が始まっていますので、実際はデータより高い定着率になる可能性はあるでしょう。

また、最も定着率の低いのが建設業。人手不足が深刻な業界と言われていますが、障害者雇用を上手く活用できていないと言えるかもしれません。

【出典】障害者の就業状況等に関する調査研究

障害者雇用の本音……精神障害者の定着率が低い理由

定着率の低さは離職する人が多いことを意味します。

精神障害者は定着率が低い要因は主に「職場環境」にあるのが一般的な見解ですが、事実として「精神障害者が前職を離職した理由」というデータがあります。

下のグラフは平成25年に厚生労働省の公表する「障害者雇用実態調査」から作成した、「前職の離職理由」の回答割合です。

どれも大きな差はありませんが、精神障害者の離職理由で最も多いのが「職場の雰囲気・人間関係」の33.78%。次いで多いのが「賃金・労働時間」で29.73%。

続く「仕事が合わない」以降の離職理由は、「障害の症状」や「家庭環境」といった個人的な事情がほとんどです。

総合して見ると、職場環境が離職理由だと答えた精神障害者が比較的に多いと言えるでしょう。

では障害者雇用において、精神障害者が望む職場とはいったい何でしょうか。

同じ厚生労働省の障害者雇用実態調査のデータを見ると、精神障害者が会社に対して具体的にどんな点を改善して欲しいと考えているかが分かります。

最も多い回答は「仕事における評価や昇進、昇格」という、労働に対する待遇となっています。

前述の離職理由の調査でも「賃金・労働時間」といった待遇は離職の主な理由になっていました。

つまり、精神障害者の望む職場とは、「人間関係などの職場環境が正常であり、キャリアアップを目指せる職場」が1つの回答と言えるでしょう。

【出典】平成25年度障害者雇用実態調査

精神障害者の定着率は「労働時間」「賞与」「昇給」で大きな差はない

では、企業側は「賃金・労働時間の優遇」や「キャリアアップ制度」などを導入することで、精神障害者の定着率を上げることができるでしょうか。

実は賃金や労働時間、キャリアアップといった待遇の改善だけでは、精神障害者の定着率を上げるのは難しいかもしれません。

最初にご紹介した「障害者の就業状況等に関する調査研究」には様々なデータが掲載されており、「週の労働時間」「賞与・昇給の有無」でも定着率データがあります。

それぞれを1年後の定着率でグラフ化しましたのでご覧ください。

このように労働時間や賞与・昇給の有無で定着率に大きな差はなく、精神障害者が希望している賃金や労働時間の優遇、キャリアアップ制度を満たしたところで、必ずしも定着率アップに繋がらないと言えるでしょう。

また、精神障害者は疲れやすさやメンタル面による体調の変化があるため、労働時間は短い方が良いとも言えます。賞与や昇給制度はあるに越したことはなく、活躍できる場があったほうが仕事にもやりがいを見出せます。

ここまでの解説では「企業として何をしたら精神障害者の定着率が上がるか分からない」と思われるかもしれませんが、実は精神障害者の定着率を上げるには、賃金や労働時間の優遇だけでなく「支援機関との連携」が非常に重要になります。

【出典】障害者の就業状況等に関する調査研究

精神障害者の定着率アップのポイントは「支援機関との連携」と「本人の意思」

精神障害者に関わらず、障害者雇用の定着率アップは支援機関のバックアップがあってこそ実現します。

具体的には「就労前」「就職時」「就労後」の3つの段階で、以下のような支援を検討してみてください。

・就労移行施設などによる就職前の職場見学や職場実習
・ハローワークと就労支援施設の連携による就職時のフォローと面接同行
・就職後に引き続き行われる就労定着支援

先ほどご紹介した「障害者の就業状況等に関する調査研究」では、「就職前訓練」、「面接同行」、「定着支援の有無」による定着率データもあります。

下のグラフは精神障害者の就職前訓練や定着支援などの有無による一年後の定着率です。

ここまで様々な観点から精神障害者の定着率を見てきましたが、企業が精神障害者の定着率を上げるために必要なことをまとめてみましょう。

・職場の雰囲気づくり(社員の障害者雇用に対する理解を深め会社全体で受け入れ態勢を整えるなど)
・働きがいを見いだせる体制づくり(賃金や労働時間の優遇措置やキャリアアップ制度の導入など)
・各支援機関との連携(就労後の精神障害者に対する適切なフォロー体制)
・面接時に本人と会社側の認識を一致させる(プライバシーに配慮して確認すべきことは確認する)

企業はプライバシー保護を優先しなければいけませんので、面接の場面で障害について安易な質問はできません。

しかしながら、障害を開示しているかどうかで1年後の定着率に大きな差が生まれるのも事実です。

なお、面接時に何を確認すべきかは以下記事にて解説しています。

障害者の面接時に必ず確認しておきたい7つのチェックポイント

また、精神障害者の離職率を下げるための更に詳しい情報は、以下記事でも解説しています。

精神障害者の離職率を下げるための10のチェックポイント

障害者雇用促進法の認知度が上がるに連れて多くの企業は障害者雇用のみに注力してしまいがちですが、就労する障害者が長く勤められる職場環境を整えることの方がより重要だと言えます。

今回解説した情報を基に、会社として何ができるか話し合う場などを設けてみてはいかがでしょうか。

【出典】障害者の就業状況等に関する調査研究

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