「統合失調症という病名は聞いたことがあるけれど、実際にどんな病気なのかはよくわからない」と思っている方も多いでしょう。統合失調症とは、心や思考がまとまりにくくなる精神疾患です。妄想や幻覚に悩まされるほか、感情や社交性が失われることで、日常生活に支障をきたします。
(参考:統合失調症 | 新宿うるおいこころのクリニック )
統合失調症には主に2つのタイプの症状があります
- 陽性症状:妄想や幻覚など、外から見てもわかりやすい症状
- 陰性症状:感情の障害や社交性の乏しさなど、一見してわかりにくい症状
今回は、この中でも「陽性症状」に焦点を当てて解説します。
陽性症状とは
陽性症状とは、統合失調症の中でも目に見えて現れる症状のことを指します。これらは急性期に出やすいと言われています。
治療や服薬が遅れると陽性症状は長引きやすく、社会生活に適応するのが難しくなります。しかし、早期発見・早期治療を行うことで、症状の期間を短くし、悪化を防ぐことができます。
代表的な陽性症状
統合失調症でよく見られる陽性症状には、以下のようなものがあります。
※薬物やアルコールなどの作用による症状は、統合失調症とは区別されます。
1.幻覚・幻聴
幻覚や幻聴は、陽性症状の中でも代表的なものです。
よくある例:
・誰かに監視されている
・盗撮・盗聴されている
・神様やえらい人の声が聞こえる
・自分を追っているスパイがいる
顕著な場合、会話の中で自分が感じている幻覚や幻聴についてはっきりと話すことが多いので、聞いている側もすぐにわかります。
2.妄想
妄想は「現実とは異なる、根拠のない考えや想像」のことです。
以下の種類があります。
・被害妄想:「誰かに何かされた」「嫌がらせを受けた」など
・関係妄想:「道端の会話が自分について話しているように感じる」など
・思考奪取:「自分の考えを誰かに奪われた」など
・思考吹入:「他人の考えが自分に入り込んできた」など
妄想の中には「こんなこと現実にはあり得ない」と思えるような妄想も多く、周りの人が聞くと「これは妄想だ」とすぐにわかるものが多いでしょう。
3.異常な身体動作(カタトニア)
運動機能や行動に異常が見られる症状です。
日本語だと「緊張病」とも訳されます。
よくある例:
・長時間同じ姿勢を保つ(カタレプシー)
・動かなくなる
・興奮して過剰に動き回る
状態がひどくなると、意識障害や発熱、筋肉の硬直がみられることがあります。
この症状は、適切な治療を行わないと、生命に危険をおよぼすこともあるので注意が必要です。
(参考:日本内科学会雑誌第105巻第5号)
4.思考障害
統合失調症の特徴として、思考が一貫しないことが挙げられます。
よくある例:
・話が飛び飛びになる
・話題が次々に変わる
中には、現実と妄想の世界を行き来する人や、現実の中にいながらも妄想の世界がずっと続いているような人もいます。そうした人は、現実と妄想の境界がわからなくなってしまうことがあります。自分でも、どこが現実でどこが妄想なのかが分からなくなっているのです。
陽性症状の事例
40代女性 P子さん 10代から統合失調症
福祉の援助を受ければ、どうにか一人暮らしはできる人です。統合失調症歴は長かったのですが、病気を持っているという自覚(病識)がまったくありませんでした。保健師の勧めで通院はできていたものの、薬を飲むことは頑なに拒んでいました。P子さんは以前、薬を服用したことで体が動かなくなった経験があり、それ以来
「医者から毒を盛られた」
と思い込んでいます。
服薬をしていなかったため、陽性症状がひどくなり、幻聴や妄想が激しい状態になっていました。
P子さんは「白い服を着た人にいつも狙われている。なぜなら、私は総理大臣のスパイだから」と信じて疑いませんでした。
ある日、たまたま白いセーターを着ていた男性が通りかかりました。
その男性に盗撮されていると思ったP子さんは、すぐに警察に通報してしまいます。
ただし、P子さんはずっと妄想の中にいるわけではなく、保健師の呼びかけでふと我に返るときもあります。P子さんは保健師にも同じように警察を呼んだことを話し、「盗撮された」と訴えていました。
