精神障害者の割引を行っていない鉄道会社が多いのは、ご存知の方も多いでしょう。
身体障害者・療育(知的障害)手帳の所持者への運賃割引はあっても、精神障害者手帳の所持者への運賃割引を実施している鉄道会社は全国的に見ても少ないのが現状です。
この記事では、実際に精神障害者割引を行っている日本の鉄道会社一覧とJRもいよいよ精神障害者割引を実施するかもしれないというニュースを併せてご紹介します。
≫【2023年最新】精神障害者でも割引される鉄道会社一覧!理解は進んだか
精神障害者が割引される鉄道会社一覧
では最初に、精神障害者でも割引される鉄道会社の一覧です。「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会」では、精神障害者に対する交通運賃の割引制度導入について積極的な活動を行っています。
下の表は同法人が運営する「みんなねっと」で公開されている、鉄道の運賃の割引有無一覧から抜粋した割引制度を導入している鉄道会社の一覧です。
北海道 | 札幌市交通局、函館市企業局交通部 |
---|---|
青森 | 青い森鉄道、津軽鉄道、弘南鉄道 |
岩手 | 三陸鉄道、IGいわて銀河鉄道 |
宮城 | 仙台市交通局 |
福島 | 会津鉄道、福島交通(飯坂電車) |
山形 | 山形鉄道、高尾登山電鉄(ケーブルカー)、京王御岳登山鉄道 |
茨城 | ひたちなか海浜鉄道、野岩鉄道 |
群馬 | わたらせ渓谷鉄道、上毛電気鉄道、上信電鉄 |
埼玉 | 秩父鉄道、大山観光電鉄(大山ケーブル)、銚子電鉄、千葉都市モノレール |
静岡 | 天竜浜名湖鉄道2018年7月更新、静岡鉄道 |
新潟 | 北越急行、えちごトキめき鉄道 |
長野 | しなの鉄道、上田電鉄 |
愛知 | 名古屋市交通局、名古屋臨海高速鉄道(あおなみ線) |
岐阜 | 長良川鉄道、明知鉄道 |
冨山 | 万葉線、富山ライトレール、あいの風とやま鉄道、富山地方鉄道(鉄道・軌道)、黒部峡谷鉄道 |
石川 | のと鉄道、IRいしかわ鉄道、北陸鉄道 |
福井 | えちぜん鉄道、福井鉄道 |
京都 | 京都市交通局 |
大阪 | 大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)、智頭急行、水島臨海鉄道、岡山電気軌道 |
島根 | 一畑電鉄 |
広島 | 広島電鉄、スカイレールサービス、広島高速交通(アストラムライン) |
山口 | 錦川鉄道 |
高知 | とさでん交通、土佐くろしお鉄道 |
福岡 | 福岡市交通局、平成筑豊鉄道、木鉄道、西日本鉄道、筑豊電鉄、北九州モノレール |
佐賀 | 木鉄道 |
長崎 | 松浦鉄道、島原鉄道、長崎電気軌道 |
熊本 | 熊本市交通局熊本市電、肥薩おれんじ鉄道、熊本電気鉄道 |
鹿児島 | 鹿児島市交通局(鹿児島市電、バス) |
宮崎 | 高千穂あまてらす鉄道 |
大分 | 私鉄なし |
沖縄 | 沖縄都市モノレール(ゆいレール) |
※地域の移動手段以外で使われている鉄道は除外
みんなねっとで公開されている鉄道会社は、全部で170社。うち97社が精神障害者に対する割引制度を導入していません。つまり全国の鉄道会社のうち、精神障害者の割引をする鉄道会社は半分ほどというのが現状です。
では、地域ごとの「精神障害者割引がない」「精神障害者割引がある」鉄道会社数をグラフで見てみましょう。
東京圏、愛知、関西圏は精神障害者割引を導入しない鉄道会社の割合が多く、地方都市圏では積極的に精神障害者割引を導入している鉄道会社が多いのがわかります。
特徴的なのが、東京都の鉄道会社17社中たった3社しか精神障害者割引を実施していない点。鉄道会社も公営、私鉄、第三セクターなど色々と分かれますが、東京ではほとんどの会社が精神障害者割引を実施していないということになります。
【参考】みんなねっと 交通運賃割引
精神障害者手帳で電車賃が割引されない理由
さて、先ほどご紹介した鉄道会社はJR各社も含まれます。JRは「JR北海道」「JR東日本」「JR東海」「JR西日本」「JR四国「JR九州」の6社ありますが、全社で精神障害者割引を導入していません。JR各社が精神障害者割引を行わない理由は何でしょうか。
一般的に言われるのが「割引制度を導入すると他の利用者の料金にしわ寄せがいく」という理由。今まで多くのメディアが直接JRに確認していますが、精神障害者割引を導入しない理由はほぼ同じ回答です。
また、平成26年に開催された「障害者政策委員会」のヒアリングにおいて、JR東日本職員による回答があります。
- 合理的配慮がそもそもどこまでを言うのか
- 首都圏で対応できたことが地方都市では対応できないケースもある
- 以前から要望があるのは認識している
- 障害者割引は国鉄時代から引き継いで行っているため、精神障害者割引も国策として行われるべき
【参考】第14回 障害者差別解消法に基づく基本方針について事業者等からのヒアリング
地方都市で対応できないケースもあると言いますが、前章でもご覧いただいた通り、首都圏より地方都市のほうが精神障害者割引を導入しています。
これまで多くの団体や地方自治体がJR各社に精神障害者割引を導入するよう伝えてきましたが、JR各社は頑なに「国が政策として行うべき」という姿勢を崩していません。
鉄道会社は精神障害を差別している?当事者の口コミ
ここまでお読みいただき、「精神障害者を鉄道会社は差別しているのではないか?」と思われた方もいらっしゃるかと思います。
確かに「差別である!」として声を上げた団体も少なくありません。では実際のところ、精神障害のある当事者はどう思っているのでしょうか。
それと精神障害者だけ除外されているJRなどの障害者割引も、障害者内で差別することのないような制度に改めるべきだと思う。
精神障害者も割引くか、他の障害者も含めて割引をやめるか。
鉄道会社の負担が大きいなら国や自治体が補助、もしくは割引率を下げるなどの方法があるのでは。— とろちゃん (@daita80) December 3, 2019
貧乏だと電車賃の負担がつらい
ますます外に出なくなる悪循環を起こしやすい精神障害者手帳での半額割引は死活問題
JRは半額割引がない#精神障害者手帳 #手帳割引— みらいのリスト@発達障害の社会活動 ★2月22日、東京で講演会→心のつばめ会★ (@mirailist) November 11, 2019
JRは障害者割の中で精神障害者だけ何故か対象外にして差別してくるからあんまり好きじゃない
経済的にも身体障害者より精神障害者の方が収入低いから合理的差別にならないんだよな— エヌユル (@ncaq) December 1, 2019
精神障害者差別企業のJRを出来るだけ使わずに済むように、長距離の移動については、飛行機(精神障害者も割引対象に加わった)か、高速バス(これも、精神障害者差別企業のケース多いが)を使うようにしてます。
今度の冬も、精神障害者差別企業のJRを使わずに、飛行機で東京行く予定です。
— ゆき@S/O卵精巣性性分化疾患、視床下部不全 (@yukilumi) November 25, 2019
JRは、身体障害、療育手帳所持者には割引があるが、精神障害手帳保持者には割引をしない。なぜかと問い合わせをしたら「国鉄時代に国土交通省と決められた」と、わけのわからない返事をされた。JRは民間じゃないの?
— けいぴゃん🎪𝕜𝕖𝕚𝕡𝕪𝕒𝕟 (@keipyan) January 9, 2010
他のSNSなど見ても、精神障害者の割引制度がないことを「差別だ」とする投稿はあっても、「差別ではない」とする投稿はほとんど見受けられません。
世間の声を第三者視点で見た限り、「鉄道会社が精神障害者割引を導入しないのは差別」という意見が大多数と言えそうです。
JRに精神障害者割引が加わる可能性!国会に出された請願と進捗
ただし、2019年の国会で大きな動きがありました。第198回の国会において、精神障害者の交通運賃割引に関する請願書が採択されたのです。
【出典】みんなねっと
国に請願書を提出したのは、最初にご紹介した「公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会」。以前から精神障害者の乗車運賃割引を導入すべく積極的な活動を行っている団体です。請願書に記載された内容を抜粋してご紹介します。
- 障害者にとって公共交通機関は必要不可欠である
- 障害者基本法では、精神障害者も障害者としている
- 障害者差別解消法では、差別の解消を宣言している
- JRを始めとした公共交通機関の運賃割引を精神障害者にも適用されるよう、国による措置を強く求める
請願書が採択されれば内閣に請願書が送られ、内閣にてどう対応するかが決定されます。
ただ、請願が内閣に送られたからといって特別な効力や実効性、強制力はありません。あくまで請願書による国民の意見を国が認知したという範囲に留まるのが現状です。
とはいえ、国に出される請願書が国会で採択される確率は数%しかないと言われる狭き門。請願書が採択されるのと不採択になるのとでは、雲泥の差があると言えるでしょう。
では、請願書は現在どのように処理されているのでしょうか。請願書の処理報告を所管する国土交通省は以下のように回答しています。
- 精神障害者の乗車運賃等割引は、事業者に対し理解と協力を求めてきた
- 精神障害者割引を実施している事業者は増加傾向である
- 引き続き事業者に幅広く周知するなど精神障害者割引について理解と協力を求めたい
まだ少し後ろ向きな姿勢が感じられるのは正直なところで、全体の半分ほどの鉄道会社しか精神障害者割引を導入していないのが現状です。
社会的に精神障害者の運賃割引は必要だという声は非常に多くあります。鉄道各社が精神障害者に対してどういった配慮を行うのか、また精神障害者割引に対する考えをどう示していくのか。これからの動きに注目していきたいところです。
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