それでも、現実的な呼びかけを受けると、P子さんは冷静に対応することができました。例えば、保健師が「今何をしなくてはならない時ですか?」と尋ねると、「役所に手続きに行かなくてはなりません」と答えることができました。
周りの人が現実的な声かけをすることで、P子さんは現実に戻り、対応することができるのです。
P子さんの主な陽性症状は幻覚(幻聴)や妄想でしたが、他にも動きが独特だったり、思考が途中で止まってしまうことがある人もいます。
陽性症状は、薬を飲まないと現れることが多いです。
では、統合失調症の人をどのように治療に繋げていくかについて、お話しします。
統合失調症の治療
統合失調症の治療にはいくつかの方法がありますが、基本的には「薬物療法」が中心です。特に幻覚や妄想が強い場合、薬を飲むことでこれらの症状を軽減できるため、服薬を始めてしばらくすると症状が落ち着き、楽になることが多いです。それでは、当事者がどのように治療を受けるかについて、具体的にお話しします。
1.病院へつなげるには
統合失調症の患者は、自分が病気だと認識できないことがほとんどです。
幻覚や妄想があっても、それが現実だと信じているため、病気に対する認識(病識)がありません。もし病院に連れて行きたい場合、絶対にしてはいけないことは、「本人の言っていることを否定する」ことです。
まずは、本人が抱えている辛さに共感し、「その状態は辛いね」と優しく認めてあげましょう。その後で、「話を聞いてもらうことで、少し楽になるかもしれないよ」といった形で、受診を促してみましょう。
受診を促すポイントは
本人が何らかの症状(本人は症状とは認識できていなくても)で苦しんでいると感じたら、早めに受診を勧めることです。
もし、家族だけで受診を勧めるのが難しい場合は、地域の保健師に相談してサポートをお願いするのも一つの方法です。
2.早期発見・早期治療の重要性
統合失調症は早期発見と治療が重要です。発見が遅れるほど症状は悪化し、他人とのトラブルにつながる可能性もあります。
服薬を始めれば、陽性症状は改善することが多いです。ただし、服薬を怠ると再発のリスクが高まります。
再発を防止するためにも、医師の指示を守ってきちんと服薬を続けていきましょう。
3.薬物療法の進化
統合失調症の治療は、昔と比べて大きく進歩しています。以前は、薬の効果が限られていて、副作用も強かったため、症状が軽くなることは難しいと考えられていました。
約25年前、統合失調症の薬はどれも副作用が強く、眠気や口の渇き、さらには筋肉のけいれんなどが起こることがありました。この頃使われていた薬は「第1世代」と呼ばれていましたが、現在では「第2世代」や「第3世代」の薬が登場し、進化しています。
(参考:フロンティア |抗精神病薬の開発:歴史的証拠から新たな視点へ)
これらの新しい薬は副作用が少なく、以前は就労が難しいとされていた統合失調症の人々も、今では一般の仕事に就けるまで回復することがあります。
最近では、統合失調症の人の中にも、外見や日常生活で病気がわからない人が増えています。やはり、早期発見と早期治療がとても大切だということがわかります。
まとめ
今回は、統合失調症の陽性症状でよく見られる4つの症状と、それに対する治療方法をご紹介しました。
統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」がありますが、陽性症状には薬物療法が効果的です。早期発見・早期治療が、本人の健康状態をできるだけ保つためにはとても重要であることがわかりました。
統合失調症の人は病気に対する認識がなくても、その症状は本人にとって非常に苦しいものです。もし、何か違和感を感じた場合は、本人の気持ちに寄り添いながら、医療機関へと自然に導いてあげることが大切です。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。